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大切な出会い
罪の身代わり
しおりを挟む「お帰りなさいクラ兄さん。何もーーー無かったよ」
脳裏に、紅い瞳が綺麗だと言われた事などが走ったが、無いと答えた。
ここで言うクラの何も無かった?は、魔物の襲撃とか、ニケさんの襲撃を指すのであって、カトレアに、私の瞳が綺麗って言って貰えたのが、恥ずかしかったけど嬉しかったの!なんて、そんな感想文みたいな事言えない!
(それにーー)
紅の瞳の差別を無くしたい。それを兄さん達に伝えても、兄さん達は、絶対に無理だと、逆に、悲しませてしまう気がした。
「そう?……なんか、顔赤い?熱でもあるんじゃない?」
「だだだ大丈夫!」
心配そうに額に触れるクラに、キリアは慌てて否定した。
「周りの様子はいかがでしたか?」
紅の森を出て、夜を跨いで2日目。カトレアがニケに襲われてから3日目。本当に阿呆でなければ、カトレアが死んでいるかどうかを確認し、失敗したのに気付いているはず。
当然、姿を消したカトレアを探しているだろう。
「……怪しい男女達が複数人、ここら辺を彷徨いてるのを確認した」
カトレアの問いに、ジュンが神妙な趣きで答えた。
「冒険をしてるって感じじゃなくて、誰かを探してるって感じだった……それに……」
クラは、言いにくそうに言葉を繋ぎつつ、キリアを見つめた。
「?何?どうしたの?」
「……偶然か分からないけど、茶色い髪のウィッグをつけてる女がいた」
「茶色のウィッグ?」
嫌な予感がして、キリアは自身の髪に触れた。キリアの髪の色は、ウィッグの色と同じ、茶色。
「私…?私の、性にしようとしてる…?」
彼等の目的は、カトレアを、紅の魔法使いの性にして殺すこと。
「いや、でもお前、外に出た事なんて、4年前の1度きりだろ?それでなんで寄りによってお前がーー」
ジュンも予想外だった様で、戸惑っているのが表情で伝わった。
キリアはこの4年間、1度を除いて、紅の森から出ていない。紅の森でも、他の人間に1度も遭遇していない。仕事で人間の前に姿を現しているジュンやクラでは無く、彼等は、罪の身代わりに、キリアを選んだ。
「私の事を知ってる人なんてーー」
4年前ここに来てから会った人間は、以前の依頼主リクくらいで、後はいない。
前の屋敷でも、軟禁されていて、人間と関わって来なかったーーー家族や、使用人を除いてーーー
「……もしかして……私の…前の、家族がーー私の事を、ニケさんに教えたーー?」
感覚的に、リクでは無いと思った。リクで無ければ、私がこの森にいる事を知っているのは、私を捨てた、前の家族だけになる。
ニケと繋がりのある私の元・家族が、身代わりの題材として、紅の瞳である私の事を話したんだ。
(生きているのを知らないくせに)
きっと、前の家族は、私が死んだと思っているだろう。
8歳だった幼い子供が、1人、魔物のいる夜の森で生き残れるはずが無い。なのに、死んだ私を、身代わりにと差し出したんだ。
(私を捨てて、それでもまだ、私に酷い事をするんだね)
「……安心して、キリア」
「クラ兄さん?」
笑顔でポンッとキリアの肩に手を置くクラ。笑顔だけど、目の奥は笑っていない。
「そいつ等は俺がちゃんと始末する」
「待って!私もムカついたけど、ちょっと待って!」
キレたら、クラも結構攻撃的なのを知っているので、キリアは慌ててクラを止めた。
「始末は駄目!せめて痛い目に合わせるだけにして!」
人殺しだけは駄目!と、必死で説得する。
「ただ殺すだけじゃ気がすまねぇ…!この世に産まれた事を後悔させてやる!」
「ジュン兄さんっ!!」
もっと酷い事言ってる!お願いだから止めて!
「……そうですね、ただ殺すだけなんて、生温いですね」
ずっと兄弟のいざこざを見ていたカトレアが、ジュンに呼応するように声を出した。
「カトレアさん?!」
(嘘でしょう?!カトレアさんも過激派なの!?)と、キリアは耳を疑った。
「前のキリアの家族にとって、1番の復讐は、キリアが幸せになる事です」
「え?私?」
「はい。幸せになって、前の家族の人達に、見せ付けましょうね」
前言撤回。カトレアさんは本当に心の綺麗な人です!少しで良いから、兄さん達も見習って欲しい!
でも、兄さん達の暴走のお陰で、止めなきゃって焦りが先行して、悲しい気持ちが少し飛んで行ったよ。それは感謝。
「くそっ!何にせよ、これで絶対にお前を殺させる訳にはいかなくなった!」
ニケの思惑通りになれば、カトレアを殺した罪を、キリアに押し付けられる事になる。
いや、初めからなんですよ。依頼内容、ジュン兄さん、ちゃんと分かってます?護衛ですよ?護衛!
「どうせなら、阿呆テスト男にも1度きちんと挨拶したいね。可愛い妹に何か用ですか?って」
前から少し思ってましたけど、兄さん達、ニケさんの事を名前で呼ぶ気無いよね?ずっと阿呆テスト男って呼んでるよね。
「僕もーー改めて、こんな所で死ぬ訳にはいかないと思いました。皆さん、どうか、よろしくお願いします」
カトレアは左胸に手を添えながら、丁寧にキリア達に頭を下げた。
「……うん」
「……はぁ。仕事ですから、ちゃんとやりますよ」
「仕方無くな!」
3人はそれぞれ、頭を下げて丁寧にお願いするカトレアに対して、返事を返した。
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