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それぞれの進む道
再会
しおりを挟む「いやぁ。凄いよねー。あのクラ君がだよぉ?自分から人間に教えをこいに行くなんて、成長だよねー」
しみじみと、キリアの作った昼食を食べながら物思いにふけるケイ。
「その人間、そんなに強いのー?」
「強ぇ」
「とても」
ケイの質問を、ジュンもキリアも、肯定で返した。
一目見ただけでも、自分達より圧倒的に強いと分かる。特に、魔法使いなんて、呪文唱えている隙に瞬殺されそう。
「後は……良い人だと思います」
無表情で口数は少ないけど、団員思いで、弟の事が好きで、恩義に熱い人ってイメージ。
「俺にはそうは思えねーけどな」
「ジュン君は人間全部駄目なだけじゃん。成長しないよねー」
「師匠にだけは言われたくねーよ!」
テーブルを挟み喧嘩を始める2人。
この光景にもう慣れっ子なキリアは、1人黙々とお昼ご飯を食べ終えた。
昼食を食べ終え、ジュンはお昼寝へ。ケイは昼酒をしながら、浮かぶ椅子に座り読書。
家事を一通り終えたキリアは、1人、外に出た。
「良い天気」
空を見上げると、今日は晴天。
雨天の山コリカでは基本雨で、それも豪雨で、とても大変な思いをしたので、ホッとする。
(ほんとしんどかったもんね)
あれから、半年しか経っていないのに、紅の瞳の差別がこんなに無くなるなんて、思っていなかった。
『3年前、カトレアの命を救った時から、ある程度、紅の瞳に対して、良い印象を持たせていた布石があるからこその、大きな衝撃になったんじゃない?』と、騎士団に出立する前、クラ兄さんが教えてくれた。
『……紅の瞳の差別を無くそうなんて、自分には何の得も無いのに、よくするよね』
とも言ってた。
クラ兄さんに、私達が紅い瞳の差別を無くそう同盟を組んだ事は伝えて無いし、そう思ってる事も伝えたこと無いけど、勘の良いクラ兄さんは気付いてるみたい。
キリアは、朝の同じように、コトコリカを埋めている花壇の元に行くと、しゃがみ込んで花を見た。
「元気に咲いてね」
ついでにと、花壇には他にミニトマトやら大葉やら、野菜の種も埋めた。
「んっ。家事も終わったし……私もお昼寝しようかな」
今日は依頼も入ってないし、基本自由時間。
元は朝起きて夜寝る昼行性タイプだったキリア。
だが、紅い瞳を人間に見られないよう、基本、夜に活動する紅の魔法使いは、夜行性。
最近は昼の依頼が増えて、昼間起きている事が多くなったとは言え、同じ家に住む他の家族全員は生粋の夜行性。例え朝早く起きても、昼寝を挟んだりして夜遅くまで起きているし、唯一仕事をしていないケイは言わずもがな朝寝て昼過ぎ起きる。
自然と家族に合わせて生活してしまう。
「今1番規則正しく生活してるのってクラ兄さんだよね」
騎士団での生活は、自然と規則正しくなるだろう。
騎士団の本拠地は、王都にある。
「……王都……街、か」
依頼を受けて、街に降り立つようにはなったけど、私はまだ、普通に街を出歩けていない。
(…怖い…)
前の家族の、冷たい態度が忘れられない。人間達の、紅の瞳を見る、怯えた目が、蔑んだ目が、高圧的な目が、忘れられない。
「私は駄目だね…」
こんなにカトレアが頑張ってくれているのに、私は、根本的には、何も変わっていない。人間に怯えている。
考え込んで落ち込んでいると、頭上に影がかかった。
「ーーー何が駄目なんですか?」
「!カトレア!?」
影の主は、思い浮かべていたカトレア本人で、視線を向けると、彼は眩しい笑顔を浮かべてくれた。
「お久しぶりですキリア。半年ぶりですね」
雨天の山コリカの件から、半年ぶりの対面。前回の3年ぶりに比べれば些細な時間だが、久しぶりである事に変わりは無い。
「ど、どうしたの?一人で来たの?」
「いえ。外でアレンが待っていますよ。紅の魔法使いさんのお家には、僕だけしか入室許可が下りていませんからね」
そう。ここ紅の魔法使いの館は、ケイ先生の空間魔法で外部と遮断されており、足を踏み入れるのには、特殊な鍵が必要になるのだが、なんとカトレアは、ケイ先生のお気に入りの限界突破を果たし、紅の魔法使いの館の鍵を渡され、自由に出入り出来るようになった。
カトレアは、綺麗にキリアが手入している花壇に目を向けた。
「大切にお世話してくれているんですね。ありがとうございます」
「…!お、お花の様子を見に来たの?」
褒められた事が照れ臭くて、顔が一気に熱くなる。真っ赤に染まった頬を見られたくなくて、私は、カトレアから目を逸らした。
「それもありますが、少しお願いがあって来ました」
「お願い?また依頼?」
「依頼……とは、また少し違うものになると思いますが、キリア、貴女に関係ある事です」
「わたーーし?」
「あっれーー?カトレア君じゃん!お久ぁーー☆」
カトレアの姿を見たケイが、酒瓶片手に、上機嫌で近寄ってきた。
「お久しぶりですケイさん」
「立ち話も何だし、家の中入りなよー!」
カトレアの背中を押しつつ、ケイはカトレアを家の中に招き入れた。
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