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大切な出会い
護衛依頼
しおりを挟む幾つかの街に置いてある紅の魔法使いのポストに手紙を投函するのが一般的。
「そうだったんですね!今、初めて知りました」
「風の噂だけで紅の魔法使いに依頼に来たの?」
「はい。紅の魔法使いに頼めば、どんな難解な依頼も解決してくれると聞きました」
嘘をついているようには見えないが、街でそんな良いように紅の魔法使いの噂が流れているとは考えられない。
「あれー?俺達、いつの間にか評判良い感じー?」
簡単にポジティブに受け止めるケイ。
「無いです。兄さん達いつも言ってるじゃないですか。《紅の魔法使いは野蛮で乱暴で、人間を食べてしまう、呪われた存在だから近付くな》って街で噂されてるって」
失礼な話です。人間を食べるはずが無い!食べた事無いし、食べたいとも思った事無いし!紅の魔法使いの名は結構有名みたいですが、昔から、決して良い噂では無い事は聞いてる。
なのに、何故この人は、紅の魔法使いに依頼しに来たのか。私達に依頼してくる人間は、切羽詰まって、依頼に来る人が多い。誰にも頼れない者、力が必要な者、真っ当な方法以外での解決を求める者。
キリアは、カトレアの話す依頼内容を、ゴクリと息を飲みながら待った。
「僕の護衛をして欲しいんです」
「「--は?」」
これまた、予想外の返答が来て呆けた声が出てしまう。
護衛?紅の魔法使いに?呪われてる私達を?嘘でしょう?護衛って知ってます?私達を傍に置かないといけないって事ですよ?大丈夫ですか?
同じ事を思っているだろうケイも、困惑しているように、カトレアに話しかけた。
「護衛って正気?俺達を常に傍に置かないといけないんだよ?何?誰かに命を狙われてるの?」
「恐縮ながら、その通りです」
「じゃあその命を狙ってる奴を何とかしようか?護衛ってなると、流石に傍にいないと難しいよ?」
リクの時も、ある程度彼等の様子は見守っていましたが、護衛自体は街のーーギルドの人達に任せていました。呪われてる紅の魔法使いが常に傍にいるなんて、人間にはかなりのストレスでしょう。てか、怖くないの?リクも結構怯えてましたよ。
見て下さい。ケイ先生ですら、あまりにも自然に護衛を頼むから遠慮してるじゃないですか。
「護衛をお願いしているのはこちらですし、傍にいて頂くのは当然では……」
「いや、そうなんだけど!てか凄いね?カトレア君、紅の瞳怖くないの?差別しないの?攻撃しないの?あれかな?好意的に見せかけて俺達を騙してるとかってパターン?それは流石に俺の心も傷付くってゆーかーー」
「えっと…そんな事をするつもりは一切無いのですが…」
ケイ先生……気持ちは分かるのですが、カトレアさんには今の所一切そんな様子は見えなくないですか。凄い純粋にしか見えませんよ。逆にそんな事聞くなんて失礼じゃありません?
「へぇーー本当に?本当に俺達と一緒にいて怖くないの?へぇー」
ケイはカトレアに近寄ると、まじまじと彼を観察した。それは、まるで面白い玩具を発見した子供のような輝いた目をしていた。
「面白いね、気に入ったよ!」
バンっとケイはカトレアの肩を叩き、その衝撃でカトレアは半歩前かがみに進んだ。
「その依頼、紅の魔法使いが引き受けた」
「本当ですか?ありがとうございます!」
(ええー?!)
勝手に引き受ける事を決めたケイに、キリアは内心叫んだ。依頼を受けるか受けないかは、基本、依頼主と直接会うことになっているクラ、ジュンが判断している。ケイが依頼を受けたら駄目なことは無いでしょうけど、実際依頼をこなすはクラとジュンが主。
ケイ先生は家で空間魔法の調整が有るからと理由をつけ、ただただ面倒臭くて、家から出て行かない(ジュンandクラ情報)。少なくとも、私がここに来てから、1度も、依頼に行っているのを見た事が無い。
「ケイ先生、いいんですか?勝手に依頼受けて。兄さん達、人間の護衛なんてしますか?」
ジュン兄さんは言わずと知れた人間嫌いだし、クラ兄さんも、決して人間が好きでは無い。喧嘩を売ってこない相手には平然を装っているけど、悪く言えば無関心。そんな2人に人間の護衛?出来ますか?絶っっ対嫌がると思う!
「保護者命令発動するから大丈夫♡」
「……先生がお守りする選択は無いんですか?」
私達に魔法を教えているだけあって、ケイ先生は私達よりも遥かに優れた魔法使いだ。
「僕この家から出たく無ーい」
ペロリと舌を出しながらお茶目に答えるケイに、キリアははぁ。とため息を吐いた。
*****
「お邪魔します」
「ーー嘘でしょうーー」
紅の魔法使いの家に、カトレアーーつまり、普通の人間がいる。その光景が、キリアは信じられなかった。
「どーぞどーぞ。お茶でも飲む?キリアちゃん、煎れてあげて☆」
「……はい」
ケイ先生はカトレアを大変気に入った様で、満面の笑みを浮かべながら、彼をリビングの椅子に誘導した。
宙に浮く本、椅子。魔法で灯るランプ。魔法使いの家が珍しいのか、カトレアはキョロキョロと部屋の中を見渡していた。
「ケイはとても素晴らしい魔法使いなんですね」
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