上 下
26 / 96
大切な出会い

何度でも声をかける

しおりを挟む


「俺の魔法も万能じゃないからねー。その場所にワープの空間を作るには、前もってそこに空間魔法をかけて、礎を作る必要があるんだぁ」
 だから、ピンポイントで目的の場所に行くんじゃなくて、街のある一定の場所にワープしてるでしょ?と、ケイは説明した。

 確かに、リクの依頼を受けた時に行った街、海辺の街コムタには、いつも同じ浜辺の場所で降り立っていた。帰りも同様。同じ浜辺の砂場から、ケイの家に帰って来た。

「とゆう事は……王都には、ケイ先生のワープは……」
「無いよ♡」
 自力で、王都までカトレアを送り届ける事が決定した瞬間だった。
「キリアちゃんは人間に好意的だと思ってたのに、さっきからカトレア君を嫌がってる感じだよねー」
「ー!私はーー」

 嫌がっている訳じゃ無い。紅の瞳の差別を無くす為に、仕事に行きたいと訴えたくらい、私は、出来るなら人間と仲良くしたい。その気持ちは、8歳の時からずっと変わっていない。

 (でも……)
 実際、元・家族からだけで無く、他の人間からも、罵倒され、怯えられ、関わるのが怖くなった。カトレアさんは紅の瞳である私に普通に接してくれているのに、私が、どう接すば良いのかが分からない。

「ーーお気になさらないで下さい、キリア」
「え?」
「元はと言えば、僕達紅い瞳では無い者達が、貴女達に酷い扱いをしているのが原因です……仲良く出来なくて当然です」
 ズキンっと、カトレアの言葉に、心が傷付く音がする。
 違う。そうじゃない。仲良くしたいの。仲良くしたいのにーー怖くて、出来ない。
 これじゃあ、私も、人間と変わらない。何もしていないのに怯える人間と、何も変わらない。

「…っ」
「キリア」
 何も言えず俯いているキリアの顔を、カトレアは覗き込んだ。
「僕は、貴女と仲良くなりたいと思っています」
「…仲、良く?」
「はい。貴女が僕を信じてくれるようになるまで、僕は諦めません。絶対に。何度でも、貴女に声をかけます」
「……どれ程キツい言葉を吐いても?」
 ジュン兄さんのように。
「はい」
「……貴方を品定めしても?」
 クラ兄さんのように。
「何度でも」

 どうしてだろう。差別を無くしたいと、頑張ろうと、私の方から、人間に歩み寄ろうと思っていたのに、人間の方から、歩み寄ってくれた。
 傷付いている心を、理解してくれた。

「…あ…」
 ありがとう。そうお礼の言葉を、小さく口に出そうとしたのに、それを描き消す程の騒音が、次の瞬間響き渡った。


「おい!何で人間がここにいやがる?!」
 依頼を終え戻って来ただろうジュンが、険しい顔で、カトレアを怒鳴り付けた。そのまま、杖を出し、カトレアに向かい攻撃魔法をぶっぱなそうとしているジュンの杖を、ケイが空間魔法で取り上げた。
「いきなり物騒だねージュン君」
「邪魔すんな飲兵衛師匠!」
「先生、そちらの人間は一体何なんですか?」
 ジュンと一緒に帰って来たクラが、ヒートアップしているジュンを押し退けて、尋ねた。
「新しい依頼主♡」
「はぁ?!」
「色々とツッコミたい事は山ほどあるけど、とりあえず話聞かせて」


 *****

 何故人間がこの家にいるのか。依頼とは何か?どうして勝手に依頼を受ける事になったのか?

 全く納得のいっていない、敵意丸出しのジュンを何とか宥めつつ、話を全て聞き終えた2人は、キリアに煎れて貰ったお茶を無言で啜った。

「ーーいや!納得出来るか!なんで俺が人間の護衛なんてしなきゃなんねーんだよ!ふざけんな!」
 一息付いた後、また怒鳴り散らすジュン。
「保護者命令♡だよ」
「ざけんな!」

 そうなりますよねー。と、キリアは夕飯の支度をしながら、話を聞いていた。
 人間嫌いなジュンが、常に一緒にいなくてはいけない護衛を喜んで引き受ける訳が無い。ここまでは想定内。

「いいじゃないですか。紅の瞳を差別しない希少な人間なんでしょう?護衛引き受けようよ。いつ化けの皮が剥がれるか見物だし、そうなったら、無事でいられるとは思わないで欲しいよね」

 (クラ兄さん……怖いよ)

 攻撃的な人間以外に対しては比較的、平然とした態度をとっていたクラに期待していたが、キャパオーバーなのか、受け入れなかったようだ。
 クラも、ジュン程人間嫌いを表に出さないが、人間を好きでは無いと言っていた。人間に無関心。一線を引き、心に寄り添う事もしなければ、関心を持つ事も無い。

「こら。クラ君までそんな事言わないでくれる?依頼に私情は持ち込まない。紅の瞳の評判が悪くなって、変や奴等からしか依頼来なくなったらどーすんの?」

 痛い所を付きますよねー。言ってる本人のケイ先生が1度大きくやらかしてるらしいですけどねー。

 キリアはまだその時ここに居なかったので、話を聞いただけだが、ケイ先生がムカつく依頼主を瀕死になるまで痛め付けた事で、紅の魔法使いの凶暴さを知らしめる結果となり、依頼が全く来なくなった時期があったらしい。
 その時期が大変だった事を身を持って知っている2人は、グッと、色々と言いたい事を飲み込んだ。

「ご迷惑な依頼である事は分かっています。ですが、どうか引き受けて頂きたいのです。僕は、まだこんな所で死ぬ訳にはいかないんです。お願いします」
 丁寧に頭を下げるカトレア。
 目の前で自分の事についてこんなに揉められては、居心地はさぞ悪いだろうに、彼の態度は変わらない。
「ーー確かに、この依頼を受けないと、下手すれば、紅の魔法使いの評判は地に落ちる」
 クラは、依頼の本質に触れ、ギュッと拳を握り締めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...