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7話 結婚初夜
しおりを挟む「料理人もつい先日辞めてしまいーー」
「大丈夫。食材と厨房だけ貸してくれる?私が作るわ」
食事も私の分は用意されてなかったから、自分で作ったりしてたんですよね。得意料理は、シチューです。
「……大変心強い奥様ですね。貴族のご令嬢とは思えません」
普通の貴族令嬢は、料理とか掃除、自分でしないですものね。
「厨房は一階にございます。冷蔵庫の中に入っているものはご自由にお使い頂いて構いません。箒とちりとりはこちらにご用意しております。では何かお困りごとがありましたら、またお声がけ下さい」
「ありがとう。あの、アレン様の分も夕食を作ろうと思うのだけど、一緒に召しあがりませんか?と、伝えてくれませんか?」
「アレン様とですか?」
クレパスは私の発言に驚いたように目を丸くした。
「失礼。歴代の奥様達は、そんな事誰もおっしゃらなかったのでビックリしてしまいまして……」
そんなんでどうやって、歴代の奥様達はアレン様と過ごして来たんですか?
「アレン様は仕事を残して結婚式に出席されましたので、今は自室に籠って仕事をしている最中ですから、夕食をご一緒するのは難しいと思います。お仕事中に邪魔をすると、アレン様は大変お怒りになり、暴れて手が付けられないので、なるべく近づかないようにお願いします」
「…はい、分かりました」
確かに、お義姉様に怒っていらしたアレン様は怖かったですけど……仕事を邪魔されたら、暴れて手が付けられなくなるほど、お怒りになるんですね。
「夕食は難しいかもしれませんが、今日は結婚初夜ですから、夜には奥様のお部屋に来られると思いますよ」
「初夜ーー!」
急に現実を突きつけられた気がして、心臓が大きく高鳴る。
そうですよね……今日は、私達の結婚初夜!貴族の妻として、子供を産むのは大切な役割ですものーーー!アレン様だって、だから私との結婚をお受けしたんでしょうし……!
「では、失礼いたします」
持ってきた箒とちりとりを置くと、クレパスはそう言い残し、頭を下げ、部屋を出た。
「……とりあえず、お掃除しなきゃね」
いつまでも戸惑っていても仕方が無い。結婚が決まった時に、覚悟はしていたこと。
アレン様は想像していた以上に良い人だったし、私を幸せにすると、守ってくれると、(心で)言ってくれた。好きになれるかもしれないと、思った。まだそう思ったばっかりだけど、結婚して貴族の妻になったのだから……アレン様をちゃんと好きになれるまで待って欲しいなんて、初心な事は言っていられないわ。
「よし!どんとこいです!」
私は覚悟を決め、部屋の掃除を始めたーーー
ーーー次の日ーーー
「一睡も出来なかった……!」
私は真っ赤に充血した目で枕を抱き締めながら、ベッドの上で座っていた。
結婚初夜なのに旦那様が部屋に来ないーーー!何で?!どうして?!私、凄く覚悟を決めて待っていたのに!新婚夫婦なら、最悪、これで離婚案件ですよ?!
「ーーそんなにお仕事が忙しいのかしら」
結婚式に出るために、仕事を残していたと聞いたから、その仕事が終わらずに大変なのかもしれない。なのに、旦那様を責めるのは……駄目ですよね。でもせめて!一声欲しいところですけど!!!
「……朝ご飯でも作りに行こう」
私は眠気覚ましに冷たい水で顔を洗うと、昨晩教えてもらった厨房に足を運んだ。
「奥様、おはようございます」
厨房には、クレパス以外にいる使用人で、昨晩挨拶に来てくれたメイドの《サザンカ》が、簡単な朝食を用意していた。
「おはよう。サザンカが朝食を作っているの?」
「はい。料理人がいなくなってしまったので……奥様の身支度を手伝えずに申し訳ありませんでした」
サザンカは朝食を作る手を止め、私に頭を下げた。
「私は大丈夫よ」
グレイドル男爵家では、私に専属のメイドなんて付けてくれなかったから、身支度も全て自分でしていた。
「……クレパスが言っていた通り、変わった奥様ですね」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
普通の貴族令嬢なら、こんな何でも自分でしなくちゃいけない環境、いち早く逃げ出したくなるでしょうね……。
公爵家に相応しくない指輪、誓いのキスの拒否、ホラーゲーム並みの薄暗い屋敷、結婚初夜の妻の放置、圧倒的使用人不足ーーー結婚式から何度、普通なら離婚案件だと思ったことかーーーそりゃあ、歴代の奥様達も逃げ出しますよ。
「アレン様は?今日も食事をご一緒して下さらないかしら?朝食だけでもいいんだけどーー」
「アレン様はもうお出かけになりましたよ。お仕事の都合で、夜遅くまで戻って来られないようです」
「そう……」
私はサザンカの用意してくれた朝食を手にしながら、小さく頷いた。
ーーー更に一週間後ーーー
「全っっ然!アレン様に会えない!」
私は部屋のテーブルに突っ伏しながら、不満を口した。
「放置が過ぎる……!いくらお仕事が忙しいと言え、新婚の妻を家に連れて帰って来て、何も言わずに一週間も放置する?!」
結婚初夜は、いつアレン様が来るかと緊張していたけど、一週間も何も無く過ぎたら、何で来ないの?!と、緊張が怒りに変化しました。
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