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雨天の山コリカ
土砂
しおりを挟むゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
段々大きく、迫る音。
「うううう嘘だーーー!!!!」
土や砂が崩れ、泥となった土砂が、ユーリ目掛け流れ落ち、その光景を前に、ユーリは大きな声で悲鳴を上げた。
「居た!」
騎士団の元に向かう為、空を飛びながら下を見下ろしていたクラは、騎士団の姿を発見した。
土砂崩れは、ユーリの思惑より道を外れて進み、騎士の何人かが土砂に巻き込まれ、更には、そこを魔物に襲われていた。
「先行くね」
クラはそう言うと、ジュンの手から離れ、地面に落ちた。
短剣を構え、そのまま、騎士を襲う魔物の体を切り刻み、地面に華麗に着地する。
「流石クラ兄さん」
「俺達も行くぞ」
ちんたらしている時間は無い。いつまた、第2第3の土砂崩れが起きるか分からない。
「ラット兄様!」
「…カトレアか?」
地面に降り立ち、ラットの姿を発見したカトレアは、直ぐにラットの元に走り寄った。
土砂崩れの影響か、頭からは血を流し、白銀の鎧は泥で汚れていて、立ち上がれずに、剣を支えに膝まづいていた。
「何しに来た…邪魔だ」
「ラット兄様、一緒に逃げましょう!」
ポツリポツリと、また、雨が降り出す。
「…他の騎士達を優先しろ。俺はもう、歩けない」
ラットの足は酷く腫れていて、骨が折れているのが分かった。
「嫌です!ラット兄様!」
「…あ…怪我してる?ーー回復魔法(リアリテ)」
ひょこっと横からやって来たキリアは、ラットの状態を見て、パパっと回復魔法を唱えた。
白い光とともに癒える傷。
「…馬鹿な…回復魔法だと…?」
自分の体が癒えた事が信じられなかったが、痛みが消え、すんなりと立ち上がる事が出来た。頭からの出血も止まっている。
回復魔法をかけた当人(キリア)は、他にも怪我人はいないかと、直ぐに立ち去り、周りを見渡していた。
「土魔法(クラーク)」
土砂崩れに巻き込まれ、中に埋もれていた騎士達を、ジュンが魔法を唱え、泥から引っ張り出す。
「おい、さっさと逃げろ。また次が来るぞ」
「あ、ああ!本当にありがとう!」
礼を言うと、騎士達はその場から走り出した。
ジュンが土砂に埋もれた人の救出、キリアが怪我をした人の治療、クラが、湧いて出る魔物の討伐。
「よっーーと」
魔物をまた1匹退治し、本格的に降り出した雨の雫を拭うクラの背後から、また、魔物が襲い掛かるーー
「!」
ーーが、それを、怪我が治ったラットが、剣で一刀両断、叩っ斬った。
「我が騎士団を助けてくれた事ーー感謝する」
「……どういたしまして」
背中越しのラットの礼を、クラは素直に受け取った。
「おい!こっちの救出は終わったぞ!」
「怪我人治し終えました!」
順調に救助活動を終えた事を伝えると、魔物を相手していたラットは、大きな声を出した。
「ーー退け!」
ラットの声を合図に、一斉に地上に向かい駆け下りる5人。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
すぐ近くまで迫る地響き。
「あの無能肌荒れ男、本気で絞め殺してやる!」
基本、魔法で行動するジュンは、体力不足が著明。迫り来る土砂から、雨降る中、山を下るのは、苦痛でしか無い。
「今回ばかりは……止めたく無い……!」
キリアもまた同様。魔法使いになるべく魔法に磨きをかけて来たので、体力皆無。
「近くまで来てるよー。ほら、頑張って」
剣士として体力に自信のあるクラは、後ろを振り向くと、特殊魔法の植物の魔法を使い、簡易な壁を作った。
が、簡単に土砂に飲まれ崩れる植物の壁。
「だぁぁ!おい!くそっ!闇魔法(クラーク)!」
今度は、ジュンが闇魔法を使い、土砂を闇に飲み込もうとしたーーが、量が多過ぎて、一瞬で闇を越え迫る。
「ジュン兄さん、絶対諦めて走ったほーがいいよ!」
「ジュン、あと少しなので頑張りましょう!」
キリア、カトレア、クラに励まされつつ、ラットを含めた5人は、雨天の山コリカから脱出した。
「はぁっはぁっはぁっ!」
「流石に……疲れましたね」
迫り来る土砂は、山の麓(ふもと)でやっと止まった。雨も止み、空には太陽が見える。
全員が息を切らせ、その場にへたり込んだ。
「ラット隊長!お怪我は?!」
先に脱出していた騎士団員達が、心配そうにラットに駆け寄った。
「問題無い」
「良かった…!」
あれだけの惨状だったにも関わらず、奇跡的に犠牲者は無し。怪我人も、ほぼキリアが治した。
雨天の山コリカを見上げると、山肌があちらこちら崩れ、痛々しい位、ボロボロになっていた。
それもこれも、全てはユーリさんの性。あれ?そう言えば、ユーリさんと、その取り巻き達の事忘れてましたね…。
「ユーリの姿が無いな」
「あいつは朝から行方が分からなくなっていました。また街にでも行っているんじゃ無いでしょうか」
ラット含む騎士団達も気付いたようだが、どうやらユーリは元から単独行動。サボりも多かった様で、さほど気にされなかった。
キリア自身も、自業自得の彼等の心配をする程、心優しくはなれない。
それにしても……疲れた!これで、本来の依頼は一切手付かずっていう事実が怖い…!てか、この山の惨状で、頂上まで行ける……か?
「紅の魔法使い達よ」
「「「!」」」
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