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紅の魔法使い

ケイの過去

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 キリアも席に着き、3人は同時にスィートポテトを口に入れた。
「うん、美味しい」
「……まぁまぁだな」
 クラさんとジュンさんも気に入ったようで、パクパクと手が進んでいる。確かに美味しい。人に作って貰うと、何より美味しく感じる。
「こんな美味しい物食べれたし、依頼受けて良かったね」
「いや、普通に買えばいーだろ」

 私と違って2人は瞳の色を元に戻せるみたいだし、普通に買い物に行けるのでしょう。いいなぁ。

「スィートポテトなら、また今度私が作りますよ」
「あはは。それは楽しーーって、キリア、作れるの?!」
「?はい」

 前世家政婦。お菓子作りもしてましたよ。子供がいるご家庭のお客様に大変好評頂いてたので、味には少し自信があります。

「嘘だろ…これ、画期的な新商品って言われてんのに」
 どうやら、この世界では、料理について発達が遅れてるみたいですね。どの料理も今まで食べた事が無い!と絶賛されるので、毎回恐縮してしまう。
 出しているのは普通に日本の家庭料理とかなんです。

「前の家でも普通に作って出したけど、料理で褒められた事無いから、美味しいって言われるの嬉しいよ」
 何せ料理人にも舐められてて、料理全般も任されていましたけど、あの人達から味の感想なんて聞いた事無いし、そもそも私が作ってたこともあの家族は知らないんじゃないかな。

「その元・家族の居場所を教えろ。今すぐ粉々にしてやるから」
「駄目だよ!粉々にしないで!」
 ジュンさんの目がマジなのが余計怖い。

「ふわぁ。あれ?何?美味しそーな物食べてるねー。俺にもちょーだい♡キリアちゃん」
「はい、ケイ先生」
 遅れて起きてきたケイが、テーブルに置いてあるスィートポテトを見付け、笑顔で催促すると、キリアはすぐに立ち上がり、用意を始めた。
「いやぁ♡キリアちゃん、良いお嫁さんになるよー♡てか、もう少し大きくなったら、僕のお嫁さんにならない?」
「え?!」

 ケイ先生はエルフの血筋らしく、人間と比べて大変長命らしい。私が大きくなるまで余裕で待てるでしょうけど……!こ、これは、プロポーズですか?!

 キリアが1人、戸惑っている間に、ケイの顔のすぐ横を短剣が走り抜け、体に触れないギリギリの距離感で、足元から頭上まで氷柱が立ち上った。
「ひぇ?!ちょっと?!クラ君?!ジュン君?!」
「すみません先生、手が滑ってしまって…」
「ロリコンも大概にしとけよ、この糞飲兵衛」
「いや、それただの悪口!冗談だよ!冗談!」

「お待たせしました……?どうかしましたか?」
 デザートを用意しているキリアに見えないように配慮したようで、キリアには何が起こったか知らず、様子が険悪になっている3人に向かい尋ねた。

「何でもねーよ」
「そうそう。ちょっと妹に群がる虫を追い払っただけだから」
「妹…私だよね…?虫なんていた?」

 実の家族には家族として認めて貰えなかったから、妹って言われる事が、実はじんわりと嬉しい。それにしても、虫?虫は平気ですよ。前世苦手でしたけど、前の家では物置部屋に住んでましたからね。虫沢山出たので慣れました。

「……あれ?なんか、随分過保護になってない?」
 元から自分達と同じ紅の瞳だからと、キリアに優しくしていたが、その時よりも、良い意味も悪い意味も含めて、酷くなった気がして、ケイは尋ねた。

「先生では無いですけど、妹の存在が尊く感じるようになってきました」
「無鉄砲な馬鹿だから、俺が面倒を見てやる義務がある!兄として!」
「……意外とシスコンになるんだね君達」

 ケイは、辛い境遇から、自分達以外を上手く愛せないでいる双子が、新しく誰かを愛せた事を喜ぶ一方、きっと重くなるであろうこの双子の愛を受け止める事になったキリアを、複雑な気持ちで見つめた。

 (でもまぁ、3人が笑顔ならそれで良いか)


 こうして、紅の魔法使いとして初めて依頼は、無事に達成したーーー




 *****

『ーーーほら見ろ!紅の瞳は呪われてる!こいつ等は悪魔だ!』

 遠い昔、1人の男に罵倒されるケイの姿。

『紅の瞳なんていない方が、この世界の為なんだ!!』

 建物が見事に潰れまくっている惨状の中心に、杖を持ったケイがいた。


 (ーーああ。面倒臭いなぁ)

 長命のエルフだからか、遠い昔の記憶なのに、ケイの容姿に大きな変化は無い。服装や髪型が違うくらい。
 ただ、冷たく、冷めた紅い瞳で、自分を糾弾する男を、睨み付けたーーー。


 紅の瞳は呪われてる。
 そう、迫害される原因となったのはーーー俺だ。

 ケイは、その原因となった場面を、俯瞰的に眺めるように、思い返した。

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