上 下
13 / 30

13話 元凶③

しおりを挟む
 


 *****


 ーーー心を読める。それはある意味卑怯な裏技。
 きっと誰もが心を読まれるとは思っていないだろうし、無防備な状態を土足で踏み荒らされたようなものかもしれない。かと言って全ての心が読み取れるかと言えば、そうでは無い。
 手に触れている間、相手が思った事を読み取るだけで、知りたい事を毎回都合良く読み取れるワケでは無い。
 それに、彼氏彼女でも無い相手の手に自然に触れるのも、中々に困難だったりする。

「クレパス、お茶を入れてくれる?」
「…はい」

 カップにお茶を入れている間に手に触れようかともしたけど、そんなに急に触れられても向こうも不審がるでしょうし、その一瞬で都合良く、私の知りたい情報を考えているとは、思えない。

 まだ何か隠し事があるかもしれないと思って、情報が欲しかったんだけど……そんなに都合良くはいかないか。


「あの、奥様……また私を身支度に呼んで下さい」
「ごめんなさい、メイドの管理は全てビオラに一任したの。だからビオラに聞いてくれる?」

 またサザンカを身支度に呼びつけて、心を読もうかとも思ったけど、あの一回ですら、ビオラが『あんな未熟者に奥様のお世話をさせるわけにはいきません』と嫌がっていたのを無理強いしたから、強行しづらい。『どうしてもするなら、私が傍にいてサザンカを指導します』と言われた。
 ビオラの監視付きでサザンカの手に自然に触れられるかなーーっと思って、諦めた。
 クレパス達が私にアレン様の人身売買疑惑を告げてもう二週間。

 餌も撒いたし、きっともうそろそろ、動きがある頃かな?

 なんて思っていたら、すぐに動きがあった。単純で短絡的。我慢が効かない性格で助かるわ。



「奥様、いつ、ここから逃げ出しますか?」

 中々ラドリエル公爵邸から逃げ出さない私に業を煮やしたクレパスとサザンカが、わざわざ誰もいない深夜、私の部屋まで訪ねて来た。
 昼間はいつも誰かしらを私の傍にいるようにしたから、こんな主人を貶める嘘の内容、他の人の目がある所では話せないものね。

「えっと……逃げ出すって?」
「前に話したじゃありませんか!アレン様が、奥様を人身売買で売り払おうとしているって!」

「あれってーーー本気だったんですか?」

「はぁ?」

 私のすっとぼけた発言に、クレパスとサザンカは苛立っているようだった。

「クレパスとサザンカが悪ふざけで言っているのだとばかり思っていました。アレン様が、そんなことするはずありませんもの」

 本当は優しい妻想いの人。そんな人が、私を人身売買に出すわけがありません。それに、本当にラドリエル公爵が人身売買に手を出していたら、大事件ですよ?犯罪ですよ?世間を賑わす大事ですよ?そこんとこ分かっています?

「何言ってーーアレン様は、悪魔の公爵ですよ?!今までだって、気に入らない使用人を斬り付けたり、歴代の奥様を殺そうとしたこともあるんですよ?!」
「そうです!その都度、私達が皆さんを逃がしてあげていたんです!」


 ーーーふふ。本当に、馬鹿は単純で助かります。まさか心を読まずとも、自分で自白してくれるんだもの。
 私は微笑みを隠さず、彼等に見せつけた。

「な……奥様?」

 私の意味深の微笑みが、彼等には不気味に映ったんでしょうね、なんとも面白い、ひきつったような表情を浮かべた。

 心を読んだだけでは、証拠にはならない。
 私が、いくら彼等が全て仕組んだことだと言っても、信じてくれないでしょう。

「人身売買の件は自分から自白してくれると思っていましたけど、まさか、過去のお話まで口に出して下さるとは思っていませんでした。本当にありがとうございます。これで、貴方達の罪が明白になりましたね」
「は?一体、何を仰っているんですーーかーーー」

 お忘れですか?私は、引っ越しをしたんですよ?アレン様の隣の部屋にね。

 隣の部屋の扉が開くのを、クレパスとサザンカは、まるで死刑台に上る死刑囚のような、絶望の表情で見ていた。

「アレン…様!?」
「やっ!嘘!何で?!アレン様は、今日は遠征で帰って来られないってーー!」

 魔物退治には出かけましたが、遠征は嘘です。スマルトにお願いして、嘘の情報を流して、貴方達を誘き寄せる餌にさせて頂きました。
 貴方達は真面目に働くのが限界なのか、最近はよく仕事を抜けだしてサボっていることが多かったので、アレン様は貴方達に見つからず、簡単に部屋に帰れましたよ。
 貴方達が過去、私がアレン様と出会わないようにしていたのと、同じ事をさせて頂きました。

「……どうゆうことだ?カリアを人身売買で売る?誰がいつ、そんなことを話した?いつ、僕が使用人を斬り捨てた?ーーー妻を殺そうとした?」

 アレン様は私の元まで来ると、今回こそ嘘ではなく本当に、使用人である彼等に激しい殺意を向けた。

「い、いえ……これは、そのーー」

 アレン様の殺意に触れ、上手い言い訳が思いつかず、体をガタガタ震えさせながら、言いよどむクレパス。
 近くで隠れて待機していたスマルトとビオラも、その場に姿を見せ、二人を取り囲んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】

皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」 お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。 初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。 好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。 ****** ・感想欄は完結してから開きます。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

【完結】「財産目当てに子爵令嬢と白い結婚をした侯爵、散々虐めていた相手が子爵令嬢に化けた魔女だと分かり破滅する〜」

まほりろ
恋愛
【完結済み】 若き侯爵ビリーは子爵家の財産に目をつけた。侯爵は子爵家に圧力をかけ、子爵令嬢のエミリーを強引に娶(めと)った。 侯爵家に嫁いだエミリーは、侯爵家の使用人から冷たい目で見られ、酷い仕打ちを受ける。 侯爵家には居候の少女ローザがいて、当主のビリーと居候のローザは愛し合っていた。 使用人達にお金の力で二人の愛を引き裂いた悪女だと思われたエミリーは、使用人から酷い虐めを受ける。 侯爵も侯爵の母親も居候のローザも、エミリーに嫌がれせをして楽しんでいた。 侯爵家の人間は知らなかった、腐ったスープを食べさせ、バケツの水をかけ、ドレスを切り裂き、散々嫌がらせをした少女がエミリーに化けて侯爵家に嫁いできた世界最強の魔女だと言うことを……。 魔女が正体を明かすとき侯爵家は地獄と化す。 全26話、約25,000文字、完結済み。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 他サイトにもアップしてます。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願いします。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...