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雨天の山コリカ

再会

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 日中、魔物討伐の依頼をこなした後なのもあって、大変眠い。帰って、食事の支度をして、洗濯をして、掃除をして、査定場に来たので、一切寝ていない。

 (昨日の夜寝てれば良かった…)
 ケイ先生の家にお世話になる前までは、日中活動する生活をしていたが、すっかり紅の魔法使いに染まり、夜行性。3人に比べると、まだ起きるのは早い方だが、基本、夜遅くまで起きている。
 (いや、でも、前の家の時は完徹3日くらいしてたし、この程度余裕です!ご飯も食べれるし、お風呂も入れるし、殴られないし、暴言吐かれないし、天国!全然頑張れます!)
 ハードな家庭環境に身を置いていたキリアは、悲しい気持ちの持ち直し方をした。



 ーーーあれから、1度もカトレアさんには会えていない。

 当然だ。彼はこの国の王子様で、私は、ただの庶民どころか、蔑まされている紅い瞳の、魔法使い。
 彼は、また会いましょうと言ってくれたけど、住む世界が違い過ぎるし、二度と会う事は出来ないと思う。

 この森から出るようになったと言っても、行くのは依頼関連ばかりで、街を探索した事も無い私は、この世界の事にはまだまだ疎く、彼の話すら、私の耳には聞こえてこない。

「同志…か」

 最後、彼はそう言って、私の手を握ってくれた。
 会えてはいないけど、彼のお陰で、紅の瞳の地位が、良い方向に向かったと確信出来るし、今も、紅の瞳の差別を無くす為に頑張ってくれていると、自然と思える。

「……もう少しお話しておけば良かったな……」
 後悔しても、もう遅い。

「……よし!」
 パシッと、自分の頬を叩き、眠気を覚ますキリアの目の前を、キラキラした虹色の蝶が横切った。
 虹色の蝶は、ケイの魔法の一種で、依頼主に動きがあった事を示す証。そのまま、蝶が画面の中にダイブすると、画面の映像が切り替わり、別の場所と、依頼主の姿を映した。


『ーーー紅の魔法使いの皆さんには、本来、こうやって依頼するんですね』

 画面の向こうから、懐かしい声が聞こえる。
 それは、つい先程まで、思い描いていた人ーーー。


「嘘ーーーカトレアさん!?」
 画面の先に映るのは、カトレアと、その騎士、アレンの姿だった。

『カトレア様。あまりはしゃがないで下さいね。突拍子の無い行動も控えて下さい』
『分かっていますよ。わ!凄い。見て下さいアレン。きっとあれがケイの魔法で、カメラなる役割をしてるんですよ』
『……はしゃいでますよね?』
 こちらを指差すカトレアと、それを咎めるアレン。

 12歳だったカトレアは、今はキリアと同じ15歳。
 背も伸びて、大人びたけど、昔の面影はしっかりと残っていて、雰囲気も、昔と変わっていない。
 もう二度と会う事は無いだろうな。と、さっきまで記憶を思い返していた人が急に現れて、戸惑うばかり。

 キリアは慌てて椅子から立ち上がり、音声通話石に触れた。
「カトレアさん!」
『!キリアですね?お久しぶりです』
 画面に、笑顔で手を振るカトレアの姿が映る。
「どうして……ここに?」

 王子の立場である彼が、何故また、紅の森に足を踏み入れたのか……

『勿論。お仕事の依頼に来ました』
「い、依頼?また?私達に?」

 そうですよね。ここに来たって事は、紅の魔法使いのポストに依頼を投函したって事ですもんね。でも、そうじゃなくて!どうして、また、わざわざ紅の魔法使いに依頼しに来たのか!って所なんです!

『カトレア様。キリアさん、大変困惑されてますよ』
『どうしてでしょう?』
『そりゃあ一国の王子が、わざわざ軽いノリで民間の魔法使いに依頼に来たら戸惑いもしますよ』

 アレンさんの、紅の魔法使いだから。と、差別しない言い方をしてくれる心遣いが有り難い。でも、そうですよね。普通、王子様って、城にお抱えの魔法使いとかいるんじゃないんですか?いなくても、紅の魔法使いじゃない、もっと優秀な魔法使いに頼めたりしません?何故わざわざうちに???

『キリア達は大変優秀な魔法使いですよ?依頼に来るのは当然です』

 カトレアさんの私達に対する評価が過大過ぎる気もしますけど……

 何にせよ、王子様と、こんな画面越しで会話をしているのも失礼極まりない気がする。
 こちらからカトレア達の姿は見えるが、向こうからは、キリアの声しか届かないようになっている。
 キリアは、前方にある石に全て触れ、魔力を込めた。



 ケイの空間魔法を使い、瞬時に、カトレア達がいる場所までワープする。
「キリア!」
「!これが、空間魔法…!」
 急にその場に現れたキリアを見て、空間魔法を見た事の無いアレンは、驚いた表情を浮かべた。
「……大変、お久しぶりです。カトレア…様」
 今更だけど、王子様なら、様付けで呼ぶのが普通だと気付き、改めてみる。
「急にどうしました?僕の事は、今まで通りカトレアとお呼び下さい」
「いえ、前も呼び捨てにはしてませんでしたけど…」
 ちゃんと、さん。を付けて呼んでました。
「あはは。バレました?でも、本当にそう呼んで頂きたいんです。キリアも15歳でしょう?同い歳ですし、是非、お願いします」

 いやいや、普通に考えて無理じゃない?例え同い年でも、身分差あり過ぎじゃない?国によっては死罪も有り得るくない?


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