93 / 96
それぞれの進む道
後日談 各々視点
しおりを挟む後日ーーー。
あれから、予想通り、ラナン家は完全に没落した。
ラナン家に仕え、命令通りに、嘘の救助を国に申請した使用人達も、国を危険に落とし入れたとして、何らかの罰を受ける事になった。
敗北したマドローナは、全ての領地を私達の国に明け渡す事になり、今、私達の国は、必死で膿の排除と、立て直しを行っている。数年経てば、マドローナの領地だった場所も、我が国の領地として、綺麗に生まれ変わるだろう。
サウィルンは、裁判にかけられ、今まで暴かれなかった罪も全て表に晒され、残された一生を、日の当たらない小さくボロい牢屋で、1人、過ごす事になった。
現当主である父、母、兄の姿は、未だに見付かっていない。マドローナに引渡しを求めたが、そんな奴等は初めからいなかったと言われた。それが、どんな意味を持つのか、分かってはいたが、それ以上は何も求めなかった。どんな目にあおうとも、それは彼等の責任。
私はと言うと、国を救った英雄として祭り上げられる寸前まで言ったが、猛抗議して、何とか、紅の魔法使いが世界を救った。と、名前を伏せて貰う事で落ち着いた。
ちなみに、時間の魔法の事も、強大過ぎる力は好奇の目に晒される可能性があると、秘密にしてくれた。
ラナン家の裏切りなど、細かい事情は周辺諸国には出回っておらず、マドローナと私達の国では、元からの戦力的にも、私達が圧勝するのは目に見えて分かっていた結果なので、私の時間魔法の事が無くても、不審には思われなかった。
ただ、国内外問わず、紅の瞳の優秀さは周知される結果になった。
「きゃーー!!クラ様ぁー!!!!」
騎士団の練習場。
練習場を囲うようにフェンスがあり、そこには、見学に訪れた国民達で満員だった。皆、騎士達が訓練をしているのを見て、おー!と歓声を上げたり、拍手をしたり。その中で、一際大きな黄色い歓声を浴びているのが、クラだった。
歓声に答えるように、笑顔で観客に手を振るクラ。
きゃーーー!!!と、女性を中心にした甲高い声が上がる。
「ーー何ですか?この見世物みたいな練習は?」
笑顔の裏で、隣にいるアレンにだけ聞こえるように、毒を吐くクラ。
「仕方ないだろう。マドローナとの戦いに勝利し、我ら騎士団の人気が上昇した結果、国民からの強い要望があって、練習の様子を1部公開する事になったんた」
国民からの人気が高まるのは、悪い事では無い。寧ろ、国にとって、支持が集まるのは有り難い話だ。
不満を口にしているが、クラも理解しているから、表面上、笑顔で見学者達に愛想を振り撒いているのだろう。
「良かったじゃないか。元・紅の魔法使いの一員としても、クラが1番人気らしいぞ」
「嬉しく無いけど?」
今や、紅の魔法使いは、国を救いし英雄として名を馳せ、クラは紅の魔法使い出身として、英雄の1人として扱われている。
その上、クラは外見も綺麗に整っているし、表面上、笑顔を絶やさず、礼儀正しく振舞っているので、国民、特に、女性からの人気が高い。
「はぁ……紅の魔法使いの一員に戻ろうかな」
「馬鹿言うな。つい先日、副団長に就任したばかりだろう」
クラの胸元には、副団長の証となる階級章。
「……クラ……」
「!」
騎士団団長である、第3王子ラットが、クラとアレンの背後から、音もなく現れ、2人の体がビクッ揺れる。
「ラット騎士団長……気配を消して背後から現れるのは止めて下さい」
「すまない」
謝罪後、微動作1つせず、クラを見つめるラット。
「……………………」
何か言いたげに、クラを見つめながら、沈黙を続ける事5分ーーー。
「ーーっ!分かってますよ!嘘です!紅の魔法使いの一員にはまだ戻りません!ちゃんと、副団長として、ラット騎士団長を支えます!」
ラットは何も話していないのだが、クラには充分、ラットの思いは伝わったようで、顔を真っ赤にしながら、勢い良く吐き捨てた。
「そうか」
クラの言葉に、ラットは無表情で頷いた。
「……」
(俺には一切分からないんだが…)
その隣で、一切何も伝わっていないアレンは、目と目だけで会話をする二人に挟まれ、気まずそうにただ黙って立ち尽くしていた。
海辺の街コムタ。
「水魔法」
大きな水の魔法を放ち、砂場に乗り上げてしまった船を海に戻すジュン。
「ほぉほぉ。いやー噂に違わず、凄い魔法の威力ですな。流石、紅の魔法使い様!助かりましたわい」
長い髭を触りながら、ジュンに向かい礼を述べる海辺の街コムタの街長。
先日振った雨の影響で、船が座礁してしまったらしく、困った街長が、紅の魔法使いに、船を海に戻して欲しいと依頼したようだ。
「ちゃんと碇でもロープでも縛って固定しとけよ。危ねーだろ」
「いやはや、ごもっともです」
「ねー☆成功したから、これ、貰っていっていーんだよね?」
キラキラした目で、用意されていた酒瓶の数々を前に手を広げるのは、ケイの姿で、ジュンは、苛苛を隠さず、ケイにぶつけた。
「ふざけんなよ師匠!俺に任せっきりで何にもしてねーくせに!」
「えー、だって、空間魔法でそんな大きい船なんて移動させるの、しんどいじゃんかー!それなら、ジュン君がパパッと魔法使って動かすほーが良いって☆」
「ざけんな!」
街長を他所に、言い争いを始める2人。
53
お気に入りに追加
293
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる