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1話 愛の無い結婚
しおりを挟む「ご結婚おめでとうございます!」
「末永くお幸せになって下さいませ」
「笑顔溢れるご家庭を築いて下さいね」
拍手喝采。心のこもっていない、定型文の祝福の言葉。
結婚式に相応しくない、黒のウェディングドレスに身を包み、一人でバージンロードを歩き、新郎のもとに向かう。
この結婚を仕組んだ人しか喜ばない、愛の無い形だけの式。
私は今日、顔も見たことがない公爵様のもとへ嫁ぐ。私の意思を完全に無視した結婚。
せめて結婚式くらい、相手に失礼のないように、普通のドレスを用意して欲しかったわ。
花嫁に相応しくない黒のウェディングドレスは、義母と義姉の嫌がらせ。お父様がいないからと好き勝手して……どうしてこれが、自分達の家の品位を落とすことにも繋がると分からないかしら?どうせ、私が言う事を聞かず、勝手に黒のウェディングドレスを用意したとでも言い訳するつもりでしょけど。
バージンロードを歩く私の姿を見て、薄笑いを浮かべるお義母様とお義姉様。
貴族の女に必要なのは、良い条件の男に嫁ぐことだけで、学も力も必要無いと、美人なお義姉様だけを優先する家族。
亡くなった母の代わりに、後妻としてやって来たお義母様と、連れ子であるお義姉様は、前妻の子である、平凡な容姿の私が気に食わなかった。新しい家族に邪魔者は不要だと、除け者にし、最終的には、お金目当てで、私の結婚を勝手に用意した。
『公爵様だなんて、あんたには勿体無いくらい、素敵な結婚相手を見つけて来てあげたわ』
『最後に私達家族の役に立てて良かったわね!』
うるさい。
誰が結婚相手を見付けてきてだなんて頼んだのよ。
何が家族、よ。私を家族扱いなんて一度もしなかったクセに!私の方が、貴女達を家族だなんて思っていないわ!お父様はお義母様とお義姉様の言いなりだし、私に興味が無いから、仕事を理由に娘の結婚式にも参加しない。
こんな家族のもとから離れられるのは、清々するけどーーー
バージンロードの最終地点、新郎のもとにつき、顔を上げる。
……お綺麗な顔。
最初に公爵様を見た感想は、それだった。整った綺麗な顔付き、サラサラな白銀の髪、惹き付けられる、赤い瞳ーーー。
顔と公爵という立場だけ見れば、言い寄ってくる相手なんて山ほどいるでしょうに……それでも、公爵様が格下の男爵令嬢である私を選んだのは、公爵様の通り名に原因がある。
ーー《アレン=ラドリエル》、別名、悪魔の公爵ーー
その剣と魔法の実力から、先の戦争で多大な功績を上げ、公爵位まで上り詰めた実力者だが、その内面は、敵味方関係無く、自分に害があると判断した者に容赦なく罰を与え、ある時は由緒正しい伯爵家を没落させ、ある時は有りもしない罪をでっち上げ牢獄に落とし、ある時は命さえ奪うーーー冷酷非道、血も涙も無い、まるで悪魔のような所業から、悪魔の公爵と呼ばれている。
そんな人が、私の結婚相手。
「し、新郎は、花嫁の手をお取り下さい」
何も知らない無関係な神父様が、私の歪な格好に戸惑っているのが伝わります。そうですよね、花嫁の非常識な姿に怒り狂った公爵様が、神聖な結婚式で血の雨を降らしでもしたら困りますものね。
アレン様には過去、数人の婚約者と結婚相手がいたが、その全てが破談、離婚している。
アレン様の冷酷非道な振る舞いに耐え切れず、婚約者と妻達は次から次へと、逃げ出した。中には、命を奪われる寸前で逃げ出した者もいると聞く。
そんな相手に私をお嫁に差し出すなんてーーーお義母様とお義姉様は本当に私が目障りなのね。
二人には『出戻ってくるなんてみっともない真似はするな。帰って来ても、家にはいれない』と強く言いつけられた。私には離婚しても、もう帰る場所が無い。
逃げられない私は、悪魔の公爵様の花嫁、最初の犠牲者になるかもしれませんね。
私がこのまま死んでも、きっとお義母様とお義姉様は、私の死を嘆くフリをして、邪魔者が消えた、と、ほくそ笑むに違いない。
「ア、アレン様?花嫁をお迎え下さい」
私の姿を見たアレン様は、冷たい眼差しでこちらを見たまま、微動だ一つせず固まっていて、神父様が再度、声を掛けた。
初めて会った花嫁がこんな格好で式に出ているのだから、どれだけ呆れられても、怒られても仕方無い。
普通なら、結婚式は中止、結婚自体が取り止めになるほどの無礼。それを、悪魔の公爵様であるアレン様にしているんだから、怒りに任せて斬り付けられても魔法で焼かれてもおかしくない。
そうなったら、結婚式はお葬式に変更になるのかしら。なんて、どこか他人事のように頭に浮かんだ。
「……まさか結婚式に、黒い花嫁が現れるとはな……」
その冷たい視線と声色に、一瞬、ビクッと体が揺れる。
「少し手違いがございまして……申し訳ございません」
多忙なアレン様と顔を合わせたのは、結婚式当日の今日が初めて。顔合わせも無い。出会ってその日に結婚する、正真正銘0日婚。
結婚式の費用は全額ラドリエル公爵家が負担されるが、準備は、仕事が忙しいアレン様に代わって、私が執り行った。とは言っても、私は殆ど手を出させてもらえず、お義母様とお義姉様が準備を行った。他人のお金だからと、自分達が着るドレスや装飾品に山ほどお金をかけて、私のウェディングドレスや装飾品には、安物を用意した。
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