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25話 光の祝祭②

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 肌や髪のお手入れ……パックとかトリートメントとか、ジッとしていなきゃいけないから、これも苦手ーーーと言うか、こっちの方が苦手なんですけど……!

「……それは、どうしてもですか?」
「奥様を綺麗にするのは、ラドリエル公爵であるアレン様の為でもあります」

 私が断りにくい言葉を選ぶビオラ。
 主人を良い方向に導く……本当にメイドとして優秀だわ……我ながら良い人材を採用したものです。

「分かりました……」

 自分を着飾る事は苦手で、嫌い。
 グレイドル男爵家での私の役目は、お義姉様の引き立て役だった。
 本当の家族で無い私に、お父様達は安物のドレスしか用意してくれなかったけど、きっと、どれだけ綺麗に着飾っても、美人なお義姉様には勝てない。

『姉と違って、妹の方は普通だな、華が無い』
『カリア嬢と結婚したら、美しい姉と比較して毎日落ち込んでしまうよ』
『マーガレット嬢の方が隣にいて皆に自慢出来る』
『カリア嬢とは同級生だが、男の俺よりも成績が良くて、可愛げがなかった』

 聞きなれた言葉。どうせ私は可愛く無いですよ。
 お義姉様の見てくれに騙された馬鹿な男達に何を言われても、どうとも思わないけど、うざいのはうざい!そんっっっなに貴方達も良い男じゃなかったですからね?!アレン様と比べれば月とすっぽん、天地の差です!

 光の祝祭には、ユーリ様もお義姉様も、昔、私を見下した男達も参加するーーー。


「……段々やる気が出て来ました。光の祝祭までに、ラドリエル公爵夫人としての教養を付け焼き刃でも叩き込んでみせます」

 人を見返してやりたいって最強の活力ですよね。
 これでまた、『カリア様はラドリエル公爵夫人として相応しくない』とか言われでもしたら本当にムカつきますし、見てろよーーー私がどれだけ優秀かを、その目に焼き付けさせてあげます。私は本来、気が強くて、負けん気が強いんですよ。

「それでこそ奥様です」
「奥様なら、余裕でクリア出来ると思います」

 私のやる気に、スマルトもビオラも、小さく拍手をして応援した。

「そうだわ、スマルト、あともう一つ、お願いがあるのだけどーーー」

「はい。何でしょうか?」

「ユーリ=トランスについて調べて下さい」

 アレン様が悪魔の公爵と呼ばれるようになったのが何故なのかーーー私には、ユーリ様が原因としか思えない!

 覚悟していないさいよーーー絶対、ユーリ様の悪事を暴いてみせるから!





 *****



 光の祝祭当日ーーー。


 騎士を称えるこの祝祭は、帝国全土で開かれるが、皇宮に招かれるのは、大きな功績を上げた騎士や、皇都を守護する選ばれた騎士と、爵位を持つ貴族の家族のみ。
 ラドリエル公爵であり、帝都を守護する騎士団の副隊長を就任しているアレン様は勿論、その妻となった私にも、参加する権利が与えられる。

「いよいよですね、光の祝祭!私、皇宮に行くのも初めてなんです」

 道中の馬車の中、私は一緒に祝祭に向かうアレン様に向かって、窓の外を眺めながら話しかけた。
 皇都全体がお祭り騒ぎで、街が彩られたり、道行く人達もいつもよりお洒落していたり、窓から見える市街もとても楽しそう。
 そんな私も、今まで生きてきた中で一番素敵なドレスを着て、お肌のお手入れも何日も前からしっかりして、お化粧も髪も、ビオラ含むメイド達が綺麗に整えてくれて、過去最大に着飾ったし、今日の日の為に、苦手なマナーもダンスも、講師をつけてみっちりと特訓した。

「アレン様は緊張していないんですか?」

 いつもの事だが、目の前で顔色一つ変えないアレン様。

「……緊張する要素がどこにある?ただの社交の場だ。カリアも何度か参加しているだろ」

 いやいやいやいやいやいや。皇室主催の祝祭を、ただのパーティと一緒にしないでくれませんか?アレン様は何度も皇帝陛下にお会いしてるかもしれませんけど、私は拝謁すること自体初めてなんです。

「私は緊張していますよ」
「……そうは見えない」

 それ、ビオラにも言われましたね。
『緊張しているの』との私の言葉に、『凄く楽しみにしているようにしか見えません』とハッキリ返された。
 まぁ、本当に少しは、緊張はしていますよ?でも、どちらかと言うと、マナーやダンスの地獄の特訓やあの肌のお手入れの時間から今日で解放されると思えば、幸せでしかありません。
 それにーーー

「色々頑張ってきたので、それを発揮出来る日が来たのは、嬉しいです」

 何でも、努力の成果が形に残るのは嬉しいし、どうせなら良い成績を残したいと思うのは、当然でしょう?まるで学校のテストでも受けるかのような感覚。

「アレン様の妻として相応しいと思われるよう、精一杯務めてみせますね」

「…………好きにしろ」

 そっぽを向きながら突き放すような台詞を吐くアレン様の横顔は、以前の無表情と比べて、少し、微笑んでいるように見える。

「…はい!」

 心を読まなくても伝わるアレン様の感情に、私は嬉しくて、笑顔で返事をした。

 さて、私を舐め腐り、外見だけしか取り柄の無いお義姉様含め、そんなお義姉様を褒めちぎり、私を見下していた見る目の無い方々に、ちゃんと、私の価値を教えてあげますね。
 そしてーーーアレン様の本当の価値だって、叩き込んであげるーーー私は、お義姉様と違って男を見る目がある--ーいえ、心の声が聞こえるんですから。

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