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 荒波を立てたくない。
 聖女として、立派に生きていく為には、この程度は、些細な事だと思って、過ごしていた。
 聖女は、国を救う、希望の存在。
 決して、弱くあってはならない。涙を見せてはいけない。


 だから、今回も、私の性で荒波を立てないように、揉め事を起こさないように、ただ、我慢して過ごして行こうと、思っていたーー。


「なんやよーわからんけど、カリンの性格は昔っから問題大ありや。でもそれでほっといたら、あいつあのままずっと性格悪いままやろ?それはそれで可哀想やろ」
「可哀想…!」
「せや!あんなに良い親父さんや、怒ってくれる村の人がおるんやから、ちゃんとスパルタでいかなな!」

「……なるほど!そう言う考え方もあるんですね」

 村での小さないざこざと、城の中での問題では、怒られるだけではすまない、大変辛い罰を受けての解雇処分になったりと、スケールは全く違うものだが、リーシャは納得した。

「せやせや。そもそも、最初に言ったけど、やられっぱなしなんて癪やろ?」
「…癪……そう、ですね。嫌……だったのかも、知れません」

 冷たい態度を取られた事。
 慣れていて、何も思わなかったけどーー


「本当は……仲良くなれれば、とても嬉しいな。と、思っていましたので……悲しかったのかも、知れません」


 城での事も、全部ーーとても、悲しかったーー


「まー仲良くなるのは難しいと思うけど、懲りずにちょっかい出して来よると思うから、また何かあったら、我慢せずすぐ言いや」

 リーシャの家の前まで着くと、イマルは踵を返した。
「ほなまたな」
「はい。今日はありがとうございました」
 頭を深く下げると、イマルの姿が見えなくなるまで、リーシャは見送った。



「……好きって、言ったら駄目なんですよね」
 言いそうになったけれど、ちゃんと口を閉ざした。

 執拗い女は嫌われる。

「嫌われたく、無いです…もんね…」

 誰かに好意を持ったのは産まれて初めてで、これが初恋。


 どこかの噂話で、小耳に挟んだのは、初恋は実らない。

 (私の恋は……実らないのですね……)



 それは決して確定事項の事では無いのだが、リーシャは噂話を信じ、落胆した。


 (でも……口に出さなければ、嫌われ無いですし……)

 好きになってくれなくても、傍にいたいと、そう、思ってしまったーーー。


「…嫌われないように、頑張ります!」


 リーシャは新たな決意を胸に、家の中に入った。







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