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それぞれの進む道
大好きな妹
しおりを挟む小声で会話を挟みつつ、ゆっくりと、マドローナの大群に近付く。
マドローナという国はマフィアの集まり。そう揶揄されていたが、実際、兵士達は煙草を吸ったり、隊列はバラバラで、ぺちゃくちゃと無駄話していたり、国を賭けた戦いに赴くようには全く見えなかった。
戦闘に長けていそうな者達を雇ってはいるみたいだが、大まかな兵士達は、喧嘩慣れはしていそうだが、マトモに鍛錬をしていないような、本当にゴロツキ集まりの戦闘初心者。
その上、彼等には一切、誇りを一切感じなかった。ただ、上の者に命令されたから、金儲けになるから、そんな風にしか見えなかった。
それに対して、王都の騎士団達は、揃いの白銀の鎧に身を包み、隊列をバッチリ揃え、無駄な私語はしない。自らの命を懸け、国を守る強い誇りが見える。
(雇われた者達以外なら、楽勝で勝てそう)
お金で雇われているのは、お金さえ貰えれば何でもする腕利きの人達なのか、強そうに見える。魔法使いもいるし……
でも、それを言うなら、王都の騎士団も負けてはいない。優秀な者達が多くいるーーー騎士団が万全の状態なら、圧倒的に王都の騎士団が勝利していた。
「ラナン家の裏切り者を見付けたら、即、拘束して、ペンダントを奪い取りましょう」
「うん!」
「さて、誰が来てるんだろうね。無能肌荒れ男か、脳みそ空っぽ肉団子女か」
ラナン家の長男か長女。このどちらかが、例のペンダントを持っているはず。
「多分……サウィルンでは無いかと思います」
通常、長男であるユーリが出張るはずだが、カトレアは、長女であるサウィルンの名前を上げた。
「何でそう思うの?」
「ユーリは、前回の失敗で土砂に生き埋めになったりして、結構なトラウマを受けたらしく、家に引き篭り気味になっていると聞いていますから」
ユーリさん放ったらかして騎士団の救助に向かいましたからね。あの後、やっぱり土砂崩れに巻き込まれたんだ…。生死の確認すら忘れてました。自業自得です。
「でも、どうやってサウィルンさんを探す?あんなに大勢の人数相手に、私達3人じゃあ、手も足も出ないよ」
前衛はクラ兄さんとカトレア。魔法使いは私。の、3人だけ。その内、魔法使いの私は、特殊魔法は回復ってゆう、攻撃には向かないタイプ。
向こうには、マドローナに雇われたプロの兵士達もいる……そんな中に、たった3人で突っ込むのは無謀過ぎる。
「ほんと……ジュンがいれば解決するのに」
クラ兄さん、私も同意します。今からでも呼び寄せたい。
「兎に角、見付からないように、裏手に回っーー」
言葉途中に、カトレアは2人の手を引っ張り、走り出した。
「カトレア?!」
「もう見付かりました!走って!」
振り返ると、そこには、マドローナの兵隊と思える数人の姿が見えた。
「嘘ーー!?何で?」
見付からないように、最新の注意を払っていたつもりだったのに、早すぎる!
マドローナ側の魔法使いが、3人に向かい、氷の魔法を放つ。
「っ!炎魔法!」
急いで炎の魔法を使い、相殺させる。
魔法使い……!?どうして?!騎士団の相手をしなきゃいけないはずなのに、何でここにいるの?!
私達を見付けた追っ手達は、本隊とは別に、背後から現れた。まるで、私達がここにいると、最初から知っていたようにーー!
「……どうやら、最初から尾行されていたみたいですね」
「尾行っ?!」
「あの無能一家にそんな知能的な事出来たんだ、凄いね」
カトレアの危険性を予期し、予め尾行する。クラ兄さんは、ラナン家の行き当たりばったり短絡的な行動とは違い、きちんと考え抜いた行動を出来た事に賛辞を述べた。
そんな事言ってる場合じゃないよクラ兄さん!物凄くピンチなんだよ!!
「カトレア様、ここは俺が食い止めますので、キリアと逃げて下さい」
「!やだ!」
クラの提案を即座に拒否するキリア。
こんな敵の本拠地ど真ん中に、クラ兄さんを置いて行くなんて出来ない!
「大丈夫。役立たずがいない方がスムーズに倒せるから」
「嘘!絶対嘘!」
クラ兄さんは確かに強い。騎士団で鍛えられて、もっと強くなったと思う。でも、それでも、こんな状況で、1人で生き延びれるとは思えない!
「……お願いカトレア、キリアを、お願い」
このまま、ここで3人で追っ手を相手にしても、結局は、本拠地からも敵の増援が来て、殺られるのが目に見えている。
「……クラ……!」
「じゃあね、キリア。絶対生き延びて。可愛い僕の妹。大好きだよ」
「やだ!クラ兄さん!!」
言い残すと、クラは走る向きを変え、敵の方に突っ込んだ。
短剣を抜き、1人、敵と対峙する。
「キリアっ!行きましょう!」
グイッと、カトレアに腕を引っ張られ、走る。
嫌!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!クラ兄さん!!!
涙で視界が歪む。すぐにでもクラ兄さんの所に戻りたいのに、それを、カトレアの手が許さなかった。
分かってる。ここで戻れば、3人とも全滅して、クラ兄さんの思いを無下にする事になるーーー!
嫌だ……!クラ兄さん……!嫌……お願い!死なないでよ……!
キリアは、祈るように、願い、無我夢中で足を進めた。
「はぁっはぁっ」
「いたぞ!あそこだ!」
敵の本隊からの増援が、更にカトレア、キリアを追い詰める。
「っ!」
(このままじゃ、2人とも殺られるーー!!)
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