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雨天の山コリカ
元・家族
しおりを挟むカトレアが言い淀んでいるのを見て、ユーリは気分が良くなり、笑みを浮かべた。
「と、言いますかーー。一応、僕なりの優しさのつもりだったのですが……」
「優しさだと?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。と、ジュンの特殊魔法の闇が、今にも溢れそうなくらい、ジュンの影から出ようともがき、クラの足場からは、大量の植物が根をはり、地面から現れた。
「は?!なっ、何だ、結局、お前等は暴力にしか訴える事が出来ねぇ野蛮な奴等なんだな!いいか?ラナン家長男である俺に手を出せば、ラナン家が黙っていないぞ!」
未だに状況が理解出来ていないようで、ユーリはまた、彼等を挑発したが、既に、ユーリの言葉は彼等に届いていない。
「そうか…お前が、キリアの元・家族か…!」
杖をユーリの方に向けるジュンの目は、殺意さえ感じる。
「なっ?!キリアを知ってるのか?!」
奴隷。と、キリアを妹だと明言しなかったのは、ラナン家に紅い瞳をした血縁者がいたのを、隠していたからだろう。
実は以前のニケの時に出たサウィルンと言うキリアの姉の方は、妹だとペラペラ、ニケに話していたみたいだが、本来、キリアを屋敷から1歩も出さず、屋敷の関係者以外と接点を持たせなかった事から、存在を隠していたのは明白。
「俺達の可愛い妹の名前を口に出さないで貰える?名前を呼ばれただけで気分悪ぃよ」
「妹?!」
クラも同様で、完全にブチ切れている。
「なっなっ、おい!カトレア!早く止めろ!」
流石に身の危険を感じたのか、ユーリは慌てて、カトレアに向かって命じた。
「止めろと言われましても、基本、僕の言う事を聞いて下さる方々では有りませんし、どうする事も出来ませんよ」
「何だと?!お前、こいつ等とつるんでるじゃねーか!」
「正確には依頼主ですが、お二人の大切な妹の事を馬鹿にされては、僕では止める事が出来ません」
以前より、ジュンとクラはキリアを長年虐げてきた元・家族の連中を痛い目に合わせる事を望んで来た上に、今、自分達の目の前で、キリアに対して虐げる発言をした。
目の前で、彼女を捨てたと、自供したのだ。
「ですから、これ以上は喋らないで下さいとお願いしたんです」
はぁ。と、カトレアはため息を吐いた。
「ちょっ!おまっ!ラナン家の長男である俺に傷1つつけてみろ?!親父が許さねぇぞ!」
「権力なんて、命の奪い合いにおいて、何の役にも立たないって知ってる?」
「ズタボロのボロ雑巾みたいにしてやるよ」
彼等は本気だろう。愛する妹を虐げられ、本気で切れている。
「ひぃっ!」
1歩1歩自分の元に近寄ってくる2人に、ユーリは小さく悲鳴を上げた。
「助かる手は一つですよ、ユーリ」
「早く言え!早く!」
カトレアはそう言うと、ずっと頭を押さえ、俯き、顔を隠していたキリアの元に近寄った。
「どうします?助けてあげますか?」
ユーリをボコボコにする為、キリアの元を離れたジュンに変わって、自分の体でユーリから彼女を隠しながら、カトレアは尋ねた。
「助け…無い…」
助けたくない。私は、元の家族が大嫌い。憎んでる。あんなに虐げられてきたのに、どうして、私が助けないといけないの?
「そうですか。では、クラとジュンの事は、助けますか?」
「!あ…」
カトレアに言われて、ハッとした。
私は、あの2人に、手を汚して欲しくない。あんな、最低な人間なんかに。
キリアの表情を見て、助ける。と判断したカトレアは、ニコッと笑顔を浮かべると、キリアの肩を持って、ユーリの前に出した。
「!なっ!お前ーーーキリア?!嘘だろ?!生きてーーたのか?」
「……っ」
兄の声に、ビクリと体が揺れる。呼吸が上手く出来ない。足が小刻みに震えてて、顔を上げられなくて、俯いていたけど、カトレアが優しく肩を支えてくれているから、まだ立っていられる。
(怖い…!)
「キリア。大丈夫ですよ。僕も、君の新しい家族も、傍にいますから」
「おい!どうなってんだよ!何でキリアがお前とーーーてか何だよ新しい家族って!って、おい!いいからこいつ等を止めろ!早く!う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
キリアが心を落ち着けている合間にも、ジュンとクラの殺意は止まる事無く、二人はユーリに殺意を持って詰め寄り、闇や植物の魔法を使い、ユーリを締め上げる。
「キリア、ゆっくりと呼吸をして下さい。大丈夫ーーそう。落ち着いたら、ゆっくりと目を開けて下さいね」
「……は…い」
「うわぁぁぁぁぁ!止めろ!離せぇ!!」
キリアを支えながら三人の様子を見ていたカトレアは、早くキリアを落ち着かせないと、本気で取り返しのつかない事になりそうだなぁ。と、内心焦っていた。
カトレアに宥められ、少しずつ落ち着きを取り戻したキリアは、ゆっくりと目を開け、ユーリの姿を見た。
「ーーえーー」
目を開け、状況を確認したキリアは、数年ぶりに再会した兄どうこうより以前に、今現在の兄達が行っている所業に、目を見開いた。
植物にぐるぐる巻きに締め上げられている体が、闇の魔法で下半身が飲まれていて、ユーリ自身はもう耐えきれずポロポロと涙を流している。
「理解されました?すみません。キリアが止めない限り、お二人を僕では止められないので…」
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