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雨天の山コリカ

査定場

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「花を摘む時に汚しちゃったの」
 兄達と合流する前に、水の魔法で泥を落とし、風の魔法で乾かした。でも、衣類の汚れまでは完全に落とせなくて、考えていた嘘の理由を伝える。
「花を摘む時。ね」
「う、うん!」

 クラ兄さんは勘が良いから、いつも誤魔化したりする時はドキドキする。

「早く戻ろーぜ」
 ジュンはそう言うと、この村での紅の森を繋ぐ転送場所となっている1本の大きな木の幹に足を乗せた。そのまま空間魔法が発動し、魔力の発動とともに消える体。
「家に帰ったら、その服、着替えようね」
「うん」
 キリアとクラも、ジュンの後を追って、ワープした。



 あれから3年ーーー

 私は15歳になって、兄さん達は19歳。身長も伸びたし、魔法も、もっと使えるようになったけど、相変わらず、私は紅の瞳を変える事は出来ない。
 変わった事、変わらない事、色々あるけど、1つ大きな変化は、私も、仕事に行けるようになった事。
 カトレアさんの依頼は、兄さん達2人の力を見直すキッカケになったみたいで、まだまだ自分の力が未熟だと思い知り、兄さん達はもっと、魔法や剣技の訓練に励むようになった。
 更に、私がいなかったら、依頼が達成出来なかったと、力を認めてくれて、依頼の同行を許してくれるようになった。

 (お陰様で、引きこもり生活から脱出出来ました)

 兄さん達は元から綺麗な顔立ちしてたけど、大人びて、もっと格好良くなった。ケイ先生はエルフだからか、何も変わらない。

 もう1つ大きな変化は、さっきも上げた、紅の瞳の差別についてーーー。
 カトレアーーー第7王子を救った話は、国中を駆け巡り、生じて、紅の瞳の評価を上げる結果となった。どれだけ依頼をこなしても、ここまで評価を一気に上げる事は、きっと不可能だった。

『計算でしょ?カトレアは、紅の瞳の地位の向上の為に、自分の命を懸けたんだよ』

 1年経った頃位に、クラ兄さんがそう教えてくれた。
 第七王子カトレアを救ったとなれば、それは間違い無く、大きな衝撃となり、噂が広がり、紅の瞳の地位の向上に繋がる。
 だから、彼はギルドに助けを求めず、紅の魔法使いに助けを求めて来た。それで、自分の命が危険に脅かされようとも、私達の力を信じ、自分の命を懸けた。
 紅の瞳の差別を無くす為にーーー。

 それが事実なら、大成功だ。
 紅の瞳のイメージは、昔と比べて、格段と良くなった。依頼だって、最低な依頼も昔と変わらず来るけど、マトモな依頼も増えた。
 変わらず、私達を罵倒する人もいて、その度に、心を痛めるけどーーー

『僕は、紅の瞳の差別を無くしたいと思っています』
『私と……私と一緒に、紅の瞳の差別を無くすのを……手伝ってよ…!』

 カトレアと交わした約束を思い出して、前を向く。
 いつか必ず、彼は、私達の願いが叶うと言った。私は、それを信じたい。

 (……私達のために、命を懸けてくれたんだもの……同士として、私も、頑張らないと)

 私に出来る事は、こうして、依頼をこなして、1歩ずつ、印象を上げる事しか出来ないけど、少しでも、紅の瞳に持つイメージを変えられたら、嬉しいーーー


 *****

 キリアは、1人、夜の紅の森にいた。
 最近は昼間の依頼も増えて、昼に活動する事が多くなったけど、基本、紅の魔法使いが夜行性なのは変わらない。
 依頼の受付は変わらず夜だし、依頼が無い日は、皆、夜起きて過ごしてる。今日は朝方から花畑の依頼があって、今は兄さん達は寝てるけど、依頼に行かないケイ先生は、ずっと夜起きて朝から昼過ぎまで寝る生活を送ってる。

 (依頼も昔と比べて増えたのに、ケイ先生は絶対に外に行かないもんね)

 前迄は依頼主が屑で、断る依頼も多かったけど、最近は真っ当な依頼が来るようになった。
 それでも、ケイ先生が依頼の受付を許可される事は無い。何故なら、折角紅の瞳の印象が良くなったのに、また、ケイ先生が暴走して印象を落とされるのは避けたいからーー!!!
 なら、『魔物の討伐くらいは行けよ!』と、1回ジュン兄さんにブチ切れされてたけど、ケイ先生は『えー、面倒だし、い・や☆』と笑顔で断っていた。

 結果、依頼の受付も出来ず、依頼もこなせず、ケイ先生は家の中でずっと酒を飲んでは寝るぐーたら生活を送っている。

 (ある意味羨ましいけど、少しは外に出たくならないのかな?)

 色々考え事をしながら、キリアは、依頼を受ける場所ーー名称《査定場》である、ケイ先生の作った空間に入った。

 因みに名前は、私が付けました。あそこ。とか、ここ。とか、曖昧に呼ぶ事が多かったので、名前を付けた方が分かりやすい!と、許可を頂きました。
 依頼を受けるか受けないか、査定する場所なので、査定場。安直ですよね、すみません。

 依頼の受付だけなら、危険は少ないので、最近は私1人で行く事も増えた。
 ジュン兄さんはケイ先生よりマシだけど、人間嫌いが発動して、良い依頼主も(口)攻撃してしまう事があるので、魔力の量が足りず、ケイ先生の道具を使えないお目付け役のクラ兄さんとペア。

「ちょっと早く着きすぎちゃったかな」
 画面を見ても、まだ依頼主の姿は無い。キリアは、空洞に備わっている椅子に、腰掛けた。


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