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27話 光の祝祭④

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「初めましてアレックス侯爵夫人、今日はご子息の一歳の誕生日ですよね?おめでとうございます。アレックス侯爵に似た聡明な男の子だと伺いました」
「息子に爵位を譲られたとか?今までお疲れ様でした。ゆっくりとなさって下さいね」

 私はその一人一人に適した内容で、返事を返した。

 私は光の祝祭に合わせて、マナーとダンス以外にも、貴族の皆様の名前と顔、簡単な情報を覚え込んだ。ラドリエル公爵夫人として、貴族の皆様にアピールする初めての場で、公爵夫人として失礼な振る舞いは出来ない。
 付け焼き刃でしたが、暗記は得意なので、マナーやダンスの特訓よりも簡単でした。


「いやぁ、新しいラドリエル公爵夫人は何とも愛らしいお方だ!これはアレン様が手放さないのも納得ですな!是非、今後ともよろしくお願いいたします」
 《どうせ、すぐにアレン様のもとから逃げ出すと思うが、それまでは愛想よくしておかないとな》

「あの……差し出がましいようですが、アレン様との結婚生活は大丈夫ですか?」
 《悪魔の公爵が夫で、大丈夫なの…?危険な目にあったりはしていない?逃げ出すなら、早い方が良いわ》


 中には握手を求めてくる人もいて、心を読んだ人もいるんだけど、人それぞれで、打算たっぷりな人もいれば、純粋に私を心配してくれる人もいた。

 公爵夫人として、もう充分、私の存在は知らしめられたかな。

「本当に素晴らしいですわカリア様。よく、ここまで準備して参りましたね」

 モルガン男爵夫人は、私が挨拶を交わす全員の顔と名前、情報まで覚えていたことに、口に手を当てて驚いた。

「公爵夫人として当然の事です」
「……いえ、やっぱり素晴らしいわ。昨今の若いご令嬢の方は、ただ着飾って適当に会話を交わせば良いと思っている方が多いから、困ったものねと感じていたんです。お恥ずかしながら、うちの愚息もその中の一人ですが」

 そうですね、女見下してる典型的な駄目男ですねーーーとは、流石に言えず、愛想笑いで誤魔化してみたが、モルガン男爵夫人は私の愛想笑いの意味を的確に捉えたようで、申し訳ありませんでした。と、頭を下げた。

「モルガン男爵夫人が謝罪する必要はありません」
「いえ、あんな愚息でも、モルガン男爵次男であることには変わり有りません。全く、どこで育て方を間違えたのかしら……」

 多分、私のお義姉様に心を奪われてからおかしくなったんじゃないですかね。お義姉様は、女は着飾って美人でいればそれで良いと考えている典型的な駄目女ですから。

「モルガン男爵夫人はもうご存知のようなので話しますが、実はご子息様は、アレン様を侮辱する発言を、私の前で言ったのです」

「ーーっ!」

 モルガン男爵夫人の顔色が、一気に青ざめたのが分かった。
 ラドリエル公爵を侮辱するーーーそれも、ラドリエル公爵夫人の前でーーーこれがどれだけ愚かで、恐ろしい事をしたのかを、あの馬鹿男達は理解していない。それだけで、彼等がいかに無能だというのが分かる。

「なんてことを……!心より謝罪申し上げます!アレン様にも、必ず謝罪に向かわせます…!」

 言い方を悪くすれば、モルガン男爵令息は、たかが男爵令息の分際で、皇帝陛下からも一目置かれている公爵を侮辱するような発言をした。しかも、アレン様は悪魔の公爵と名高いーーー冷酷非道、血も涙もない公爵。
 どれだけの罰が与えられるか、考えるだけで、恐ろしい。

「愚息の無礼な振る舞い……謝罪でアレン様の怒りが収まるとは思っておりません。愚息は、それ程、無礼な真似をしました。どのような罰でも受けさせます。ですがどうか……モルガン男爵家には、ご慈悲を頂きたく思います」

 モルガン男爵夫人は、息子にはどんな罰でも与えて下さい、ですが、モルガン男爵家は見逃して欲しいと口にした。
 実の息子を見放した形になるが、あんな愚息なら、そうなっても仕方ないかと思う。
 今もチラリとモルガン男爵令息を横目で確認すると、友人であるタマル子爵令息と、自分達のしでかした事の大きさに気付かず、呑気に他のご令嬢に声をかけていた。

「……ご安心ください、アレン様は心優しい方です。心から謝罪するモルガン男爵夫人のお願いを無下にする方ではございません」

 実際アレン様優しいから、そこまでの罰なんか与えないと思うんですよね。モルガン男爵夫人は、悪魔の公爵の噂で、アレン様の怒りに触れた伯爵家が没落した。なんて話を信じているようですけど。

「でもそうですね、モルガン男爵夫人がよろしければ、この度の子息の失態、私の心の中に閉まっておくことも出来ますよ」
「ーーーそれは、どういったご要望でしょう?」

 彼女は私の言いたいことを瞬時に察し、尋ねた。

「モルガン男爵令息を甘やかすのを今後一切、お止め下さい」

 私のこの言葉の意味を、モルガン男爵夫人なら、正しく理解してくれるはず。

「……承知いたしました。そのようなことでお許し頂けるなら喜んで」

 甘やかすな。という抽象的な言葉を使い、具体的な処罰を明言しなかったのは、モルガン男爵家に、息子の処罰を定めてもらうためだった。
 モルガン男爵家が息子にどのような罰を与えるか、それを、ラドリエル公爵家は見極める。
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