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19話 姉妹喧嘩

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「まぁ、これ綺麗ですわ。私に良く似合いそう」
「本当だね。きっとドレスも、良く似合う相手に選んで欲しいだろうね」

 うざい……!マジでうざい!どうせ私はお義姉様みたいに美人じゃありませんよ!

 いちいち嫌味のような発言を繰り返すお義姉様とユーリ様。

 性格悪すぎて呆れますし、本当は『お義姉様は性根が腐っているので、折角の綺麗なドレスも腐ってしまうかもしれませんね』なんて言いたい所だけど、こんな所で姉妹喧嘩なんてしたら、お店にも迷惑が掛かってしまいますし、私はお義姉様と違って大人ですから、我慢しているんです。
 そんな安い挑発に乗って、感情を揺さぶられるほど、子供じゃないんです。


「ーーーこの店でカリアに似合う一番のドレスを用意しろ。金に糸目はつけない」


 ーーー隣にいるアレン様は違うみたいですけどーーー


「カ、カリア様に一番似合うドレスですか?」

 そんな抽象的なことを頼まれたら、デザイナーさんも困ると思います!

「さっさとしろ。あと、ここにある全てのドレスは、我がラドリエル公爵家が買い取る」

 めちゃくちゃ安い挑発に全力で乗るの?!?!
 待って!ここ、有名な仕立屋ですよ?!ドレス一着の値段もそこそこ高価ですよ?!

「ぜ、全部だなんて……いったい幾らになりますの……!?そんな大金を、カリアなんかに使うっていうのーー!?」

 帝国で有名な仕立屋。そのドレスを全て、私の為に購入すると言い出すアレン様に、お義姉様は私に負けたと思ったのか、ワナワナと怒りで体を震わせていた。
 いや、でも待って!私はそんなこと望んで無いんですけど?!

「アレン様!私、そんなにドレスは必要ありませんよ?!」

 衣装部屋が大変なことになります!いや、広い衣装部屋だから大丈夫でしょうけどーーーってそうでは無くて!

「こういうのは、時期や季節によって流行りが違いますし、一気に買う必要はありません」
「関係無い、金は腐るほどある」

 言ってみたい、その台詞。じゃなくて!
 アレン様はいつも通りの、無表情で冷たい表情に見えるけど、いつもと違う、本当に怒っているのが、伝わる。

「アレン様、落ち着いて下さい」

 私はアレン様を落ち着かせるように、手にそっと触れた。

 《あの無礼者達は、僕の妻を馬鹿にした!》

 その心の中は、私を侮辱した二人に対する怒りでいっぱいだった。

 《カリアは、何を着ても似合う!高い物でしか着飾れない、けばけばしい醜いお前とは違う!お前こそ、カリアの足元にも及ばない!カリアのような女性こそが、美しく素晴らしく可愛い自慢の妻だ!》

 ほめ過ぎです……!恥ずかしいです!
 こんな風に馬鹿にされるのは、グレイドル男爵家では日常だった。逆らったら後々面倒だからと、聞き流す日々。
 そんな私の為にーーーアレン様はいつも怒ってくれる。私をーーー守ってくれる。

「……ふふ」

 私はアレン様から聞こえた心の声に、耐えきれず笑いがこぼれた。

「……カリア?」
「ああ、ごめんなさい。つい……」

 お義姉様に向かって、醜いなんて表現をするから、思わず笑ってしまった。
 今まで私の周りにいた男性は、皆、お義姉様の外見の美しさに惑わされている人ばかりだったから、そんな風にお義姉様を評価する人はいなかった。

 お店のことを気遣って、我慢していたけど……アレン様がこんなにも私の為に怒って下さっているんですから、私も我慢する必要ありませんよね。
 姉妹喧嘩、上等です。買いましょう。

「アレン様、私の為にドレスを全て買って下さるなんて言って下さってありがとうございます。でも、先にお義姉様の方から選んでもらっても良いですか?お義姉様達には、このお店のドレス一着買うので精一杯でしょうから、可哀想でしょう?」

「……は、ぁ?!」

 急な私の嫌味に、最初気付くのが遅かったけど、意味が分かってからは、お義姉様は顔を真っ赤にさせた。

「ユーリ様は最近、帝国の騎士としての評価を出しておらず、降格されたとか?それでしたら、お給金も減って大変でしょう?お義姉様は散財大好きの金食い虫ですし」
「誰が金食い虫よ!貴族の女はお金がかかるのが当然なのよ!」
「それにしたって、お義姉様はお金がかかりすぎだと思いますよ」

 まぁ、自分達の家の為にも、良い結婚相手を見つけたいお父様達が、美人なお義姉様をめいいっぱい着飾らせた所為でもありますけどね。

「美人にはお金がかかるものなのよ!カリアみたいな不細工と違ってね!」
「ああ、お義姉様は外見だけ良い所が集中して、後はくるくるぱーですものね!学校でも成績最下位でしたっけ?」
「っ!女に学なんて必要無いって言ってるでしょ!貴族の女は、良い旦那様を捕まえればそれでいいの!」
「その不細工な妹よりも良い旦那様を見付けられなかった可哀想なお義姉様はどこですかー?」
「はぁ?!ユーリ様のどこがアレン様に劣ってるっていうのよ?!」
「爵位、顔面偏差値、お金、強さ、帝国騎士での地位、性格の良さ、全てアレン様の圧勝です」
「嘘つくな!ふざけないでよね!」

 失礼な、嘘なんかついていません。全て真実です。本当はアレン様と雑魚を比べること自体、おこがましいんですよ?
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