3 / 30
3話 披露宴
しおりを挟むアレン様に手を引かれながら、結婚式場を出て、披露宴会場へ向かう。
「……」
心を読める力ーーー私はずっと、この力と共に過ごして来た。この力が、ただの私の妄想、幻聴だなんて、思いたくない。
本当に……私が心の声を読めるならーーー私が読んだ、アレン様の心が正しいならーーーアレン様は、私を花嫁として歓迎してくれている。
「アレン様!あの……お願いがあるのですが……」
私はアレン様を呼び止め、血も涙も無いと噂される悪魔の公爵様に、恐れ知らずにも、お願い事をしてみた。
心を読める、自分の力を信じてーーー
***
ーーー披露宴会場。
「ふふ。カリアったら、本当に滑稽だったわね」
「そうね。ラドリエル公爵の花嫁に相応しく無い陳腐な指輪もだけれど、まさか誓いのキスを拒まれるなんて、花嫁として惨め過ぎるわ」
カリアの義理の母 《スミン》、姉 《マーガレット》の二人は、披露宴会場のテーブル席に座りながら、クスクスと、結婚式での話を小馬鹿にするようにしていた。
「グレイドル男爵夫人、グレイドル男爵令嬢、この度はカリア嬢のご結婚おめでとうございます」
「《ユーリ》様ぁ♡」
「あら。《トランス伯爵》様。この度は出来損ないの娘の結婚式にご足労頂き、誠にありがとうございます」
スミンとマーガレットが座る親族席に、挨拶を済ましたユーリは、そのまま腰掛けた。
「いえいえ。愛するマーガレットのためなら、喜んで参加させて頂きますよ」
「ありがとうございますわ、ユーリ様」
マーガレット=グレイドル男爵令嬢の婚約者であるユーリ=トランス伯爵は、マーガレットの手を取ると、手の甲に口付けた。
「まぁ、相変わらず仲良くやっているようで良かったわ」
「おかげさまで。こんなに素敵で可憐なマーガレットが俺の婚約者で嬉しいです。しかし、妹の婚約者であるアレン様と比べると、俺は伯爵位だし、戦果も彼ほどあげていません。こんな俺が、美しいマーガレットに相応しいか、少し不安になってしまいます」
「そんな!例え公爵であろうと、皇帝陛下に気に入られていようと、あんな野蛮な方と結婚なんて、冗談じゃありませんわ!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
言葉では不安だと口にしていたが、マーガレットがそう答えると分かっていて、わざと口にしたのだろう。予想通りの言葉を貰え、ユーリは満足したように微笑んだ。
「そうですわ。大切な私の娘を、悪魔の公爵なんかに渡すわけには参りません。結婚生活でいつ、悪魔の逆鱗に触れて殺されるか、分かったものではありませんわ」
スミンもまた、マーガレットの意見に同意した。
「実は、アレン様とは学生時代に面識があるんですが、当時も彼には良くない噂が飛び回っていましてね、教師に成績を上げるように脅迫したとか、気に食わない生徒を半身不随にさせたとか、気に入った女子生徒を監禁したなんて話もありましたね」
「まぁ!そんなことを?!」
「それでは、今までの婚約者と妻が逃げ出すも無理はありませんわね」
ユーリの話は、スミンとマーガレットの気分を良くさせた。
もとより、カリアのためと言いながら用意したこの結婚は、ラドリエル公爵が払う多額の結納金が目当てだが、それだけでは、カリアの結婚相手には選ばない。二人とって重要なのは、カリアがいかに不幸になるかで、悪魔の公爵と呼ばれるアレン=ラドリエルは、最も都合が良い相手だった。
お金も手に入り、カリアも地獄に落とせる。
「わざわざ黒のウェディングドレスを用意してあげた甲斐がありましたわね」
「本当。悪魔の嫁に相応しいわ」
結婚式、花嫁に相応しくない黒のウェディングドレス姿で現れたカリアを、アレン様は不快に思うに決まっている。
「どうしましょうお母様、私達の大切な妹が、結婚初夜に殺されでもしたら」
「ふふ。結婚初夜に殺される花嫁なんて、可哀想で仕方無いわ。でも、アレン様に目をつけられるのは御免だから、あの子のお葬式には参列しないことにしましょう」
「お二人とも、気が早いですね」
口では大切や可哀想と口にしながら、彼女達は心からカリアの不幸を願った。
「あはは……!」
急に、会場内の明かりが暗転し、音楽が鳴り始め、三人だけでなく、披露宴会場に集まった全員が、ざわついた。
「何でしょう?披露宴の演出でしょうか?」
「……おかしいわね、こんな演出、頼んでいないはずなのですけど」
ユーリの問いかけに、スミンとマーガレットは首を傾げた。
カリアの披露宴だが、その全ての準備は、二人が自分達に都合の良いように、カリアが惨めでいれるように、仕組んだ。
披露宴も、カリアにはドレスチェンジさせず、そのまま黒いウェディングドレスで登場させ、音楽も何も流さない、誰も祝辞を述べない、お祝いもしない、静かな披露宴を計画した。
「大体、アレン様は早く終わらせて帰りたいからって結婚式場から出て行ったのに、私達、大分待たされていますわよね」
「そうだね。俺はてっきり、アレン様は披露宴をせずに帰ったと思っていたけど」
「どうなっているのかしら……」
820
お気に入りに追加
2,185
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる