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雨天の山コリカ
幻の花コトコリカ
しおりを挟む「許して…頂けますか?」
捨てられた子犬の様な目を浮かべてこちらを見るカトレア。顔が良い人って本当に罪だな。
「……紅の瞳の差別 (私達)を思っての事なのでしょう?良いですよ、今回は。私も共犯になります。兄さん達には内緒ですよ」
同じ、紅の瞳の差別を無くそうの同志ですからね。
実際、効果は抜群そうですし。
「ありがとうございます、キリア」
一瞬、パァっと明るい笑顔を浮かべたが、カトレアは直ぐに、表情を曇らせた。
「ただ……ユーリが、貴女のお兄さんであった事は、本当に知りませんでした」
「!」
そうでしょうね。私の出生については何も明かしてませんし。ラナン家は私をいなかった者扱いしてましたからね。
「キリアを傷付けると知っていれば、こんな事には巻き込みませんでした」
「あ、そっちの方が駄目です…!
キリアは慌てて否定した。
「除け者はごめんです。……傷付いたりしちゃって、面倒だとは思うんですけど、私も……その、一緒に行動させて下さい」
私は紅の魔法使いの一員で有り、紅の瞳の差別を無くそうの同士です。
「分かりました」
カトレアはこくりと、頷いた。
*****
時刻は夕暮れーーー。
もうそろそろ、幻の花コトコリカ探索のタイムアップが近付いてきた。
「見付かりませんね」
「うん…」
探せど探せど、紅い実のついた花は無い。
数百年見付かっていない幻の花なのだから、見付からないのが当然っちゃあ当然なんだけどーー。
「ありがとうございますキリア。これだけ探索して頂ければ、もう、充分です」
茂みを探索していた手を止め、立ち上がると、カトレアは笑顔をキリアに向けた。
「もう戻りましょう。クラとジュンが心配しますよ」
「…うん」
少しでも待ち合わせ時間に遅れたら、烈火のごとく怒りそうだ。カトレアを。
キリアもまた、探索していた手を止め、立ち上がった。
「…あ」
立ち上がった先には、虹の麓ふもとが見えて、キリアはその場に近寄った。
「綺麗…」
虹の麓ふもとなんて、見た事も無ければ、辿り着いた事も無い、神秘的なもので、キリアは、虹の光の中に、体を入れた。
(見付けたかったな…)
キリアは目を瞑りながら、物思いに耽った。
幻の花コトコリカ。
紅い実のなる、ピンク色の花。その赤い実は、万病を治すと言われている。
(紅…)
紅い宝石にせよ、紅い実にせよ、紅いーー瞳を宿した、私達もーーこの世界で呪われてる色には、強い力があると思ってしまう。思いたい。
(カトレアがこの花を自由研究に選んだのも、紅だから……なのかもしれない)
少しでも、紅の印象を良くする為にーーー。
(私も、何か、力になりたかったな…)
きっと、私がコトコリカを発見しても、何も出来ない。でも、きっとカトレアなら、紅い色の印象を少しでも好意的なものにし、紅の瞳の差別を無くす糧にするだろう。
(同じ同志なのに…私、何も力になれてない…)
虹の光が、徐々に消え行くのを、ゆっくり目を開けながら、確認する。
もうこれ以上は探せない。
諦めて、カトレアの方に足を進めようと、1歩踏み出そうとした所で、先程まで気付かなかった、1本の花が咲いているのを見付けた。
ピンクの花弁をした、まだ蕾の一輪の花。
(あれ…?あんな所に花なんて咲いてたっけ…?)
キリアはゆっくりと、その花に近付くと、しゃがみこみ、花弁に触れた。
「ピンク色の花弁…!カ、カトレア!」
「!」
キリアに呼ばれ、花を見たカトレアは、目を見開いて驚いた。
「コトコリカ…?そんな、まさか本当に見つかるなんてーー」
「これ、コトコリカなの?本当?ちゃんと発見出来たんだね!」
驚愕のカトレアと、無邪気に歓喜するキリア。
カトレアは、持っていたショルダーバッグから、透明の丸い風船のような物を取り出すと、花に向かって放り投げた。
風船の中に土ごと綺麗に入る花。
「何それ…」
「水魔法と土魔法が施された魔道具です。ケイの空間魔法の鞄と同じ様に、魔法の力が掛かった物です」
冒険の時に私達が良く使う鞄は、ケイ先生の空間魔法が施された、自由自在に色々な物が詰め込めるとても便利な道具として、愛用してる。
この風船みたいなのは、魔法の花瓶みたいな物なのかな?浮くし、土も水も潤って、凄く質の良い花瓶って感じがする。
カトレアは浮いた魔法の花瓶を引き寄せると、そのまま、花をじっくりと観察した。
「ーー文献でしか見た事有りませんが、特徴も一致しています。幻の花コトコリカである可能性が高いです。最も確かなのは、蕾が咲き、紅い実を確認する事ですが……」
生憎、花はまだ蕾のまま。
「咲けばハッキリするんだね」
何の成果も無いより、可能性がある方がよっぽど良い。これが本当に幻の花コトコリカで、少しでもカトレアの力になれたなら、本当に嬉しい!
「自由研究の役に立つ?」
「……」
無邪気にカトレアに尋ねるが、当のカトレアは何かを考え込んでいるような神妙な面持ちで、何も返事を返してくれなかった。
「カトレア?」
「!あ、はい。そうですね…」
キリアとは違い、コトコリカかもしれない花が見付かっても、カトレアは喜んでいるようには見えなかった。
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