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雨天の山コリカ
友達じゃないですか②
しおりを挟む「ラット兄様は恩義を重んじる方です。命の恩人に対して、あれくらい。では、済まされなかったのでしょう」
例えキリア達が慣れていたとしても、軽蔑の眼差しも、陰口も、全てを許さない。
「皆さんの事が誤解されたままでいるのも、ラット兄様は嫌だったんだと思いますよ。だから、ラット兄様は真実を話した。紅の魔法使いの皆さんは、とても良い人達だと伝えるために」
「馬鹿なの?紅の瞳をそんなに簡単に信用していい訳?」
クラは、以前も言った事のある言葉を、カトレアに吐き、それに、カトレアは目をパチパチと瞬きをした後、微笑み、カトレアもまた、同じ言葉を返した。
「友達じゃないですか」
「!」
クラ自身は無意識に同じ問い掛けをしていたのだろう。聞き覚えのある答えが返って来て、気付いた。
「……友達になった覚えは無いけど?」
「まだ努力が足りませんか。では、まだまだ頑張りますね」
冷たく否定されたが、カトレアはめげずに、前向きに答えた。
「あと……あの、何、この部屋?」
キリアは、自分達の為に騎士団が用意してくれた宿の部屋を指し、尋ねた。
自分が今座っている椅子も、高級なのが見て分かる位絢爛で、テーブルも部屋に付いているベッドも、ジュンが我が物顔で足を組み座っているソファも、どう見ても一流品が揃った、豪華絢爛な部屋。
「ラット兄様が用意した部屋です」
「も、もっと普通の宿で良かったんだけど…」
どう見ても高級で、スィートルームレベルの、王族とかが御用達してそうな部屋!
「ラット兄様には、これが普通の宿なんですよね」
流石王族!王子様!庶民の私達とはレベルが違うよ…。
「所で、これからどうされますか?」
一通りのやり取りを終え、備え付けのジュースを飲みながら、カトレアは紅の魔法使い達に向かい尋ねた。
事情を全て把握しているカトレアは、彼等がワープゲートの存在を明かしたくなくて、宿に泊まる事を了承したのを理解している。
冒険道具一式無く、宿に泊まらないのは不自然だと、取り敢えず了承したが、夜中、騎士団が在中している今、警戒する必要はあるが、人目がつかなくなってから、宿を抜け出す事は、闇の魔法を使えるジュンがいる紅の魔法使いには、充分可能。
街から急に姿が見えなくなれば、不思議がられるとは思うが、そこはカトレアに上手くやって欲しい。
「山と騎士団次第かな。騎士団はこれからどうするの?」
紅の魔法使いのプレーンであるクラが尋ね返す。
「2.3日街で休息してから、山に向かうそうです。雨天の山コリカには、薬草目当ての冒険者達も足を踏み入れますから、あのままにしておけませんし、魔物もまだ退治しないといけません」
ああ…。山、爆発と土砂崩れで悲惨な事になってますもんね。山の立て直しもしなきゃいけなくなったし、その状態で魔物の退治もしなきゃいけないし、ユーリさんが余計な事した性で凄い面倒な事になってる…。
「キリア達には大変ご迷惑をお掛けしましたし、これで、依頼完了となっても構いません」
「!」
「勿論、報酬はお支払いします。ご自宅に帰るのも、良ければここで1泊ゆっくりされてからお帰り頂ければーー」
「帰りません!」
「帰らないよ」
「誰がこんな中途半端で帰るか!」
カトレアの言葉を遮り、3人は同時に、帰らない!と意思表示をした。
「ジュンは家に帰るって言ってたじゃんか」
「依頼を途中放棄するって意味じゃねーわ!人間と関わりたくねーから言っただけだ!」
「あ、あの…やっぱり、最後まで依頼は……完遂させたいです」
ギャーギャーと兄弟喧嘩を始める2人を無視し、キリアはカトレアに思いを告げた。
カトレアからの元の依頼内容は、自由研究ーー幻の花であるコトコリカの採取を手伝う事。
どの依頼も、途中で放棄するのは嫌。でも、カトレアの依頼を最後までやり遂げられないのは、もっと嫌だと思った。
「私、絶対に……コトコリカを最後まで探します」
「キリア…」
数百年前から発見されていない、幻の花コトコリカ。見つけ出すのは難しいかもしれないけど、カトレアの自由研究のお役にたちたい。
(それにーーー)
依頼が終われば、また、カトレアに会えなくなる。
彼はこの国の第7王子で、私は、呪われている紅い瞳。気楽に会える関係じゃ無い。
「土砂でめちゃめちゃになったんなら、土の魔法が使える魔法使いがいた方が効率が良いに決まってんだろ!」
「魔物もまだ多くいるんだけど?僕がいないと、前衛がいなくて困るよね?」
しみじみと会話をしているキリア、カトレアの隣で、ヒートアップして行く兄弟喧嘩。
遂には取っ組み合いの喧嘩になりそうな所で、カトレアは兄弟達の間に入った。
「皆さん、ありがとうございます。紅の魔法使いの皆さんが協力して下さるなら、雨天の山コリカの惨状も、早く解決出来る事になると思います」
「「当然!」」
双子らしく、息を揃えて答えるクラとジュン。
結論、紅の魔法使いは、最後までカトレアの依頼を遂行する事。その過程で、ユーリがめちゃめちゃにした山の原状復帰、魔物の討伐を行う事にした。
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