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紅の魔法使い

リアリテ

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 抱きとめられた場所から見えたジュンの表情は、とても傷付いて見えた。
「何でーーこんな!人間のーーしかも、こんな屑な奴の為にー!!」

 こんな屑な奴の為にーー?違う。私が、ジュンさんを止めたのは、ヒゲールさんの為なんかじゃない。痛いのは嫌。怖いのも嫌。でも、止めたいって、体が勝手に動いた。それは、絶対にヒゲールさんなんかの為じゃない。

「ジュンさんに、人を殺して欲しく無かったから……ジュンさんの為だもん……!あんな人の為じゃないもん……!」
「!俺…の…!」

 ヒゲールの体を植物のツルでぐるぐる巻きにし終えたクラが、慌ててキリアの元まで駆け寄ると、怪我の具合を確認した。
「大丈夫。致命傷じゃ無いーーけど、キリア!危ないことしないでよ!魔法使いの邪魔して、ジュンが手加減して無かったら、最悪死んでるよ?」
「はい……って、え?手加減?」

 あれ?ヒゲールさんを殺そうとしてたんじゃなくて?

「ジュンは短気だし人間嫌いだけど、流石に、そんなポンポン人を殺すような危ない奴じゃ無いよ。そんな事してたら、紅の魔法使いの評判ダダ下がりするし、これ位の罵詈雑言なんて、僕達慣れっ子だし」
 ムカつくけど、殺す程の事じゃ無い。と、クラは言い、ジュンも小さく頷いた。
「うぜーから痛めつけようとはしたけどな。それだけだ」
「先生よりしっかりしてるよ。先生、意外とすぐキレるもんね。依頼主1回瀕死送りにしたし」

 そう言えばそんな話聞いた事があるような……てか、私の早とちりーー!?!

「ごごごごごめんなさい!生きていてごめんなさい…!」
 私如きがジュンさんの行動を止めるなんておこがましいし、そもそもが早とちりだし、嗚呼!私なんかが行動を起こすとロクな事が無いんだ!!!
 ←元・家族の長年の虐待により、自己肯定感0。

「極端過ぎ!いーい?危ない事しちゃ駄目!せめて自分の身を自分で守れる位強くならないと、僕達を止めるなんて100万年早いよ」
「…はい…ごめんなさいでした」
 本気で反省する。毎日自分の行いを反省して生きてるけど←元・家族の長年の虐待により、自己肯定感0、今回ばかりは、本当に本気で反省する。
 怪我しちゃったし、2人に迷惑かけちゃったし、何より、ジュンさんに悲しい顔をさせてしまった。

 (早く治そう)
 そう思うと、キリアは、自身の胸に、手を当てた。

回復魔法リアリテ
「「ーーは?」」

 キリアは、平然と、まるで自然に、自分の体に回復魔法をかけた。それは、キリアにとっては、当たり前の事だったから。

「……キリア?君、魔法、使えるの?」
 キリアが紅の魔法使いの家に来たのは、ほんの数日前で、まだ魔法の授業を受けたばかり、実践なんて以ての外。クラは張り付いた笑顔で、キリアに尋ねた。
「魔法?ーーえ?!これ魔法なんですか?!」
「いや、どっからどー見ても魔法でしょ?!何で気付かなかったの?!」
「わ、私、物心付いた時から自然に使えてて……だから、私だけじゃなくて、皆使えるものだと……」

 この世界の常識を学ばずにやって来たので、この世界では、回復魔法は自然と皆使えるものなんだろうなー、って思って生きてきました。異世界凄いなー。便利だなー。みたいな……。
 前世で暮らして来た地球とは違う世界だもんなー。みたいな……。

「使えないよ。回復魔法は特殊魔法の1種だもん。先生も含めて、僕達は誰も使えない」
「そ、僧侶は?」
 ゲームの世界では、回復魔法は魔法使いでは無く僧侶が扱うイメージなので、尋ねてみる。

「僧侶?教会にいるけど……でも、魔法なんて使えないと思うよ。魔法を使えるのは、魔法使いだけ」

 僧侶ってこの世界では、回復魔法の使い手とかじゃなくて、ただ教会で働いてる人の事を指すんだ。魔法を使える全ての人が、魔法使いと認識される。

「僕達回復魔法使えなかったから、助かるね。先生にも重宝されるよキリア」
「師匠、目の色変えて研究材料にしてくんじゃね?」
「こ、怖い事言わないでよ」

 研究材料なんて、言葉の響きからして怖い。

「何にせよ、こいつ等全員締め上げたし、時間稼ぎは充分だろ」
 ジュンは叩きのめした沢山の屍(死んでない。ズタボロにして、クラの魔法で締め上げてるだけ)を見渡した。
「後は冒険者ギルドに任せましょう」
「たく、さっさと捕まえてくれてたら、めんどくせー事しなくて済んだのによ」

 詳しくは分からないけど、こちらと違って、ギルドの皆さんは確固たる証拠の確保や、正規の手続きがあるから、時間がかかるのでしょうね。私達がしてる事って、考えてみれば違法ですから。勝手に人の家に上がり込んで、全員ボコる……。あれ?もしかして私達、捕まる方の立場では?

「は、早く逃げましょう!ギルドの皆さんか来る前に!」
「あ、気付いた?そだね。では」

 クラは笑いながらそう言うと、1枚の紙を取り出し、ヒゲールに貼り付けた。
 紙には、『誘拐未遂犯!確保。By紅の魔法使い』との文字。
 わざわざ私達の仕業である事をアピールしなくても……そう言えば、前の放火未遂犯の時も、わざわざ張り紙貼り付けてましたね。


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