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 村娘生活2日目ーーー。



「んっ…眩し…」
 カーテンの付いていない家で、朝日が直に入り込み、リーシャは眩しさで、目を覚ました。

 昨晩は床に寝袋を引き、そのまま眠りについた。
 じーーーっと、ファスナーを引き、寝袋から出て、んー。と、背筋を伸ばす。


「誰も起こしに来ない……!」

 お城でも冒険に出ていた時も、必ずメイドが起こしに来て、目を覚ましていたので、誰も自分を起こしに来ない事に、リーシャは深く感動した。

 鼻歌交じりで蛇口を捻り、昨日、イマルが持って来てくれたコップに水を入れ、飲む。

「美味しい…!」

 川から流れる水を引いていると聞いていたが、綺麗な水は、味も美味しい。
 ごくごくと一気に飲み干す。


「さて、今日は何をしましょう…」

 リーシャの持って来た荷物はとても少なく、大き目のボストンバッグが1つだけ。
 中身を開け、綺麗な水晶を取り出すと、近くの小棚の上に置いた。


「…うん。素敵」
 リーシャは満足そうに、人生で初めて、自分の手で飾ったインテリアとなった水晶を眺めた。





「リーシャはーん!大丈夫?生きてるかー?」
 ドンドンっと、玄関をノックする音と、イマルの声が聞こえる。


「はい。お陰様で、生きております」
 扉を開け、イマルを出迎える。

「ホンマに心配になるわ」
 昨日の様子だけでも、生活レベルが皆無だと分かる。
 そのまま中に入ると、イマルは先程リーシャが飾った水晶に気付き、目を止めた。

「へぇー綺麗な水晶やなぁ」
 一言、感想を述べ、近付くと、まじまじと水晶を見た。

「……綺麗、ですか?」
「おお。めっちゃ綺麗やと思うで。こんな田舎の村には、こんな綺麗な水晶なんて無いし、良いとこ飾ってるやん」
 その、イマルにとっては、何気無く言ったに過ぎない賞賛の言葉に、リーシャは、とても嬉しそうに微笑んだ。




「ーーーで、これ、何?」

 リーシャが昨晩使用していた寝袋を指し、尋ねるイマル。

「寝袋です」
「見たら分かる!これで昨日寝たんか?!」
「とても暖かいのですよ。思ったより寝心地悪く無くて、とても良かったです」
「そら良かったなぁーーじゃなくて!何でやの?!ベットは?!あったやろ?!」

 詰め寄るイマルの言葉に、リーシャは、んー。と考える素振りをした後、口を開いた。

「2階にあったのですが、シーツの付け方が分からなくて…寝袋なら、中に入って寝るだけで良いと聞いたので」


「昨日折角洗濯しといたのにーー!付け方か!!」
 イマルは悔しそうに叫んだ。





 2階に上がり、シーツの付け方をレクチャーした後、2人は再度1階のリビングで、椅子に座った。


「リーシャはん、ほんまに大丈夫?!ちゃんと生活して行ける?!」
「初対面にも関わらず、大変お世話になり、本当になんとお礼を言ったら良いのか……」
「うん、それはそーや!お世話してる!でもそれは最早問題じゃない!それよりも心配が勝つわ!!」


 出会って1日で、掃除、洗濯、ベットメイキング!
 基本的な事を教え、手伝っているこの現状に、リーシャのこれからの生活が心配でしかない。

「まだまだ不慣れですが、少しずつ慣れていければと思っております」
「向上心は素敵やけどなぁ…大体、引っ越してくるゆーのに、自分の荷物はほぼ無いし…」

 城から出る際、殆ど、荷物を持たせてくれなかった。大切な思入れのある物は特に無かったので、問題は無かったけれど。
 所持金も僅かしか頂けなかったので、ここに来るまでの道中、必要な寝袋や食料を購入したら、所持金はほぼスッカラカンになった。
 寝袋は、そんな中手に入れた物。


「私自身の物は、殆ど有りませんでしたから」
 身の回りにあったのは、高価な服や装飾品。それも全て城から頂いた物だし、私の物では無い。
「何それ。なんや、虐げられてでもいたんか……って」
 そこまで言って、イマルはある事に気付いた。

「リーシャはん、食事どないしてんの?」
 生活能力ゼロのリーシャが、食事の支度が出来るとは思えない。


「食事ですか?えっと、今日の朝、頂いたコップにお水を汲んで、飲む事が出来ました!」
「昨日から水しか飲んで無いんかい!!」


 何故か自信満々に胸を張って答えるリーシャに反して、イマルは頭を抱えた。





***

 辺境の村ヘーゼルの外ーー。



 トコトコと村の外を歩くリーシャとイマル。

「リーシャはん、村の外は危険やねんし、残っとって良かったんやで?」
 後ろから付いてくるリーシャに向かい、怪訝そうに尋ねる。

「私の為に食材を狩りに行って下さるのに、お1人で行かせるなんて出来ません」
「……一緒のが手間かかるんやけど……まぁもおええわ」


 歩いている足を止め、イマルはリーシャの頭を押さえて、一緒にしゃがませた。
 シーと、指で静かに。と合図を送る。

 目線の先には、猪の魔物の姿があった。

 イマルは慣れた手付きで、武器である銃剣を猪に向け、標準を合わせた。


 ーーーパンッッッ!!!と、乾いた音がし、銃口は見事に命中し、猪の魔物はその場に倒れた。


「調子ええなぁ。この魔物の肉、上手いんやで」
 そう言って、手馴れた様子で、肉を取り出す為の解体作業を行う。
 その様子を、リーシャはじー。と見つめた。


「……目、逸らさへんねんな」
 都会暮らしのか弱い女の子は、生き物の解体シーンはグロくて見られないと悲鳴を上げると思っていたイマルは、一切、目線を逸らさないリーシャに、少し驚いた。

「した事はありませんが、見慣れてはいますから」
「見慣れてる?なんや、実家は肉屋でもしてんのかいな」


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