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しおりを挟む「大丈夫や。あの魔物は結構見掛け倒しで、そな強ないねん」
平然と答えるイマルの様子からして、その言葉は正しいのだろう。
「聖女さんのお陰で、魔物も大分弱体化してはるし。前より全然楽でっせ」
「……」
聖女の旅は、魔物の脅威を無くす為、発端となった魔王を、騎士や魔法使い、僧侶ーー仲間とともに倒す事ーー。
聖女は、それを見事に叶え、世界を平和にした。
その話は、こんな辺境の村であるヘーゼルにも届いている。
が、流石に、王都カナンより遠く離れたこの場所には、聖女の外見までは行き届いておらず、リーシャが聖女と気付かれることは無かった。
「ーー待って、イマル兄ちゃん」
銃剣を取り出し、魔物の方へ向かおうとするイマルを、再度、サクヤは止めた。
「サクヤ?」
2人のやり取りを隣で見ていたリーシャも、様子の変わったサクヤに気付いた。
何かを決意した様な、真剣な眼差し。
「僕……魔法、使ってみたい」
「いやいやいやいや!あきまへん!危ないでっしゃろ!」
サクヤの発言を即、魔物に気付かれないよう、小声で否定しまくるイマル。
「で、でも、僕だって折角、魔力を持ってるのに…」
何時までも魔法を上手く扱えず、上達出来ないことに、もどかしさを感じている。
「分かるけどな、上手く使えもしまへんのに、いきなり実践やなんて……」
「?魔物を退治すれば、経験値は上がりますよ」
「「へ?」」
リーシャの言葉に、2人して、呆気にとられた声を出した。
「剣技も、実践すれば格段に経験値が上がりますよね?それと同じです。サクヤの魔法を見ていても、昔は知りませんが、今は大分、コントロール出来ているように思えますし……」
私に怪我させてしまったのは、まさか私が、炎に手を伸ばすとは思っていなかったから。
「サクヤの魔力はとても強いので、自分の家の庭先では、半分しな使えていないようですし、窮屈でしょう?」
やり過ぎて家を全焼させる訳にもいかないし、魔力を出し切る事は出来ない。
それを踏まえて、全焼させない為にも、力を抑え、魔法を扱っていたのは、繊細な魔力のコントロールが出来ていると捉えられる。
「お姉ちゃん……僕の魔力が、分かるの?!」
自分が力を抑えている事を、サクヤは誰にも言った事が無い。
それなのに、感覚的分かる、半分という感覚まで、見抜かれている。
「はい。私は魔法使いではありませんが、回復の魔法は少し使えるんですよ」
「いや言ってよ!!」
「何でそんな重要な事黙ってんの?!」
リーシャの唐突のカミングアウトに、魔物の存在を忘れ、2人とも大きな声でツッコんだ。
『キュルル!!』
案の定、魔物に気付かれ、突進してくる。
銃剣を構え、弾を放とうとするイマルの腕に触れ、止めると、リーシャは笑顔をサクヤに向けた。
「大丈夫ですよ。サクヤなら出来ます」
「!僕…なら…!」
「はい。大丈夫です。失敗しても、ここには頼りになるイマルお兄さんがいるんですから、気を張り過ぎずに、気楽に行ってきて下さい」
「……僕なら……出来る!」
リーシャの言葉を受け、サクヤは迫り来る魔物の前に、立った。
「……気楽に……!行け!炎よ!!」
ゴウッ!と、サクヤの手から放たれる炎が、魔物を覆い包むと、魔物は一瞬で、黒焦げになり、その場に倒れ込んだ。
その光景を見て、パチパチ。と、リーシャが笑顔で拍手する。
「お見事です。素敵ですね」
「……僕が……本当に、魔物を倒したーー!」
サクヤは、目に涙を溜めながら、自分の手を見つめた。
「マジか…」
構えた銃剣を使う事なく、イマルはそのまま銃剣を下ろした。
大変素敵なハッピーエンドーー
「何で魔法使える事最初に言わなかったの?!言ってくれたら、最初からもっと色々詳しく聞いたのに!」
「回復魔法とかそんなん使えるんやったら、もっと楽して金稼げるし、てか、言うてくれたら、普通に狩りもーーて、だから1番最初に魔物狩りに行った時もついて来てたんか?!言わな分からへんがな!」
ーーと満足していたリーシャだが、何故かその後、2人に、魔物の解体作業を見学しつつ、責められた。
「す、すみません。聞かれなかったもので……言わなくても良いものだと思っていました」
「てか、傷治せるんやったら、その火傷もすぐ治せたやろ」
イマルは、ほぼほぼ治りきっている火傷の傷を指さした。あと少しで完治なので、包帯ももうとってしまっている。
「これですか?はい」
そう言うと、リーシャは傷に人差し指と中指を構え、ポウっと、暖かく優しい光を出した。
途端に、直ぐに綺麗に完治する火傷。
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