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16話 買い物
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あれからまた一ヶ月が過ぎた。
使用人を新しく迎えたラドリエル公爵邸はとても平和で、私を窓口にせずとも、スマルトとビオラはアレン様と会話出来るようになった(注意 まだその二人以外の使用人は、アレン様に大変怯えておられ、実は10名程、アレン様に睨まれたと退職の意向を示したりもしたが、説得により回避している)。
特にスマルトは執事という職業柄、アレン様と共に過ごす時間が多く、沈黙の長さで何となく言いたい事が読み取れるようになったらしい。
スマルトの成長が凄い……!妻である私を差し置いて……旦那様の理解力で抜かれるわけにはいかないわ!
「………なんだ?」
「いえ。スマルトに旦那様の理解力で負けていられないと奮起しているところです」
「ーーーは?」
今日はアレン様と二人で、街に、私の買い物に出掛けている。
と言うのも、私があまりにも服や装飾品を持っておらず、購入もしないことに呆れたビオラが、遂にアレン様に直接物申したからだ。
ビオラの進言に(無表情でいきなり部屋に来たと思ったら衣装部屋に連行され、持っているドレスや普段着、宝石やアクセサリーを無言で確認された)アレン様は、『…買い物に行く』と、日程を調整して付き合って下さることになった。
グレイドル男爵家にいた時は、姉ばかり優遇され、私には必要最低限の物しか与えてくれなかったし、ラドリエル公爵に嫁いでからも、家を綺麗にする為の家具などの買い物はしたけど、個人的な買い物は一切していない。
元から物欲が無く、新しいドレスも装飾品も必要無いと思っていたのですが、『ラドリエル公爵夫人として振る舞うのに、今持っているドレスや装飾品では心もとないです』とのビオラの助言も有り、アレン様に恥を欠かせない為にも必要だと思い直した。
こうやって主人に進言も出来るなんて、本当にビオラは優秀よね……なんてしみじみ思いつつ、結果的には、こうしてアレン様と二人でお出掛け出来ることになったし、私には良い結果になった。
「アレン様、あれ見て下さい!とっても美味しそうなスイーツ店ですよ!」
馬車の窓から見える街の景色にはしゃぐ私を、アレン様はジト目で見つめた。
「……何がそんなに楽しいんだか……」
「アレン様との初めてのお出掛け、私、凄い楽しみにしていたんです!」
揺れる馬車の中、不愛想なアレン様に素直な気持ちを伝えると、アレン様は無言で私から視線を逸らした。
これは、心を読まなくても分かりますよ?アレン様は照れていますね。
「………カリアは他に何か欲しい物は無いのか?」
「欲しい物ですか?」
「部屋に飾る絵画やら個人的な宝石や鞄、靴、指輪、何でもいい」
「……んー、ありませんね」
正直、今から買いに行くドレスや装飾品も欲しいワケじゃありませんしね。ドレスなんて動きにくいし、窮屈だし、普段着の方がよっぽど楽。装飾品も別にじゃらじゃら付ける趣味はありません。絵画も別に興味無いし……
「あ!ーーーいえ、やっぱり何でもありません」
一つ頭に思い浮かんだけど、直ぐにかき消した。
昔、物欲の無い私が唯一欲しがったけど、お父様にもお義母様にもお義姉様にも、そんな物は必要無いと一蹴された物。
「……何だ?」
「いえ……その……」
これを言ったら、アレン様にも必要無いと一蹴されてしまうと思い、言葉が言い淀んだ。
「ハッキリ言え」
「……魔法書です。私、昔から、魔法の勉強がしたかったんです」
女に、学も力も必要無いと学ばせて貰えなかったけど、私はずっと、魔法の勉強がしたかった。
「………」
「あ、大丈夫ですよ。私はもう結婚した身ですし、今更、魔法を学びたいなんて思っていませんから」
アレン様と結婚したからには、妻として家の管理をしたり、いつ何時、アレン様の隣に立っても恥ずかしくないよう身なりに気を使い、日々のお手入れをして、お茶会を開いて貴族の妻同士の交流を深め、情報交換したり、人脈を作ったりーーー面倒臭い!!!けど、頑張らないと……魔法の勉強なんてしてる暇は無い。魔法を学ぶためのお金を出してもらうなんて、もっと無いーーー。
「……何故だ?僕と結婚したからと、やりたいことを諦める意味が分からない」
「……え?」
私の発言の意味が分からないアレン様は、首を傾げた。
「……女が魔法を学ぶなんて……無駄……です…から」
「……僕は一応、帝国の魔法騎士だ。妻が同じ魔法を学びたいと言っているのを咎めるつもりはない、学びたいなら、勝手にすれば良い」
きっとアレン様は、何気なく言っているつもりなんでしょうけど、私にはアレン様のその発言は、とても衝撃的だった。
お父様もお義母様も、貴族の女として重要なのは、良い条件の貴族の男を射止める事だと、女として価値が高い、見目美しいお義姉様ばかりを可愛がった。
お義姉様が格上であるトランス伯爵のお眼鏡に叶った時には、お義母様もお父様も、お義姉様を自慢の娘だと褒めちぎり、学校で優秀な成績を残した私を、役立たずと非難した。
『成績優秀がなんだっていうの?女が優秀だと、それは男にとって、可愛げがなくなるのよ』
ーーー私の努力は、全て否定された。
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