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しおりを挟む村娘生活5日目ーーー。
「おはようございます、イマル」
「……おはよさん」
村の中心の広場で、偶然ばったりと出くわすイマルとリーシャ。
リーシャの手には、何も入っていない籠があった。
「……どこ行くの?」
「山菜を採りに行くんです。いっぱい採って来たら、村の人が買い取って下さるんですよ」
イマルの問いに、笑顔で答えるリーシャ。
「山菜って…それ、村の外に1人で出るって事じゃーー」
「?」
「ーーいや、何もーーあらへん」
続けて出て来る言葉を飲み込み、イマルは足を進めた。
そんなイマルの背中に向け一礼すると、リーシャも、イマルとは反対方向に足を進めた。
「ーーーああ!くそ!!あきまへん!!!」
暫くして、イマルは足を止め、頭を押さえながら叫ぶと、体の向きをグルッ変えた。
「外は危ないって言うてんのに…!」
村の外には、普通に魔物が生息している。
そんな中、1人、リーシャが外に出るとなれば、それはとても危険な行為ーーー。
最悪魔物に襲われ、命を落とすーーー!!
イマルは駆け足で、リーシャの元に向かった。
「リーシャ!!」
「!イマル?」
自分を呼ぶ声が聞こえ、振り向くと、そこには、息を切らし、こちらに向かってくるイマルの姿が見えた。
「どうしたんですか?」
「どうしたんですか?や、あらへんで!村の外に1人で出るのは危険やって話したやろ!」
「はい、聞きました」
「じゃあ何で山菜摘みに1人でーー!」
「1人と違うぞ、イマル」
「え?」
リーシャの周りには、村の住人、数人の男女の姿。
「えっと、今日、皆さんで山菜摘みに行かれるらしくて、私も同行しないかと声をかけて下さったので、是非。と……いけませんでしたか?」
1人で外に出るのでは無く、きちんと、村の人達と一緒に、山菜採りに行く。
「ーーー」
誤解していたのを認識し、イマルは顔を真っ赤にさせ、俯く。
「おーおー。なんじゃー?青春かー?遂にイマルにも春が来たかー?」
「若いってええなぁー」
「ちゃうわ!誤解させる様な言うな!ややこしなるやろ!」
2人の様子を見て、からかいの声を上げる村人達に、イマルは大きな声で怒鳴った。
「心配して下さったんですよね?イマル、優しいから」
「え?ま、まぁ…。死なれたら気分悪いやんか!」
「ありがとうございます」
ぺこりと、丁寧に頭を下げ、リーシャはお礼を口にした。
「なぁーんや。遂にイマルにも春が来たと思ったのになぁ」
「イマルにはまだ早いなぁ」
「黙ってろおっさんども!」
そのまま、イマルは山菜摘みには参加せず、村に戻った。
歩いている最中、去り際にリーシャが小さな声で告げた、お願い事を、イマルは思い出していた。
『良かったら、また、家に遊びに来て下さいね』
あの急なリーシャの愛の告白から3日。
あれから、イマルはリーシャの家に顔を見せなくなった。
今日、偶然、ばったり広場で出会わなければ、もっと顔を合わせなかっただろう。
(いや!行けるかいな!!俺、バッサリ断ってもーてるからな!)
遡る事3日前ーーー。
「好きです。イマル!私と、結婚を前提にお付き合いして下さい!」
「いや!なんでやねん!!!」
自分の人生で最大のツッコミを入れるイマル。
「どうしてですか?」
「いやいやいやいやいや!俺らまだ出会って2日やで?!何なん、そのタイムリーな告白?!しかも結婚を前提にって……!」
「初日ではありません」
「一緒や!そして初日やろーが2日目やろーがそんな大差ありまへん!!」
「恋愛に時間なんて、些細な問題です」
「言うたな?そらー大層な恋愛遍歴をお持ちなんやろな?」
「誰かとお付き合いなんてしたことありません」
「よー言うたな?!」
怒涛のペースで会話を繰り広げる2人。
「イマル、好きになってしまったんです」
再度、リーシャは真剣な表情で、イマルに告白した。
「っ…あんなぁ…」
顔を染めながら、イマルは、リーシャを見た。
その表情は真剣で、嘘を言っているようには思えなかった。
「……悪いけど、付き合えへんわ」
「何故ですか?」
「何故?!いや、そんな、まだ会ったばっかやしーー」
「これから、私の事をもっと良く知って下されば、お付き合いして下さいますか?」
「意外とグイグイくんねんな!」
ハッキリ断ったにも関わらず、諦めない姿勢を取ってくるリーシャに、イマルは普通に戸惑った。
「いや、そんな保証無いし…」
「では、少しは可能性は有りますか?」
「ーーーあーあ!もお!俺は!歳上が好きなの!歳下は恋愛対象外やから、絶対好きにならへん!!!」
イマルは大きな声で、2度目の断りの言葉を口にした。
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