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紅の魔法使い

初授業

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「ご飯…?毒でも入ってんじゃねーだろーな?」
 鋭い眼光で睨み付けるジュンに、ビクッと体が強ばる。

 分かってはいたけど、まだ信用されていないみたい。そりゃあそうだよね。出会ってまだ少ししか経っていない人間の事なんて、信用出来ないよね。私如き奴隷の作った料理なんて、毒同然ですよね(元・家族の扱いが酷過ぎて思考が終わってる)。

「ジュン。先生じゃないんだから大丈夫だよ」
「え?今なんて?」

 先生じゃないから大丈夫?それはつまり、先生ーーケイさんは毒を入れたってことーー?!これからお世話になるのに、一気にケイさんの事が怖くなったよ?!

「先生、僕達がここに来たばかりの頃、頑張ってご飯作ろうとしてくれた事があるんだけど、間違えて猛毒のキノコ使っちゃって、死にかけた事があるんだよね」
「わざとでは無いんだね…」

 良かったと言っていいのかは分からないけど、とりあえず一安心。

「それからジュンはキノコ食べれないんだ。ジュンのお皿にはキノコ入れないであげてね」
「分かりました」

 死にかけたならトラウマにもなるでしょう。今日のメニューはハンバーグとサラダ、味噌汁なので、キノコは入っていません。

「お前、敬語使うの止めろよ」
「え?あ、もう癖みたいなもので、たまに出ちゃうんでーーだよ」

 さっきクラさんにも言われたけど、ジュンさんにも言われてしまった。クラさんはいつもニコニコ笑顔で、雰囲気も言葉遣いも優しいから、何とも思わないんだけど、口数少なくて口調の荒いジュンさんに言われると、怖くてちょっと身構えてしまう。

「……ならいーけど。ここに、お前を虐める奴はもういねーんだから、言葉遣いとか気にすんじゃねーぞ!」
 前言撤回します。え?何これ。私を気遣ってのこと?私が元・家族から虐げられてたって知ってのこと?クラさんと一緒で、めっちゃ優しい!


「あはは。可愛い妹だもんね」
「いもーーうと?」
 クラの言葉に、キリアは顔を向け、反応した。
「この家に来たんだから、僕等はもう家族だよ。キリアは僕達の可愛い妹」
「妹…」
 実の兄や姉には、1度だって妹と認められたことは無かった。
「もし次虐められる事があったら、お兄ちゃん達が助けてあげるね」
「…うん…!」
 こんなに格好良くて優しい、素敵な兄が一気に2人も出来た事に、キリアは笑顔で喜んだ。


 PM12:00。
「ふわぁ。おっはよー」
 寝癖爆発で欠伸をしながら、寝室のある2階から魔法を使い、浮かびながら降りてくるケイ。
「お早うございます…?」
 もう時刻は正午。おはようと挨拶して良いものか戸惑いながらも、キリアは挨拶を返した。
「おせぇよ。もう昼なんだよ」
「先生、夜行性ですもんね」
「お、何何?なんかめっちゃ良い匂いするじゃーん」
 リビングのテーブルには、キリアが作った朝食兼昼食のハンバーグプレートがセットされていた。
「えー何これ何これ?キリアちゃんが作ったの?」
 美味しいご飯を前に目が覚めたのか、パッチリと開いた目で、テンション高く、テーブルに座った。
「はい。食材使わせて頂きました」
「いーよいーよ使ってー。腐らせちゃったら勿体無いし、こんなに美味しそーなもんに変身を遂げるなら食材達も満足だよねー!いただきまーす!」
 誰よりも遅く来たのに、誰よりも早く箸を手に持ち、ハンバーグを口に入れる。
「美味しー!最高ー!こんなに美味しいご飯食べたの本当に初めてなんだけどー!天才?!」
 パクパクと、勢い良く箸を進め、直ぐに茶碗に入ったお米が空になった。
「おかわり!」
「はい、どーぞ」
 準備万端のキリアは、手際よく茶碗を受け取ると、米を入れ、茶碗を返した。
「うっまー!!」
「先生、おかわりくらい自分でよそいましょうね」
「ーーお前も座れよ」
 自然と給仕係に徹しているキリアを睨み付けながら、ジュンは隣の椅子を引き、座るよう指示した。

「え?でも、そんなーー」
「座れ」
「ーーはい」

 誰かと一緒に食卓を囲む事なんて、今回の人生では初めて。食事自体、満足に食べれていなかった。
 促されるまま、椅子に座り、目の前の、暖かい食事を前に、一緒にテーブルを囲むジュン達に、何故だか、涙が溢れ、そんな私を、3人は暖かく見守ってくれた。





「さて。ではキリア。今日から君も、俺の愛しい愛弟子の1人になる」
「愛弟子?」
 食事を終えると、4人は家の外に出て、青空の下、切り株を椅子にキリア、ジュン、クラが座り、その前に眼鏡をかけ、指し棒を持ったケイが教師のように立っていた。
「何だよその格好」
「折角キリアちゃんの初☆授業だから、形から入ろうと思ってね。いやぁ、やっぱり生徒に可愛い女の子がいたら、やる気が出るよねー♡」
「きも…」
 ケイの基準では、教師と言えば眼鏡、指し棒がマストらしい。普段はそんな格好をしないらしく、ジュンは冷めた目をしていた。
「あの、私は一体、何を教わるんですか?」
 ジュンもクラも、ケイの事を先生、師匠と、呼び名は違えど、師事を意味する名称を使っていた。
「ん?それは勿論ーー魔法だよ」
 ケイが指し棒をひと回しすると、指し棒は魔法の杖に変わり、杖をキリアに向けた。ポンッとキリアの頭に現れる花冠。
「私が…魔法…!」
 前世でゲームや漫画で見てきた魔法!まさか私が魔法を教わる日が来るなんてーー!!



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