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それぞれの進む道
後日談 各々視点②
しおりを挟む「ほっほっ。仲良しな親子ですなぁ」
2人の様子を見た街長が、笑顔で感想を述べる。
あれから、カトレアは正式にジュンを国の魔法使いにスカウトしたが、ジュンはそれを断り、ケイと共に、紅の魔法使いとして、館に留まる事を選んだ。
ケイの過去の冤罪は綺麗に晴れ、王宮は改めてケイに謝罪を申し入れた。ケイはそれを、カトレアに免じて、受け入れた。
「親子だってジュン君!俺達本当の親子に見えるのかなー?俺、随分若いパパじゃない?」
「本当の年齢、今、何歳だよ!」
エルフで有り、長命であるケイの外見は、数百年前から変化していない。
無事に仕事の依頼を終え、依頼の報酬である大量の酒瓶を両手に、ワープゲートに向かう2人。
「……ジュン君、ジュン君も、俺に遠慮しないで、館を出ていいんだよ?」
汚名が晴れ、無罪放免になったケイもまた、王宮での魔法使いに戻って来て欲しいと誘われたが、それを断った。
『俺はね、地位とか云々、心底どーでもいーんだよね。ただ自分の食い扶持を稼げて、のんびり昼寝して、のんびりお酒飲んで、ご飯食べて、のんびり過ごせたらそれで満足なの』
だからこそ、己の地位の確立の為、他人を蹴落とす人間達に、心底嫌気がさした。
森に引き籠もり、長い長い時間を、1人で過ごした。
奴隷だった幼い少年2人が、マドローナから逃げ出し、森に逃げ込むまではーーー。
人間との関わりを放棄し、問題を放置した性で、同じ紅い瞳を持つ者達が、迫害される事になった。紅の瞳の差別の原因は、自分にもあると、2人を拾ってからは、余計にそう思うようになった。
人間が許せない。
でも、クラとジュンは、自分達を人間では無いと線を引いていたが、彼らもまた、人間だ。
人間にも、好ましい者達がいる。
キリアが増えて、余計に、家での生活が楽しいと思うようになった。
1人で過ごしていた時よりも、何倍も楽しい。
(寂しいけど……背中を押してあげなきゃな)
いつか、彼等が巣立って行く事は覚悟していた。彼等は優秀な、神に愛された紅の瞳の持ち主。いつまでもここに留まって良い存在じゃない。
「ーーー俺がでていったら、師匠、好きなだけ呑んだくれて過ごすつもりだろ」
「え?」
「誰が出て行くか!師匠の好きにさせねーよ!」
ケイの言い分を拒否し、スタスタと歩き続けるジュン。
「いや、そりゃー飲んだくれるけどーーって、違うよジュン君?!俺はジュン君のためを思ってー!」
「俺も、こーやって自由気ままに、受けたい依頼だけ受けて、自分の食い扶持稼いで、後はのんびり過ごすって生活が気に入ってんだよ」
「いーの?ジュン君なら、歴史に名前を残せる、偉大な魔法使いになれるのに」
ジュンの攻撃魔法の威力は、凄まじい。更に、特殊魔法の闇まで使える。
「俺はそんなん興味ねぇ」
彼もまた、地位に固執するタイプでは無い。それにーーー
「……俺は、師匠と一緒にいるよ」
ジュンは、自らの意思で、ケイと一緒に、紅の魔法使いの館で、暮らす事を選んだ。
「ジュン君ーー!!!」
「うぐっ!おい!抱き着くな!うっとおしい!」
感激のあまり、ジュンの首に抱き着くケイ。
2人はそのまま、いつもの様に、小競り合いをしながら、仲良く自分達の家に戻った。
王都ーーー王の間ーーー。
「本当に行くのか?」
王様は、第7王子であるカトレアに向かい、尋ねた。
「はい。マドローナが我が国の領土になったと言っても、まだ膿は出し切れておらず、逃げ出したマフィアの中には、紅い瞳を奴隷に、人身販売を行っていた輩もいます」
クラとジュンは、元マドローナの奴隷だった。
その彼等からの情報なので、間違いようが無い、確かな情報。
「僕は、昔、紅い瞳のお姉さんに命を救われたようにーーー今度は僕が、悲しんでいる別の誰かを助けます」
最初に出会った時から、面影は感じていたけど、成長したキリアは、日に日に、紅の瞳のお姉さんにそっくりになっていった。
過去に戻ったと言うキリアの話を聞いて、あの時の紅の瞳のお姉さんは、未来から僕を助けに来てくれたキリアだと、やっと気付けた。
(キリア……過去に遡ってまで、僕の命を救ってくれて……本当にありがとう……)
「コホン。ところで、カトレア」
「?はい。何でしょうか?」
何やら改まって話をしようとする王様を不審に思いつつ、尋ねる。
「お前、あの娘とは仲良くやっているのか?」
「……キリアの事ですか?」
「そうだ!そのキリアで間違い無い!で、どうなんだ?!仲良くしているのか?!」
何故、唐突にキリアの事を聞いてくるのか分からない。しかも食い気味に。
「……仲良くしてもらっているとは思いますが……」
「そうか!それは素晴らしい!いいか?!キリアはとてつも無く希少で強い力を持った魔法使いだ!才能に満ち溢れている!」
時間魔法を使える魔法使いは、歴代を探してもキリア以外おらず、強力で希少。自己の意思で自由に発動出来ないとは言え、国の滅亡の危機を救い出す程の力を持っている。
そんな魔法使いの存在を、国としては、決して手放す訳にはいかない。
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