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大切な出会い
休息場所
しおりを挟む「夜の移動は、魔物との遭遇率も高くなるから、僕達から離れないように。後、その阿呆テスト男がいつ手を出してくるか分かんないし、用心して」
クラは、淡々と要件だけをカトレアに伝えた。
1晩経ち、昨日に比べて、愛想は無いが、見た感じは平然を保てているようで安心する。
「分かりました」
「……」
素直に返事をするカトレアに怪訝そうな目を向けるが、何も言わなかった。
「キリア、キリアも基本カトレアと一緒にいてね。魔物とかは僕とジュンで対応するから」
「え。何で?」
カトレアは守護対象だから分かるが、何故自分まで動いてはいけないのかが分からず、聞き返した。
「危ないでしょ?」
「私、もう戦えます!」
紅の森では、魔法の鍛錬と称して、何度か魔物を退治している実績がある。
「駄目だ!我儘言うな」
ジュンも一緒になって、クラの援護射撃を行う。
一緒に仕事に行く事を許可はしたが、それはストッパーとしての役割としてで、危ない目に合わせる気は一切無いらしい。
「ジュン兄さん!クラ兄さん!」
「「駄目」」
双子らしく息ぴったりで拒否される。
慣れ親しんだ紅の森の移動は早く、予定よりも早く森を抜け、平坦な道へ出た。昼間でも冒険者以外、魔物のいる外を出歩く人間は少ないのもあって、夜は勿論、人の姿は見えない。
街灯1つ無く、照らすのは星明かりのみ。ジュン、キリアは光や火の魔法で辺りを照らす事は出来るが、カトレアを狙う存在もいるので、忍ぶため、あえて光を照らさずに移動する。
「よっと」
「炎魔法クラーク」
途中、何度か魔物の襲撃があったが、都度、クラとジュンが手馴れたように短剣と魔法で退治した。
「お2人とも、とても強いんですね」
笑顔で賞賛するカトレア。
「……そうだよ。兄さん達は強いの。私と違って……」
同じ、神様に祝福された紅の瞳(ケイ達の解釈)でも、出来が違う。仕事に連れて行って貰えなかったとはいえ、基本的な魔法をマスターするのに4年かかった私と違い、兄さん達は、ケイ先生に保護された1年後には、2人で依頼を受けていたと聞いた。
『ふざけんな!1年後に師匠がやらかしたから俺等が仕事せざる得なくなったんだろーが!』
『僕達はしたくて1年後に2人で仕事始めた訳じゃ無いよ』
キリアの脳内の思考に、空想のジュンとクラがそれぞれ反発する。
「私は、落ちこぼれなの」
どこに行っても、何をしてても。←前の家族の性で、基本卑屈でマイナス思考が強い。
「キリアも、充分立派ですよ」
「魔法見てないのに、そんなお世辞なんてーー」
「キリアは、料理が上手じゃないですか」
「料理?」
「魔法が全てじゃないですよ。魔法が使えなくても、人には様々な特技があるんですから。例えば、人に優しく出来ること、笑顔が素敵なこと、兄2人に愛されていることーー」
「ーー」
次から次へと、誰かの良い所を述べていくカトレアに、キリアは息を飲んだ。
(ああ。この人は本当に良い人なんだな)
「キリア、疲れてない?休憩しようか?」
「……カトレアさん、疲れてませんか?」
「大丈夫です」
「大丈夫だって」
クラに尋ねられた内容を、そのままカトレアに尋ね、答えをクラに返信する、とても二度手間。
依頼主を放置して私を気遣う意味が分からない。護衛するのは私じゃなくてカトレアさんなんです。カトレアさんに聞いて下さい。
「そろそろ日が明けるから、野宿する場所探すぞ」
通常の冒険者達とは異なる、明け方から休む場所を探すスタイル。普通の冒険者は行動している時間帯な為、出来るだけ人目につかない場所を選ぶ必要がある。
選んだ場所は、平坦な道から離れた、崖の狭間。
「ここなら、ニケにも見つかりにくいし、安全ですね」
大分危険な場所なのだが、文句も言わず受け入れるカトレアは、本当に良い子だとしみじみ思う。断崖絶壁だから、足を踏み外せば真っ逆さまに落ちて地面に叩きつけられて絶望的だし、風は強いし、寒い。
(いや、怖くない?普段兄さん達こんな所で野宿してるの?)
私が声を大にして文句を言いたい。普通に怖い。浮遊魔法が使えるとしても、怖い。寝てる時に落ちたらどうすればいいの?魔法唱えられないんだよ?
「…ジュン兄さん……この場所じゃないと駄目?」
最後の悪足掻きで尋ねてみる。
「駄目だな。ここら辺は平坦な道のりだし、他の場所は目立ち過ぎる。冒険者が通れば冒険者にもバレるし、阿呆テスト男にもバレる」
ですよね。分かってました。普通の冒険者は昼間に移動しますもんね。道の真ん中に昼間から野宿してる冒険者がいたら、何事か?!ってなりますもんね。良い人なら、何かあったのか?!と思って、心配して様子を見に来るかもしれませんもんね。ニケさんにも、目立ったら見付かりますもんね。
「見張りは俺とクラでするから、寝る時は気にすんな」
寝相悪くても助けてくれる?それなら安心ーーーって。
「見張り?」
「昼間にも魔物はいるし、最悪、阿呆テスト男に見付かる可能性もあるーーー夜同様、何かあった時の為に寝ずの番は必要だよ」
私の質問に、クラ兄さんが直ぐに答えてくれる。答えてくれるけど、本当に気になったのはそこじゃない。
「交互って何?何で兄さん達だけで見張り?私は?!」
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