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雨天の山コリカ

頂上

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 土砂崩れ事件から10日後ーーー。

 雨天の山コリカには、騎士団、他、紅の魔法使いの姿があった。
「土魔法クラーク」
 土の魔法を使い、流れ落ちて来た土砂を退かして行くジュン。
「有り難い!感謝します!」
 その近くには、せっせと手押し車やスコップを使い、土砂を退かす騎士達がいて、ジュンの活躍に手を挙げて礼を述べた。
「……ふん」
 そんな騎士達に返事をする事無く、ジュンはそっぽを向いて、その場を後にした。


 一方、クラは、ラット率いる騎士団と一緒に、魔物の巣の討伐に来ていた。
 結局、土砂はユーリが狙ったような軌道は通らず、魔物の巣は無事で、改めて、クラ含むラット騎士団長部隊が退治に赴いた。
「よーーっと」
 2つの短剣を使い、華麗に飛び跳ねながら、順調に魔物を退治して行く。
「うわっ!」
 が、着地した先の岩がグラッと揺れ動き、体勢を崩した隙を、魔物が襲いかかった。

「ーーー無事か?」
 クラの首根っこを持ち転倒を防ぎつつ、魔物を一刀両断するラット。
「……離して下さい」
 助けられたのだが、助けられた事が不服で、ラットの手を払い除け、自力で立つ。
「助太刀感謝する。強いな」
 口数が少なく、無表情は変わらないが、騎士団長モードだからか、プライベートの時と違い、カトレアの通訳無しでも、何となく言いたい事は分かる。
「嫌味ですか?ラット様に比べれば、僕は弱いでしょう」
 ジュンと違い、きちんと様呼びするクラ。時折タメ口ではあるが、基本敬語を使っているようだ。
「素質はある」
「……自分より弱いのは否定しない訳ね」
 一国の騎士団長だけあって、クラから見ても、ラットの剣の腕は確かで、自分より強いのは明白だった。

「油断するな」
「……了解しました」
 ラットの言葉に、クラは渋々ながらも、頷いた。


 *****

 更に同時刻。山の頂上付近ーーー。

「天気が続いて良かったです。この調子なら、異常気象は治まったとみて間違いないですね」
 カトレアは、晴天となった空を見上げた。

 雨が異常に降り続いた結果、魔物の数が増え続けていたが、天気が落ち着けば、魔物の数はもう増えない。討伐を続ければ、減少が勝つ。

「良かった……クラ兄さん達も、今日、魔物の巣の討伐に行くって言ってたし、ジュン兄さんも、土砂崩れの復旧の目処が今日でつくって言ってた」
 カトレアと共に頂上まで登って来たキリアも、同じ様に空を見上げた。


 あれから10日後。
 当初の予定通り、騎士団は2・3日後には、雨天の山コリカに、山の原状回復と、魔物討伐作戦の為に戻った。
 紅の魔法使いも、それに同行する形で、山に向かい、カトレアの提案で騎士団と協力する事になった。
 勿論、クラ、キリア、ジュン(特に)からは猛反発を食らったが、ラット騎士団長からも『共に』との有り難い一言を頂き、強制的に協力する運びとなった。
 その甲斐あって、本人達は乗り気では無かったが、協力に比例して、成果は右肩上がり。
 10日後には、全ての作業が完了するまでになった。
 因みに、キリア達が拠点としていた空洞は無事で、荷物を取り出す事にも成功した。

 クラは魔物討伐、ジュンは山の復旧作業、そしてキリアはーー
「ここが頂上ですね」
 雨天の山コリカ頂上には、綺麗な虹がかかっていた。

「ここで見付からなければ、幻の花コトコリカは、今回、諦めましょう」
 ーーキリアは、カトレアの自由研究のお手伝い、即ち、本来の依頼を実行していた。
「自由研究の為の過程は充分にとれましたか?」
「ええ。皆さんのご協力のお陰です」

 カトレアの自由研究は、『カトレア様のためでしたら喜んで』と、騎士団も協力し、魔物討伐や復旧作業の合間に、コトコリカを探索してくれていた。
 残す探索場所は、今いる頂上のみ。

「騎士団の方達は、皆、カトレアやラット様の事が好きなんだね」
 話し方や表情、態度で、彼等の忠誠心や敬愛が伝わってくる。
「騎士団の皆さんは、僕が幼い頃からお世話になってる方達ばかりですから」
 依頼に来た時、騎士のアレンも、我々騎士団にお任せ頂ければ。と言っていたから、カトレアの頼みを断るはずが無い。

「……本当に、良い人達……だね」
 心底、そう、思えてしまった。

 初対面こそは、紅の瞳に対して、戸惑いや軽蔑、恐れが見えたけど、今は全く感じないし、感じていた時ですら、彼等はそれを、口には出さなかった。
 遠巻きから悲鳴を上げ、怯えられる事も、ヒソヒソと陰口を叩かれるのも無かった。
 怪我を治した時は、素直に、ありがとう。と、感謝を伝えてくれた。

 (初対面から喧嘩を売ってくる奴等とは大違い)

「キリア達は命の恩人ですからね」
「そう…だね」

 クラ兄さん、特に、ジュン兄さんは、人間に対して好意的な態度をとっていないのに、てか、第3王子で有り、騎士団長であるラットにも不遜な態度で接しているのに、今は優しく見守ってくれて、本当に、私達を、普通の人間として扱ってくれる。
 そんな人間の態度に、クラ兄さんもジュン兄さんも、少なからず、感じる事があるように見えた。


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