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22話 諸悪の根源
しおりを挟む「何の御用でしょう?」
「アレン様と望まぬ結婚をした、カリア嬢が心配なんだ」
「私の心配……ですか?」
ユーリ様は笑顔から一変、私を心から心配しているような浮かない表情を浮かべると、私の方に一歩ずつ近付いた。
「カリア嬢の事は昔から知っているし……俺の義妹みたいなものだからね」
「……ユーリ様は、そんな風に私を思ってくれているんですね」
「俺は学生時代からアレン様を知っているけど、アレン様は学生時代から、よくない噂があってね。今も継続して、アレン様は非道な行いをしていると聞く」
そう言えばーーー噂の中には、アレン様が学生時代のものもあった。
教師に成績を上げるように脅迫した。気に食わない生徒を半身不随にさせた。気に入った女子生徒を監禁したなんて噂。
「それを裏付けるように、ラドリエル公爵邸はまるでホラーみたいな屋敷だろう?使用人達がアレン様の横暴に耐え切れず、皆、逃げ出しているからだよ」
……今は改善されて、とても綺麗になっているのですが、まだ知らないんですね。
「そんな所にカリア嬢がいて、何かあったらと思うで心配でーーー俺でよければ、助けになるよ。アレン様のもとから逃げ出したいなら、俺が、君を助けてあげる」
帰る場所の無い私を、悪魔の公爵から助け出してくれる。
それはそれは、助けを求めるお姫様なら、喜んでその手を取ってしまうでしょうね。
「カリア嬢、もう安心して、俺のもとにおいで」
そう言って、ユーリ様は私の手を取った。
《さっさとアレンのとこから逃げ出せよな!帰る場所が無いからって、いつまでもアレンの所に残りやがってーー!悪魔の公爵から逃げ出さないなんて、正気かよ、この女》
繋いだ手から伝わる、ユーリ様の心の声。
心が読めなかったら、貴方の底意地の悪さに気付かず、もう少し騙されていたかもしれませんね。
「どうする?このまま、俺がカリア嬢を連れ出そうか?」
《お前がアレンに気に入られるなんて予想外だ》
「後でアレン様には、俺から、カリア嬢は離婚を望んでいると伝えるから、問題無いよ」
《お前が逃げださないと、アレンの噂の信憑性が薄くなっちまうだろ?折角、俺が色んな手を使って、悪魔の公爵の噂を広めてやっているのにーーー》
バッと、私はユーリ様の手を振り払った。
「ーーカリア嬢?」
私が心を読んでいるとは微塵も思っていないユーリ様は、私の突然の行動に、驚きの表情を浮かべた。
気持ち悪い……もう少し心を読むつもりだったのに、これ以上は限界!心が汚過ぎて、吐き気がする!
でも、これで確信出来た。
クレパスとサザンカにアレン様の事を吹き込み、アレン様の悪評をばら撒いている貴族はーーーユーリ様!
アレン様の学生時代の悪評も、同級生だったユーリ様なら、広げやすい。
最低最悪の屑男ーーー!よくも、心は素直で可愛い私の旦那様に事実無根の悪評をばら撒きやがってーーー!!!
「カ、カリア嬢?どうしたんだ?大丈夫か?」
私の心の中の葛藤をユーリ様が読み取れるはずもなく、まだ私を心配しているような仮面を張り付けて、こちらを覗く。
ふっざけんじゃんねーぞこの野郎、なーんて、口が悪い言葉が出そうなのを何とか飲み込むと、私は笑顔を張り付けて、ユーリ様を見た。
「ユーリ様、私はもう令嬢ではありません。お忘れですか?私はもう結婚しているんです。ラドリエル公爵夫人なんですよ?」
「え…」
どうせ貴方は、前妻同様、私がすぐにアレン様から逃げ出すと思って、無意識か意図的か分かりませんが、カリア嬢の呼び名を変えるつもりが無かった。
でも残念でした、私は、アレン様と離婚する気なんて微塵もありません!
「どうしたんだい?悪魔の公爵のところにいても、君は幸せになれないんだよ?」
「とても幸せなのでご心配には及びません」
「あんな薄気味悪い、ろくな使用人もいない家で、どうやったら幸せだと思えるんだよ?!」
「以前まで勤めていた使用人は辞めたので、今は新しい使用人を迎えました」
「ーーな?!」
心底驚いた表情のユーリ様。貴方が口添えしてアレン様のところに送り込んだクレパス達が辞めたのも、知らなかったんですね。
「その辞めた使用人達が、アレン様のありもしない話を流し、歴代の奥様達や使用人を追い出していたので、処罰し解雇しました。おかげさまで、今はラドリエル公爵邸も綺麗になり、使用人も増えて、身支度を手伝って下さるメイドや、アレン様のお部屋を綺麗にして下さる優秀な執事も雇えました」
ラドリエル公爵邸が綺麗になったのは外から見ても一目瞭然だし、使用人達が辞めていないのも伝わっていくでしょうから、いずれ、ラドリエル公爵邸がホラーゲームに出てくるような不気味な屋敷から、正常な公爵邸に生まれ変わったことは周知の事実になる。
そうなったら、アレン様を貶めようとするユーリ様の企みは、崩れますよね。
「……よく、その使用人達の仕業だと分かりましたね」
「アレン様がそんなことをされる人では無いと思ったので、私がおかしいと思い、アレン様に進言しました」
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