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紅の魔法使い
海辺の街コムタ
しおりを挟む「私の為に悲しんでくれてありがとう、クラさん」
でも私には、2人はちゃんと、人間に見える。だって、私の為に怒ったり、優しくしてくれたり、普通の人間と変わらない。
私だって、ちゃんと人間のつもり。
「……キリアは優しいね」
クラはそう言うと、優しく、キリアの頭を撫でた。
海辺の街コムタ。
名前の通り、海に近い街で、潮の香りのする港町。基本、レンガで出来ている建物が多く、昼間は、人が行き交うこの街も、夜、寝静まった今は、人の姿は見えない。
街灯だけが、暗闇を優しく照らしている。
「僕達はリトの話の裏付けも兼ねて、リトのお母さんがやってる喫茶店の様子を見に行こう」
そう。あれから、休み間も無く、私とクラさんは、依頼主であるリトの住む海辺の街コムタに来ていた。因みに、ここでも、空間魔法を得意とするケイ先生の転送魔法で、コムタまでひとっ飛びだった。凄い万能。
人の命がかかっているので、迅速に行動する。
「ジュンさんはヒゲールの方に行ってるんですよね?一人で大丈夫でしょうか…?」
ジュンは一人別行動で、リトの母親の命を狙っている悪者!ヒゲールの様子を見に行っていた。明らかに、こちらの方が危険度が高い。
「大丈夫だと思うよ。流石に、先生に怒られたばっかりだから、無茶な事しないと思う」
「気付かれたりしないかな……」
もし偵察してる事がバレたら、どんな目に合わされるか分からない。何せ、商売の邪魔だからと、殺人を依頼してくる程だ。
「ごめんね。来たばっかりなのに、無茶させちゃって」
「いえ!タダでお世話になるなんてー!私もちゃんと貢献しないとーー!」
きちんとお役に立たないと、ただ置いて貰ってるだけなんて、絶対に駄目!最悪、追い出されない為にも!きちんとしなきゃ!ただ、ここに来てまだ2日目。魔力が強いって証明されても、魔法を使えない私が何の役に立てるかは謎だけど!?
「先生、やって慣れろ。みたいな人だから。とりあえず放り込んだだけだと思う。キリアは何もしないでいいよ。見学だけしてて」
「うん、分かった」
2人は、特にキリアは、フードを深く被り直して、喫茶店の方に向かった。
海辺の街コムタ、喫茶店ーーー。
外観は、古き良き喫茶店の雰囲気だが、その壁には、ペンキで『キエロ』『タベルナキケン』と落書きされていたり、店の前には、生ゴミが巻かれていた。
「酷い…」
「悪質な嫌がされせをされているのは本当みたいだね」
こうして、依頼主の事を調べるのは、紅の瞳の魔法使いを悪用する為や、ただの嫌がらせ等、わざと、違う依頼内容を述べたりする輩がいるかららしい。分かってはいましたけど、随分嫌われてますね、私達。
「街の人達が警備をしてくれてるって話だったけど…」
「流石に夜中までは手が回らないのか、巡回してる最中にされたか、どうだろうねーーあ、キリア、ちょっと失礼」
「へ?きゃっ!」
クラはキリアを抱き抱えると、そのまま、喫茶店の向かいの家の屋根まで、木や、ベランダの手摺りを使い、ジャンプして駆け上がった。
「大丈夫?」
「だだだだ大丈夫です!」
ドッドッドッドッと、心臓が早くなる。
怖かった!急に空を飛んだかの様に景色が変わって、上に飛んで行くから、本気で怖かった!!!
「ごめんごめん。ここの方が安全でしょ?」
そうですね。人に見付かりにくいとは思いますし、安全だとは思いますけど、せめて一声欲しかったです。それにしても、凄いジャンプ力ですね。人一人抱えて、屋根の上に木や手振りを足場を使って跳ぶ。
(これも、魔法の力…?)
どこかしら、何か魔法を使っているのかもしれない。
「あれ?あの人って、警備の人じゃない?」
向かいの家の屋根の上から喫茶店を見ていると、喫茶店の中から、人が出て来た。手には鍵を持っていて、先程見たヒゲールの従者達とは服装も異なり、ラフな格好をしている。
鍵を渡されているとゆう事は、リトの母親の関係者では無いかと推測される。
「本当ですね。中にいて、嫌がらせには気付かなかったのでしょうか?」
「……何か様子が変だね」
そのまま、警備の人らしき人を観察していると、遠くから、数人、ガラの悪そうな男達が、大きな荷物を抱えて、喫茶店に来た。警備の人らしき人と、何やら会話をしている。
バシャバシャ。
男達の1人が、荷物を取り出し、液体を喫茶店周りにばら撒き始めた。
「あれってーー灯油?」
まさか、喫茶店に火事を起こそうとしてる…?!
「……みたいだね」
喫茶店から離れると、男達はマッチを取り出し、火を付けると、油まみれの地面に向かい、投げ捨てたーーー。
「はい。危ないから止めましょうね、おじさん達」
「!?誰だ!!??」
隣を見ると、さっきまでそこに居たはずのクラの姿が無かった。気付けば、男達が投げ捨てたマッチをキャッチし、ふーと息を吐いて、火を消している。
「名乗りますよ。僕は紅の魔法使いの1人、クラ」
クラの瞳の色は、いつの間にか青い瞳では無く、紅の瞳に変化していた。紅の魔法使いを名乗っている今、元の青では無く、自分から進んで紅い目に変えたのだろう。
「紅の魔法使い?!馬鹿な!何でこんなとこにいる?!貴様等は依頼を断ったはずだろ?!」
「やっぱりヒゲールさんのお仲間ですか」
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