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15話 元凶⑤
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「……何を話していた?」
一連の騒動が落ち着いたのは、もう朝方だった。
普通なら睡眠不足、眠気が来るはずなのに、興奮からか、目がパッチリと開いていた。
「……最後、気のせいかもしれませんが……クレパスは、アレン様を裏切っていたことを、後悔した気が……します」
心を読んでいないから、また騙されているかもしれないけど、最後に教えてくれた情報は、彼なりの贖罪のつもりだと思う事にした。
「………そうか」
アレン様はポツリと、そう呟いた。
「アレン様は大丈夫ですか?」
「………ああ」
絶対嘘だ。と思ってしまう私。
私が最初、二人の裏切りを伝えた時、心の奥底から、《二人がそんな事をするはずが無い!》って思っていましたよね?
アレン様と同時に伝えたビオラとスマルトは私の言うことを信じてくれたのに、アレン様だけは全く信じてくれなくて、こんな手の込んだことをする羽目になったんですよ?
初めから私の言うことを信じて下されば、ただ二人を呼び出して、処罰を与えて下されば済んだんですよ?
そこまでして信じた二人に裏切られたんですから、これで大丈夫なら、それはそれで神経を疑います。
「アレン様、奥様、よろしければこちらを。睡眠に良いお茶です」
ビオラが温かいお茶を用意してくれ、置きっぱなしになっている本やペン、衣類をかき分け、机の上に置いた。
……広い部屋……
初めてアレン様のお部屋に入ったけど、愛用の剣に、大量の本棚、執務用の机、椅子、大きなベッド。色々あるけど、まず、一つ言いたいのがーーー整理整頓されている所と、されていない所の差が激し過ぎます!
仕事関係の執務用の机と椅子は綺麗に整理整頓されているのに、ベッドとか床とか机とか椅子とか本が散乱してる!こんな所でも二面性が?!
「……………アレン様。もしよろしければなのですが、次回から私がお部屋のお掃除に伺ってもよろしいでしょうか?」
スマルトも同じことを思っていたようで、長い沈黙のあと、意を決したように、アレン様に尋ねた。
「勿論、触れられて欲しく無い物には、触れないよう注意致します」
「……好きにしろ」
言葉は相変わらずぶっきらぼうだが、アレン様はすんなりと許可を出した。
そっか……誰も自室に近付いて欲しく無いっていうのも、クレパスがついた嘘だったから……。
私だけじゃなく、スマルトにもそう言って嘘をつき、アレン様に必要以上に近付かないようにしていたのだろう。
「ありがとうございますアレン様」
「……」
スマルトは部屋に近寄る許可を得たことに嬉しそうにアレン様にお礼を告げた。
アレン様はお掃除が苦手なのね。
「……アレン様は、使用人のことをとても大切に思って下さる主人なのですね。そこまで思われていたクレパスさんが羨ましいです」
「…!」
貴族の中には、使用人を道具としか思っていない者達が山ほどいる。スマルトは優秀な執事だから、過去、どのような家に仕え、どのような扱いをされたか、守秘義務を守り、口には出さないでしょうけど、もしかしたら、主人に酷い扱いを受けた事があるのかもしれない。
「いつか、私もアレン様に信頼して頂けるよう、これから精一杯努めさせて頂きます」
「……私も、アレン様と奥様に精一杯、お仕え致します」
スマルトと同様、ビオラも、深く頭を下げた。
いち使用人であるクレパスとサザンカを深く信用していたアレン様の姿を見て、スマルトとビオラは、アレン様の本質を少し、理解してくれたのかもしれない。そう思うと、とても嬉しくなった。
「……………好きにしろ」
素直じゃないアレン様。
アレン様が今、何を思っているのか、少しだけ、心を読んでおけば良かった。なんて思ったけど、喜んでいるのは分かるから、今日は止めておきます。
これからも、アレン様を理解してくれる人達が増えたらいいな。私はそう思いながら、ビオラの煎れてくれたお茶を口に入れた。
「ふぁ…」
お茶の効果が早速現れたのか、眠気が襲い、欠伸が出た。
今なら眠れそう…。
「奥様、そろそろお休みになりましょう」
「ええ、ありがとうビオラ。では、アレン様、お休みなさい」
椅子から立ち上がり、アレン様にお休みの挨拶を告げる。
「………………カリア」
「はい?」
長過ぎる沈黙の後に呼び止められたので、私はもう部屋を出て、扉が閉まるところだった。
「好き……………だ」
「……」
パタンっと、扉が完全に閉まる。
「……奥様?開けましょうか?」
「……止めておきます」
気を使ったビオラが扉を開けようとするが、私はそれを首を振って止めた。
え、好きって言った?心の声では無く?手に触ってないから、言ったのよね??何故、今???
私が素直に、気持ちを口にして欲しいと、お願いーーしたから?
「私への愛情はハッキリと伝わっていましたけど、素直に言葉に出されたら、は、破壊力が抜群過ぎて……心臓が……!眠気がまた吹き飛びました!」
「……奥様は普段、アレン様のどこら辺から、愛情が伝わるんですか?」
心を読めないビオラは、無表情、言葉にも出さないアレン様のどこを見て愛情が伝わっているのか、全く理解が出来なかった。
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