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28話 光の祝祭⑤

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 ここで息子に甘い罰を与えれば、モルガン男爵家は、今度こそラドリエル公爵の怒りを買うことになる。

 モルガン男爵家にはもう一人、帝都を守る騎士団に任命されたばかりの優秀な長男がいる。彼を守る為にも、モルガン男爵夫人は、厳しい罰を次男に与えるでしょう。
 きっと、もう二度と私の前に姿を現すことは無いーーー。

「カリア様の寛大な対応に感謝致します。もしよろしけでば、タマル子爵家にも、伝言を承りますが、いかがいたしましょう?」
「是非よろしくお願いします」
「承知致しました。タマル子爵家も直接カリア様に謝罪に向かうと思いますので、そこはご対応をお願い致します」
「ええ」

 モルガン男爵夫人はーーー本当に聡い女性ね。
 家の為ならば、時として非情に、実の息子に対しても冷酷な決断が出来る。それも、夫の返事を待たずにーー家を守る、貴族夫人として相応しいと思った。

「……私が今言うべきことではないかもれませんが……モルガン男爵夫人のような聡い女性がいて、同じ女性として嬉しく思います」

 私の周りは、女は馬鹿の方が可愛げがあって、優秀であればあるほど、貴族女性として相応しくないと罵る方々ばかりだった。でも、同じ貴族夫人にモルガン男爵夫人のような方がいらっしゃると安心する。
 私もーーーそうあって良いのだと、思わせてくれる。

 私の発言に、モルガン男爵夫人は一瞬驚いた表情を浮かべた後、まるで何事も無かったように、微笑んだ。

「こちらこそ、カリア様のような素敵な女性とお近づきになれて幸栄ですわ。今後とも是非、仲良くして頂けると嬉しいです」
「……喜んで」

 私が手を差し出すと、何の疑いも無く、モルガン男爵夫人は私の手を握った。

 《まだお若いのに、しっかりされているわ……グレイドル男爵は娘を見る目も無いのね。こんなに出来の良い娘を無能扱いするのだから》


 グレイドル男爵家で私が冷遇されてきたことは、社交界では知れ渡っている。
 念の為に心を読んでみたけど、お父様が私を無能扱いしていた事に呆れてはいたが、私に対しては、嫌な感情は持っていなかった。
 うん、これなら、これから先も仲良く出来そうです。


「ーーーカリア」
「アレン様」

 モルガン男爵夫人とそのまま談笑していると、皇帝陛下と話終えたアレン様が、私の元までやってきた。
 アレン様の姿を見て、頭を下げ一礼するモルガン男爵夫人。

 ……まるで海が割れたみたいに、人々がアレン様を避けて道を作ってる……

 アレン様の妻である私とお近づきになろうとしていたのに、実際、アレン様と関わるのを恐れているのが伝わる。悪魔の公爵の噂の所為でーーー本当、噂を流したユーリ様は最低ね。
 皆様の視線が、アレン様と、その新妻である私に向けられているのが、ひしひしと感じる。あの冷酷な悪魔の公爵が、どんな冷たい態度で妻に接するのか、緊張感と興味が入り混じった視線。

 皆さんが何を期待しているのかは知りませんがーーー私は、普段通りにアレン様に接するだけです。

「アレン様、とっても格好良かったです」

 ざわっ。と、私の発言に辺りがざわめく。
 な、何?妻が旦那様を褒めるのがそんなに駄目ですか???

「馬鹿だなカリア様……そんなこと言ったって、アレン様がお喜びになるわけないのに」
「どうせ、冷たくあしらわれるだけですのに……!」

 外野が五月蠅い……放っておいてくれません?!アレン様は口下手ですけど、私にはちゃんと気持ちが通じているから大丈夫なんです!
 私も分かっています。こんな事言っても、アレン様は照れて、思っている事を素直に言えなくなってしまうから、冷たく返されることは!でも、それでもいいんです。

 私は、素直な気持ちを、アレン様に伝えていく。
 アレン様の心を勝手に読んでしまっている私は、アレン様の本当の気持ちを、十分、伝えてもらっているから。いつか貴方が、素直な気持ちを口に出来る日が来るまでーーー。
 別に外野の目がある所で冷たい態度取られていも、私は平気。さぁ、どんと来て下さい!


「……………」

 ーーー長い沈黙。

「アレン様?」
「………カリアも、今日の……ドレス、良く似合っている」

「「「!!!!!」」」

 多分、この祝祭に参加している全員が、驚きで一瞬時が止まったと思う。それ位、皇宮に衝撃が走った。

「…っ!あり…がとう…ございます」

 素直な気持ちを口に出せたことにほっとしたのか、私はアレン様の賛辞を受け入れたのが嬉しかったのか、アレン様はいつもの無表情から、優しい微笑みを浮かべた。

 待って!!最近、素直に気持ちを出せるようになってきたなとは思っていましたけど、こんなーーーただでさえ顔面偏差値最高なのに、急に破壊力抜群な笑みを浮かべられて、甘い言葉を言われてもーーー!
 変化を知っていた私ですら、これほどの衝撃を受けているのだから、周りの人々の衝撃はもっと凄いものだった。

「あ、あれがアレン様?妻に似合ってると言って、微笑んだぞ?」
「天変地異の前触れか?!」
「嘘ーーー普通に格好良いんですけど!!」

 ……妻を褒めて微笑んだだけで、軽いパニックですね……

 周りの反応に気付いていないのか、アレン様は雑音を無視し、エスコートするように、私の手を取った。

 
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