心が読める令嬢は冷酷非道?な公爵様に溺愛されました

光子

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5話 披露宴③

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「ーーーあら、ユーリ様じゃありませんか。わざわざ私の披露宴に来て頂き、ありがとうございます」

 ご来場頂いた皆様に挨拶を周り、最後に親族席に着くと、結婚式には来ていなかった人物を見つけ、声を掛けた。

「……どうも、カリア嬢。結婚おめでとう」
「あら、私は先程結婚式を終えて、正式に、ラドリエル公爵夫人になったんですよ、ユーリ様」
「……おめでとうございます、カリア様」

 ユーリ様は正しく私の嫌味に気付いて、口調を改めた。
 お義姉様の婚約者であるユーリ様は、直接私を攻撃することは無かったけど、ずっとお義姉様やお義母様と一緒になって馬鹿にしていたのを知っている。
 一度だけユーリ様の心も読んだことがあるけど、その心は、口にするのも嫌なくらい、とても汚いものだった。

「アレン様もおめでとうございます。お久しぶりですね」
「……ああ」

 ユーリ様は立ちあがると、アレン様に頭を下げた。

「まさか先の戦争の褒美に、貴方が皇帝陛下から公爵の爵位を受けるとは思いませんでしたよ。学生時代は同じ伯爵位だったのに、差をつけられてしまって悲しいです」
「……興味無い。上がりたいなら、もっと努力しろ」

「ーーー」

 場の空気が一瞬、凍り付いたのが分かった。
 ユーリ様は笑顔で穏やかな雰囲気を纏われてるけど、実際はプライドの高い人。同格だと思っていた同級生が上に行き、自分はその地にくすぶったまま、何の成果もあげれず、心の奥底で惨めな思いをしているに違いない。なのに、嫉妬の対象であるアレン様には相手にされず、一蹴された。

「はは。手厳しいですね」
「……」

 その作り物の笑顔の裏に、ユーリ様は何を思っているのでしょうね?私もアレン様同様、興味無いけど。


「そう言えばお義母様、お義姉様、お二人が着ているドレス、素敵ですね。とてもお高い物だったのではありません?」
「な、何よ。どうだっていいでしょう!」

 良いワケないじゃないですか。そのドレスを買ったお金は、私の結婚式の費用として計上しているのでしょう?私のウェディングドレスや装飾品、式場の飾りや披露宴の余興にはお金をかけずに、自分達のドレスや、食べる食事にだけお金をかけた。
 ーーー絶対に返して頂きます。

「それがですね、実は間違えて結婚式の費用の中に、お義母様達のドレスや装飾品のお金を含んでしまっていたんですよ。ですから、ちゃんと抜いておきました」
「何よそれ!私達のドレスをあんたが負担するのは当然でしょう?!」
「私の結婚式なのに、どうしてお義姉様やお義母様のドレス代を負担しなければならないんですか?絶対にお断りします」

 本来、結婚式の準備を行うのは私だったんだから、費用に何を含めるかは、私の判断ですよね?人のお金だからと、高い買い物をしないで下さい、卑しいお義姉様。

「わざわざ私が、あんたなんかの結婚式に来てあげてるのよ!?家族の輪に入れない、除け者のあんたなんかの!」

 来てくれなんて頼んだ覚えはありません。
 招待する人を選べたならーーー私の家族は、誰一人だって呼ばなかった。

「あんたなんか、誰からも大切にされていないクセに!」
「……痛っ」

 乱暴に体を押され、傾く体。
 私がお義姉様に反抗すると、いつもこう。こうして、乱暴に扱われる。
 ーーー私が誰からも大切にされていない事くらい、私が一番良く知ってる。
 助けを求めて、唯一血の繋がりのあるお父様の心を読んだ時に、ハッキリと理解した。


 《カリアも母親と一緒にいなくなってくれていたら、本物の家族だけで暮らせていたのに》


 私は、家族にとって、邪魔者なのーーー


「ーーーグレイドル男爵家は、片方の娘の躾がなっていないようだな」
「!アレン様……」
「ひっ!」

 倒れる私の体を、アレン様が支えて下さった。その目には激しい殺意が込められていて、お義姉様を射るように睨み付けた。

「や……ご、誤解です……!カリアが、私に酷い事を言ったから、つい……!」
「酷いこと?お前達のドレスが結婚式の費用に含まれていたのを正したのが?グレイドル男爵令嬢は、ラドリエル公爵家にお金を出して貰うのが当然だと?」
「ち……違っ!」

 お義姉様は小さく喉で悲鳴を上げ、ガタガタと体を震わせた。

「ア、アレン様!お許し下さい!マーガレットは、大好きな妹がお嫁に行く事が悲しくて、失言をしてしまっただけなんです!ドレス代は勿論、グレイドル男爵家が支払います!申し訳ありません!」

 お義母様は慌てて立ちあがり、床にしゃがみ込むと、地面に頭を擦り付けた。悪魔の公爵と名高いアレン様が、本気で怒っている……これに勝る恐怖は無い。

 私の為に……怒って下さっているんですよね?

 そう思うと、自然と胸が熱くなった。

「これ以上は時間の無駄だーーーカリア、帰るぞ」
「!はい、アレン様」

 アレン様は私の手を引くと、今度は披露宴会場から外に出た。


 《あんな酷い家族、カリアには必要無い。カリアは、僕が必ず幸せにする》

 繋いだ手から聞こえる、心の声。


「ーーっ」

 嬉しい。
 お母様が死んでから、誰も私を大切に思ってくれる人はいなかった。守ってくれる人なんていなかった。
 愛の無い結婚だと思っていた。幸せな家庭なんて、築けない夢だと、諦めていた。

 でも……アレン様となら、幸せな家庭を築けるかもしれない。アレン様を好きにーーなれるかもしれない。
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