心が読める令嬢は冷酷非道?な公爵様に溺愛されました

光子

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4話 披露宴②

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 戸惑いながら三人で話をしていると、バッと、今度は一気に明かりが灯った。

「皆様、お待たせ致しました」

 誰もいなかった花嫁、花婿の座るメインテーブル席の前。
 そこには、先程までの黒いウェディングドレス姿では無い、純白のドレスに身を包んだカリアと、アレン様の姿があった。




 ***


 結婚式場を出て、披露宴会場に向かう途中、私はアレン様を呼び止め、お願い事を口にした。

「私、アレン様と同じ、白いドレスを着て、披露宴に出たいんです」

 お義母様とお義姉様が用意した、私を貶める為に用意したドレスではなく、ちゃんとした、花嫁に相応しい恰好をして、私の望む披露宴を行いたい。
 冷酷非道の悪魔の公爵様にお願い事なんて、普通は怖くて出来ないけどーーー

「そんな事をする必要は無い」

 冷たい拒否。でも、私はこの人の心の内を知っている。

「お願いします。白いドレス姿の私も、アレン様に御覧頂きたいんです……」

 言っててとても恥ずかしいけど、我慢ーー!この人は、私の黒いウェディングドレスを、無礼とも何とも思っていない。寧ろ綺麗だと認めてくれてる。だから、アレン様は着替える必要が無いと思っているのかもしれない。
 でも、このまま、義姉達の思い通りの式をするのは嫌なんですーー!

「……君は、このまま披露宴を続けていいのか?」
「え?」
「……結婚式の準備に、僕は参加しなかった」
「……」

 この人なりに、結婚式の準備を丸投げしたことを、申し訳なく思っているのかしら……?実際はお義母様とお義姉様がしましたけど、表面上は私が準備したことになっているからーー。

「だから、早く結婚式や披露宴を終わらせようと思っているんですか?私を早く休ませたくて?」

 アレン様は私の言葉に、ゆっくりと小さく頷いた。

 お気持ちは分かりましたけどーーーだからって結婚式や披露宴を早送りして喜ぶ新婦はいませんよ?結婚初日に離婚案件ですよ?
 その無表情で佇んでる感じが、段々、シュンと凹んでいるように見えてきました。

「……お仕事でお忙しかったと聞きますし、それは気になさらなくて大丈夫ですが……でも、出来れば、最初に私に直接、説明が欲しいです。それに、結婚前に一度くらい、お顔を見せて欲しかったです」
「……」

 はっ!私ったら、悪魔の公爵様であるアレン様に、つい、調子に乗って言いたかったことを遠慮なく言ってしまったーーー!!!
 吐いた言葉は取り消せない。
 アレン様は無表情だし、沈黙が怖いんですけど……手を繋いでいないから、今は心も読めない。

「…………次からは善処する。白いドレスも、すぐに用意しよう」
「!」

 長い沈黙の後に出て来たのは、私のお願いを受け入れてくれた言葉。

 やっぱり、この人、本当は悪魔の公爵なんかじゃなくて……とても優しい人……なのでは?とても口下手で無愛想で不器用ですけど。




 ***


「なっ?!カリア!?何よ、その恰好はーー」

 お義姉様は私を見るなり、怒りの籠った口調で、私が着ている、純白のいかにも高級そうなドレスを指さした。

「何って……お色直しのドレスですよ。手違いで私には真っ黒のウェディングドレスしか用意されていなかったので、アレン様にお願いして、馴染みのデザイナーを紹介して頂き、既製品のドレスを急いで用意して貰ったんです」

 どうせお義姉様は、私には不釣り合いとでも思っているんでしょうね。

「アレン様にお願いしたの…?!」
「はい、流石はアレン様です。こんなに無茶な注文を叶えてくれるお知り合いがいるんですもの」

 普通、冷酷非道の悪魔の公爵に軽々しくお願いなんて、命が惜しくて出来ないんでしょうけど、私は正真正銘、直接お願いしましたよ。

 私の隣に立つアレン様は、相も変わらず表情一つ変えず、不愛想なまま。
 でもーーー私の無茶なお願いを、アレン様は叶えて下さった。

「アレン様が、カリアのお願いを聞き入れたって言うの…?!」

 心を読んでいないのに、お義母様から副音声で、冷酷非道、血も涙も無い悪魔の公爵が、無礼にも黒いウェディングドレスを着てきたカリアの願いなんかを聞くハズないじゃない!って聞こえてきます。

「ええ。アレン様ってば、私のために帝国一のデザイナーに声を掛けて下さったんです。若干、無茶は言ってしまいましたが、私に似合う良いドレスがあって良かったです」

 悪魔の公爵と名高いアレン様から突然、白のドレスをあるだけ持って来いと言われ、汗だくで駆け付けて下さいました。
 呼びつけたデザイナーさんは若干恐怖で震えていましたが、それは黙っておきますね。

「さて、では今から披露宴が始まります。どうぞ皆様、心行くまでお楽しみ下さい」

 そう言うと、披露宴会場には優雅な音楽が流れた。
 私がアレン様にお願いして呼んで頂いた、有名な聖歌隊とピアニスト。

「嘘ーー私が結婚式で呼びたかった聖歌隊じゃないーー人気があって、中々予約が取れないのにーー!」

 呆然とした表情を浮かべるお義姉様。

 そうなんですね、知りませんでした。アレン様が呼んだらすぐに来て下さいましたよ。
 突然のアレン様の依頼に、初めは真っ青な表情を浮かべていましたけど、流石はプロの皆様。表情管理も完璧、実力も折り紙付きですね。素敵です。

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