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雨天の山コリカ
ケイの過去②
しおりを挟む「……カトレア様を、どうかよろしくお願いします」
全てを諦めた表情で、深々と頭を下げるアレン。
(う、嘘でしょーーー?!?!?!)
キリアは心の中で思いっきり叫んだ。
*****
「やぁやぁよく来たねカトレア君ー!」
紅の魔法使いの自宅に、アレンから託されたカトレアを連れて帰ると、紅の瞳を全く差別しなかった彼を気に入り、更には、依頼達成後の報酬(酒)を大層お気に召したケイは、カトレアの姿を見るなり、熱烈に歓迎した。
「お邪魔します。ケイ、お久しぶりですね」
ケイ先生には、査定場であった出来事は全て筒抜けなので、カトレアの依頼を、私が受ける事を予想していたのだろう。
「依頼受ける受けるー☆何でも言って☆どんな依頼ー?」
今回、査定場の外に私が出てしまったので、具体的な内容とかは、知らないですもんね。
てか、まだ依頼内容何も話してないのに、受ける事確定しましたよね?いや、受けたから連れて来たんだけど、内容聞いても良くない?ケイ先生は(一応)保護者だから、依頼を断る発言権あるんだよ?
「なら俺達に任せっきりじゃなくて、たまには師匠が依頼行けよ!」
お昼寝から起きたジュンは、軽く依頼を受ける発言をするケイに向かい、怒鳴った。
「無駄だよジュン。もう諦めようよ」
同じく昼寝から起きたクラは、諦めが早く、全てを受け入れたように、テーブル席で遅めの夕食を食べていた。
「カトレアも食べる?」
「わぁ。ありがとうございます」
作っておいた夕食の配膳を行いながら、キリアはカトレアに尋ねた。
「くそっ!寝るんじゃなくて、俺が査定場に行けば良かったー!なら断ってやったのに!」
「それも無駄だよジュン。先生には査定場の様子筒抜けなんだから」
ケイはカトレアを気に入っている。例えジュンが依頼を拒否しても、ケイが依頼を受け直すだろう。
「何で俺が王子だか何だか知らねーが、こんな奴の依頼受けなきゃなんねーんだよ」
カトレアの依頼を受けたくないジュンは、クラと違い、諦め切れずに、愚痴愚痴と文句を垂れた。
まぁでも、ジュン兄さんは人間嫌いだから、基本、どの依頼も難色をつけるんですけどね。
配膳を終えたキリアも、テーブル席に着くと、夕食の席に1人つかず、そっぽを向いているジュンの背中に呼びかけた。
「ジュン兄さん、温かいうちに早く食べよ」
「往生際が悪いよー、ジュン君」
「キリアのご飯要らないの?」
次いで、ケイもクラも追撃する。
「ーー分かったよ!くそ!行けばいーんだろ行けば!」
やっと諦めがついたのか、ジュンはズカズカと歩いて、席に着いた。
「ジュンとクラもお久しぶりですね」
「……そうだね」
「うっせぇ喋んな!」
「こらこらジュン君ー依頼主に乱暴な言葉遣いしないー☆お・し・お・き☆しちゃうぞ?」
「止めろ!わーったよ!」
ここで言うケイ先生のお仕置きを、昔ジュン兄さんはよく受けていたらしいんだけど、私は受けた事が無いので、詳しく内容は知らない。1度クラ兄さんにお仕置って何?と尋ねた事があるけど、『世の中には知らない方が良い事もあるよ』って、はぐらかされた。
「じゃ、依頼内容詳しく教えて☆」
全員が食卓に着いたのを確認して、夕食を取りながら、依頼内容である、幻の花コトコリカを採取する為に、雨天の森コリカへ行く事を話したーー。
遅い夕食を取り終え、暫く各々が過ごし、朝日が見え始めた頃、全員が就寝した。
出立は本日の夜。紅の魔法使いの定石通り、夜に目的に向かい行動する。
皆が寝静まっているはずの朝に、1人、カトレアは起きて、縁側で空を見つめていた。
「寝れないのかな?」
「ケイ」
声を掛けられ、振り向くと、そこにはケイの姿があった。
「そうですね。緊張しているのでしょうか」
「心配ないよー3人はああ見えて優秀だから」
「勿論、それは理解しているのですが……」
「君の計画に巻き込む事になって、申し訳無い気持ちかな?」
「!」
ケイの台詞に、カトレアは驚いて、俯いた顔を上げた。
「君の願いが中々上手くいかない理由も、妨害しているのが誰なのかも、俺は全部知ってるよーーー何故なら、俺も、当事者の1人。だからね」
カトレアの願いは、紅の瞳の差別を無くす事。
「ーー当事者の1人ーーやっぱり、ケイがーーー紅の瞳が差別されるようになった原因ーーーなんですね」
カトレアの台詞を、ケイは否定しなかったーーー。
*****
ーーーその夜ーーー
いつもの冒険の下準備で、ケイ先生の空間魔法がかかった鞄に、せっせと荷物を詰めて行くジュンとキリア。
「あの飲兵衛師匠、今日も見送りにも来ねぇ」
「ケイ先生、昨日……今日か、今日の昼近くまで飲んでたみたいだから」
キリアは、今日の朝5時に寝て、12時に起床した。キリアにしては、冒険前+前日にしっかり休めなかった事もあって、ゆっくりぐっすりと睡眠をとった。
夜を跨ぐと、その日が今日か、昨日になるのか、混乱してしまう。
「いつか絶対にしめてやる…!」
「止めとこうよジュン兄さん」
荒ぶるジュンを落ち着かせながら、2人はせっせと荷物詰めを続けた。
「ーーカトレア、君、剣使うの?」
クラは、カトレアの腰にある剣を指して、尋ねた。
「はい。まだまだ、兄に比べれば全然ですが」
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