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14話 元凶④

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「主人に仕える身でありながら、主人を貶める行為を行うなんて、執事の風上にもおけません」
「サザンカもメイドとしても失格です。恥を知りなさい」

「なーー何よ……ただのおばさんのクセに…!私は、ずっとアレン様に仕えてきたのよ?!」
「そうです!たかが新参者の分際で!俺達の方が長く、ここで働いて来たのに偉そうに指図をするなんてーー!」

 クレパスもサザンカも、使用人として薄っぺらいプライドだけは持っているようで、後からラドリエル公爵邸に来た二人の言葉に、噛み付いた。

 自分達だけが、ここで長く悪魔の公爵に仕えてきた。それだけが、彼等にとって誇れることなのでしょうねーーー貴方達が、他の使用人達を辞めるように仕向けていたのに、随分、図々しい誇りだこと。

「お許し下さいアレン様!新参者が大きな顔をしているのも、その新参者を招き入れた奥様も許せず、つい、嘘を付いてしまったんです!」
「私達は、他の使用人達が次から次へと辞めた時も、ずっと、アレン様に仕えてきました!どうか許して下さい!」

 クレパスとサザンカは揃って、膝を付き、アレン様に土下座して許しを乞うた。

「………」

 アレン様……。

 殺意を込め、ただ黙って睨み付けるアレン様の手を、私はそっと握り締めた。


 《ずっと……僕に仕えてくれていると思っていたのに……信じていたのに……》


 彼の心から聞こえたのは、信じていた者からの裏切りに悲しむ、悲痛の言葉だった。

「っ!なら、それより前の奥様や、使用人達は?その人達にも、嘘をついて追い出していたんでしょう?!逃げるように仕組んでいたんでしょう?!貴方達は、嘘つきです!貴方達の所為で、アレン様が、どれほど傷付いてきたかーーー!!!」

 彼等は、アレン様が本当は、悪魔の公爵だなんて呼ばれるほど、理由も無く冷酷非道な行いをするような人じゃないと分かっていて、好き勝手していた。
 アレン様を利用していた!こんな人達が、アレン様を貶めていた!表には出さないだけで、アレン様はずっと、傷付いていた!今だって、貴方達なんかの所為で、傷付いている!
 私はそれが、一番許せない!

 目に涙を溜め、二人を怒鳴りつける私の姿を、アレン様は表情一つ変えず、見つめていた。


「……クレパス、サザンカは本日をもって解雇する。紹介状はスマルトに任せるが、今回の件をしっかりと記載しろ」
「かしこまりました」

「お待ち下さいアレン様!そんな事をされたら、俺達を雇ってくれるところが無くなります!」

 紹介状は、使用人達が別の場所で働くための履歴書のようなもの。唯一無二であり、偽装は重罪。
 お仕えする主人の奥様や他の使用人達を追い出し、結果、主の悪評を広め、貶めた。そんな使用人を雇いたい主人は、きっと帝国中のどこを探してもいないでしょう。


「黙れ……殺されないだけマシだと思え」
「ひっ!」

 《……嘘でも、長い間僕に仕えてくれていたから……》

 十分寛大だと思いますよ。
 良かったですね、本当にアレン様が悪魔の公爵なら、貴方達は間違いなく、血の涙を流していました。アレン様の優しさに、心から感謝して下さい。

 他の使用人達も騒ぎを嗅ぎ付け、クレパスとサザンカは、両脇を固められながら連れ出された。


「………待って」

 私は二人を呼び止めると、彼等の前に立った。

「……何か御用ですか?」
「あんたさえ来なきゃ、全部が上手くいってたのに……!」

 上手くいっていたのは、貴女達だけでしょう?それはアレン様の幸せじゃない。

「残念でしたね、私がアレン様の妻になったからには、私が彼を幸せにします」

 心の中は素直で可愛い私の旦那様。
 アレン様が私を守ると思って下さるように、私もアレン様をお守りします、幸せにします。それがきっと、幸せな家庭を築く事に繋がると思うからーーー。

 私の言葉に、クレパスは驚いた表情を浮かべたあと、全てを諦めたように、大きなため息を吐いた。

「変わった貴族令嬢だと思っていましたけど、俺達の完敗ですよ。まさかアレン様のことをそんな風に思う奥様が現れるなんてね」

「……アレン様は……貴方達が裏切ったことを……とても、悲しんでいましたよ……」
「!」

 例え貴方達が執事として、メイドとして不出来でも、アレン様は絶対に見捨てたりしなかった。貴方達はただ、ゆっくりでも頑張って、成長していってくれればーーーそれで良かったのに……!

「……そっか……アレン様……俺達なんかのことで……傷付いたりするんだな……」
「……」

 しますよ。アレン様は……悪魔の公爵なんかじゃない、本当は、とても優しくて……信頼していた人の裏切りに傷付く、ただの普通の人間だもの。
 これだけはどうしても二人に伝えたくて、呼び止めた。


「……あんさ、俺達、アレン様のもとで働くよう、昔、貴族の人に声かけられたんだよね」
「ーーえ?」

 去り際、クレパスはしっかりと私の目を見つめ、言葉を吐いた。

「誰かは分かんねーけど……『実は良い奴だけど、不器用だから、好き勝手に働ける』って。『もし本当は良い奴ってバレちゃったら、君達には働きにくくなるから、気をつけてね』ってさ」

 執事クレパスの時とは違い、砕けた口調。きっとこっちが、彼の素の話し方なんだな、と思った。

「じゃーな」

 彼の手に触れていないから、それが本当の事なのかも分からない。分からないけどーーー何となく、最後に本当のことを教えてくれたんじゃないかと、思った。

 貴族の誰かが……アレン様を貶めているってこと?それってーーー誰なの?

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