19 / 96
紅の魔法使い
ケイの過去
しおりを挟むキリアも席に着き、3人は同時にスィートポテトを口に入れた。
「うん、美味しい」
「……まぁまぁだな」
クラさんとジュンさんも気に入ったようで、パクパクと手が進んでいる。確かに美味しい。人に作って貰うと、何より美味しく感じる。
「こんな美味しい物食べれたし、依頼受けて良かったね」
「いや、普通に買えばいーだろ」
私と違って2人は瞳の色を元に戻せるみたいだし、普通に買い物に行けるのでしょう。いいなぁ。
「スィートポテトなら、また今度私が作りますよ」
「あはは。それは楽しーーって、キリア、作れるの?!」
「?はい」
前世家政婦。お菓子作りもしてましたよ。子供がいるご家庭のお客様に大変好評頂いてたので、味には少し自信があります。
「嘘だろ…これ、画期的な新商品って言われてんのに」
どうやら、この世界では、料理について発達が遅れてるみたいですね。どの料理も今まで食べた事が無い!と絶賛されるので、毎回恐縮してしまう。
出しているのは普通に日本の家庭料理とかなんです。
「前の家でも普通に作って出したけど、料理で褒められた事無いから、美味しいって言われるの嬉しいよ」
何せ料理人にも舐められてて、料理全般も任されていましたけど、あの人達から味の感想なんて聞いた事無いし、そもそも私が作ってたこともあの家族は知らないんじゃないかな。
「その元・家族の居場所を教えろ。今すぐ粉々にしてやるから」
「駄目だよ!粉々にしないで!」
ジュンさんの目がマジなのが余計怖い。
「ふわぁ。あれ?何?美味しそーな物食べてるねー。俺にもちょーだい♡キリアちゃん」
「はい、ケイ先生」
遅れて起きてきたケイが、テーブルに置いてあるスィートポテトを見付け、笑顔で催促すると、キリアはすぐに立ち上がり、用意を始めた。
「いやぁ♡キリアちゃん、良いお嫁さんになるよー♡てか、もう少し大きくなったら、僕のお嫁さんにならない?」
「え?!」
ケイ先生はエルフの血筋らしく、人間と比べて大変長命らしい。私が大きくなるまで余裕で待てるでしょうけど……!こ、これは、プロポーズですか?!
キリアが1人、戸惑っている間に、ケイの顔のすぐ横を短剣が走り抜け、体に触れないギリギリの距離感で、足元から頭上まで氷柱が立ち上った。
「ひぇ?!ちょっと?!クラ君?!ジュン君?!」
「すみません先生、手が滑ってしまって…」
「ロリコンも大概にしとけよ、この糞飲兵衛」
「いや、それただの悪口!冗談だよ!冗談!」
「お待たせしました……?どうかしましたか?」
デザートを用意しているキリアに見えないように配慮したようで、キリアには何が起こったか知らず、様子が険悪になっている3人に向かい尋ねた。
「何でもねーよ」
「そうそう。ちょっと妹に群がる虫を追い払っただけだから」
「妹…私だよね…?虫なんていた?」
実の家族には家族として認めて貰えなかったから、妹って言われる事が、実はじんわりと嬉しい。それにしても、虫?虫は平気ですよ。前世苦手でしたけど、前の家では物置部屋に住んでましたからね。虫沢山出たので慣れました。
「……あれ?なんか、随分過保護になってない?」
元から自分達と同じ紅の瞳だからと、キリアに優しくしていたが、その時よりも、良い意味も悪い意味も含めて、酷くなった気がして、ケイは尋ねた。
「先生では無いですけど、妹の存在が尊く感じるようになってきました」
「無鉄砲な馬鹿だから、俺が面倒を見てやる義務がある!兄として!」
「……意外とシスコンになるんだね君達」
ケイは、辛い境遇から、自分達以外を上手く愛せないでいる双子が、新しく誰かを愛せた事を喜ぶ一方、きっと重くなるであろうこの双子の愛を受け止める事になったキリアを、複雑な気持ちで見つめた。
(でもまぁ、3人が笑顔ならそれで良いか)
こうして、紅の魔法使いとして初めて依頼は、無事に達成したーーー
*****
『ーーーほら見ろ!紅の瞳は呪われてる!こいつ等は悪魔だ!』
遠い昔、1人の男に罵倒されるケイの姿。
『紅の瞳なんていない方が、この世界の為なんだ!!』
建物が見事に潰れまくっている惨状の中心に、杖を持ったケイがいた。
(ーーああ。面倒臭いなぁ)
長命のエルフだからか、遠い昔の記憶なのに、ケイの容姿に大きな変化は無い。服装や髪型が違うくらい。
ただ、冷たく、冷めた紅い瞳で、自分を糾弾する男を、睨み付けたーーー。
紅の瞳は呪われてる。
そう、迫害される原因となったのはーーー俺だ。
ケイは、その原因となった場面を、俯瞰的に眺めるように、思い返した。
98
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ
柚木 潤
ファンタジー
実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。
そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。
舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。
そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。
500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。
それは舞と関係のある人物であった。
その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。
しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。
そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。
ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。
そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。
そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。
その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。
戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。
舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。
何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。
舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。
そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。
*第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編
第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。
第5章 闇の遺跡編に続きます。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる