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紅の魔法使い

契約成立

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「住所は、海辺の街コムタにある喫茶店で、大富豪の名前は、ヒゲールだよ」
 ーーーうん。フラグ回収したな。


「あの髭クソ親父かよ」
「僕達にリトのお母さんの殺害を依頼しようとしてたね……良い度胸してるよ」
 クラも怒っている様で、笑顔だけど、笑顔じゃ無かった。

「貸せ」
 ジュンは、キリアから音声通話石のボタンを奪うと、リトに向かって話し掛けた。
『依頼が達成すれば、それに見合う報酬を貰うが、お前にその覚悟はあるのか?』

 (見合う報酬?普通にお金とかじゃないの?)

 ケイ先生の話では、この依頼で、お金や食料、日用品を稼いでると聞いていた。ジュンさんの発言は、まるで依頼主であるリトをわざと怖がらせているかのように、仰々しく聞こえる。

「……それで、ママが、笑顔になってくれるなら……!僕、何でもする!!」
 小さな体は震えていて、少し、沈黙があったが、それでも、リトはハッキリと、母親の為にと、頷いた。

『ーーいいだろう、リトの依頼は紅の魔法使いが引き受けた。但し、それに至るまでの過程や結果はいちいちそちらに報告しない、完全にこちらの好きにさせてもらう。追って連絡を待て』

 ジュンは言い終わると、真ん中の黄色の石に触れた。
 画面の向こう、リトの足元に魔法陣が浮かび、光が走ったかと思えば、そのまま、リトの姿は光と共に消えた。
「魔法…」
 さっきヒゲールの時に見たモノとは違う。深い穴に落ちていっていないし、押した石の色も違う。ヒゲールさんの時は赤。リトは黄色。
「大丈夫だよ。あれは普通の空間魔法……の一種の、転送魔法って伝えた方が分かりやすいか。転送魔法。ヒゲールの時と違って、ちゃんとリトの家に送り届けたから」
 ヒゲールは街のゴミ捨て場に強制転送されたが、リトは自宅まで送り届けてくれたと聞いて、ホッとする。

 あんな小さな男の子を、夜の森から1人で帰らせるのも不安だったし、良かった。依頼も受けてくれる事になったし、とりあえずは、安心ーーーなのかな?私もまだ、紅の魔法使いの人達の事をよく分かって無いんだけどーーー
 でも、酷い事をする人達には思えない。
 紅の瞳を持ち、呪われていると迫害され続けていた私に、初めて、優しくしてくれた人達。それが同じ紅の瞳同士の限定の優しさだったら、紅の瞳じゃないリクに優しくしてくれるかは謎だけど……。

「ーーーお前、良く人間に優しく出来るな」
「え?」

 速攻で不安になる事を言ってきましたね。人間って、紅の瞳以外の人達の事でしょう?ジュンさんは紅の瞳の持ち主以外、優しく出来ない感じですか?

「う、うん…。だって、リトは普通に、良い子みたいだし…」

 話を聞く限り、母親思いの優しい子にしか見えない。ヒゲールと比べて、紅の瞳に対して、怯えてる感じはあるかもだけど、差別してるようにも見えなかったし……。

「その人間達に、差別され続けて来たのを忘れたのか!?」
 大きな声で叫ぶジュンの表情は、怒りに満ちていた。
 想像でしか無いが、彼もまた、紅の瞳を持って産まれて来てしまった為に、差別されて来たのだろう。自分を差別して来た人間を、心底嫌っているのが伺えた。

「……忘れてなんて、無いよ。私は、ついこの間、森に捨てられたんだから」

 実の家族に、深い森の中にたった1人、捨てられた。きっと、クラさんやジュンさんが、あの時通りかけてくれなかったら、私は野垂れ死んでいたと思う。
 家族の事は、ハッキリ言って恨んでる。
 食事抜きに睡眠時間も削らせて、家事雑用全般させ、少しでも失敗すれば容赦なく暴言、暴力のオンパレード。

「なら、何であんなに優しく出来る?!」
「私を虐めてたのはリトじゃない。人間だって、悪い人ばかりじゃない。と、思…い、たい」

 少なくとも、前世では、優しい人達が沢山いた。お父さんもお母さんも、学校の友達も先生も。中には悪い人も、意地悪な人もいたけど、それは、人間だと、区分する事じゃ無い。人間の中にも、優しい人も悪い人もいる。
 この世界では知らないけど!
 でも、少なくともリトは、悪い子には見えなかった!

「キリアは大人だね、偉い偉い」
 話を黙って聞いていたクラは、パチパチと笑顔で手を叩いた。
「ジュン。先生にあまり私情は持ち込まないって注意されたでしょ?僕から見ても、リトの依頼は受けるべきだったし、わざと怖がらせる必要無かったよね?」

 (あ。やっぱりわざと怖がらせる為に仰々しく言ったんですね)

「あれは!あいつがナヨナヨし過ぎてムカつくからー!」
「言い訳しない。ジュンのは、ただの人間嫌いが発動しただけだろ」
「ーーっ!」
 ぐうの音が出ない程、その通りだったらしく、ジュンは押し黙った。

「はぁ…。お願いだから、ジュンはちゃんとしてよ。依頼してお金稼がないと、お金が無くなったら生活出来ないんだよ?ただでさえ、ヒゲールみたいな奴が依頼に来るんだから、お金無くなって、ヒゲールみたいな奴の依頼受けなきゃならなくなったらどーするの?僕、嫌だよ」
 クラは容赦無く追撃した。

 (ジュンはちゃんとして??誰かと比べてる??)
 クラさんの言い方が少し気になったが、それよりも、ヒゲールさんみたいな、嫌な奴の依頼は受けたく無い。との同意の方が強かった。しかも殺人依頼でしょ?完全にお断りです。


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