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しおりを挟む「ほな。お言葉に甘えて、お茶だけ頂くわ」
リーシャの誘いを承諾し、家の中に足を踏み入れーーーその瞬間に、足を踏み入れた事を後悔した。
「何やのこの惨状はー!!!」
ぐちゃぐちゃに散乱された荷物に、埃やゴミの溜まったタンスや机の上、びちょびちょに濡れた床。
「えっと……掃除をしようと、頑張ってみたのですが、何処に荷物を直せば良いかな?とか、拭き掃除をしようとしたら、バケツをひっくり返しちゃったりとか……」
「荷物はさっさと整理しぃ!村の人から貰った食器とかでっしゃろ?!これ等は食器棚や!埃もゴミもこんなに溜まる前に掃除せな!バケツの水は早く拭き!」
休憩の為に訪れた筈が、気付けば、イマルは室内の清掃に尽力した。
数時間後ーー。
イマルの尽力により、ピカピカになった室内で、疲れ果てたイマルと、またもお世話になったリーシャは、椅子に向かい合って座っていた。
「本当にありがとうございます」
頭を深々と下げお礼を言う。
「ほんまやで!もっと感謝されても良いはずや!」
朝、何となく気になって様子を覗きに来ただけのつもりだったのが、がっつり関わってしまい、時刻はもう昼を回った。
「あかん。お腹空いたわ」
「えっと、山菜ならありますよ」
リーシャはそう言うと、先程、きちんと整理した棚に置いた山菜一式を持って来て、イマルに見せた。
「なんなん?使ってえーの?」
「はい。是非」
リーシャに料理をして貰う気は初めからさらさら無いので、イマルは持って来た山菜を直ぐに手に取った。
「てか、山菜だけなん?肉とか魚とか買って無いん?」
「……買う?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い沈黙が、部屋を包んだ。
「え、待って。昨日、山菜採りに行ってんよな?」
「はい」
「沢山採ったら、なんか、引き取って貰えて、お金貰える言うてなかった?」
「はい!初めて自分でお金を稼げました」
嬉しそうに答える。
「それは良かったな。ってそうじゃなくて!それやったら、肉とか魚とか、必要なもん買わへんの?!野菜しか食べへんとかやないやろ?!前、肉食べとったもんな!」
「食べます。けどーー」
「けど?なんや?」
「……買い物……ですか?」
気に慣れないような言葉を口にする様に、首を傾げながら、イマルに尋ねる。
「まさかやけどーー買い物、した事無いんか?」
「はい。えっと…お金が必要?なんです。よね?」
聞いた事はあるけど、詳しくは知りません。みたいなテンションで、質問してくる表情は、真剣そのもの。
正直、買い物なんてした事は無く、何となく……話に、聞いた事があったり、遠くで見ていた事がある。程度。
身の回りの必要な物は、全て周りの人達が揃えてくれていたし、買い物に行く必要が今まで無かった。
「買い物もかーー!!!」
出会った時から生活能力が皆無だとは思っていたが、まだまだ知らない事が沢山あるリーシャに、イマルは頭を抱えながら、叫んだ。
「お肉とか魚を食べたければ、前の様に調達しないといけないと思っておりまして」
トコトコと、イマルに連れられ、並んで歩く。
「前は金無いと思ったからや。狩りに出てる奴等が、普通に肉屋で売りさばいてるかや、狩りに出れへんもんは、そこで買うんや」
「そうなんですね」
「逆に、あんたが採った山菜も、山菜採りに行かへんもんが、野菜屋で買うんや」
「わぁ…相利共生ですね」
「なんて??」
難しい言葉の意味が分からず、イマルは聞き返した。
「おばちゃーん」
外観は普通の一軒家のようだが、庭に回ると、肉屋と書いた暖簾があり、1人のおばちゃんが店番をしてた。
「イマルかい。何だ?肉でも持って来てくれたのかい?」
普段イマルは狩る側らしく、店番のおばちゃんはイマルの顔を見るなり、そう尋ねた。
「ちゃうちゃう。今日は客や。俺じゃなくて、こいつがな」
イマルはそう言うと、後ろに控えていたリーシャを指した。
「おや。確か、この前引っ越して来た子だね。こんな辺境のド田舎に引っ越してくるなんて、ほんま酔狂な子やって皆で話してたんよ」
「な?俺だけが思ってる訳ちゃうやろ?」
ここに引っ越して来た時にイマルにも似たような事を言われたが、そんなに、ここに引っ越してきた事が不思議なのか。
「初めまして。リーシャ=ルド=マルリレーナです。リーシャとお呼び下さい」
「こりゃご丁寧にどーも。私は肉屋のマルシェだよ。宜しくね」
マルシェと呼ばれたのは、ふくよかな体型の赤毛で、見目50代の明るい、肝っ玉母さんのような女性だった。
「今日は何か仕入れとぉ?」
「ああ。今日は豚の魔物の肉があるよ」
狭い村では、皆が顔見知りで、マルシェとイマルは、仲良さそうに会話をしていた。
「それでえーか?」
「はい」
「……何。イマル、遂に好きな子でも出来たん?」
リーシャとイマルを見ながら、からかう様にニヤニヤと尋ねるマルシェ。
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