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25話 建国パーティ③
しおりを挟む「先程陛下からご説明があった通り、私はエメラルド公爵様の娘です。それに、一つ訂正しておきますが、私の以前の家――コンスタンス男爵家は、今は貧乏ではありません。父様の力をお借りし、立て直しに成功しました」
病弱だった義弟も回復し、今はコンスタンス男爵家の跡継ぎとして、お義父様から教育を受けている最中。今日はパーティーに参加出来ないけど、私とフィル殿下の婚約を楽しみに、祝福の言葉を頂いた。
「嘘つかないでよ!キアナなんかが公爵令嬢なワケないじゃない!何なのよ……何なのよ、そのストーリーは!?それじゃあまるで、キアナの方がヒロインみたいじゃない!悪役令嬢のクセに!」
そちらが勝手に悪役令嬢認定していただけで、私は悪役令嬢になった覚えがないのですが……。
「私の事を虐めてたクセに!私の物を盗んだりしてたクセに!そんなキアナが公爵令嬢なんて、絶対相応しくない!皆、騙されているのよ!」
酷い……こんな公の場で、私を貶めるようなことを言うなんて……私は、そんなことしていないのに!
「――ミルドレッド侯爵令嬢」
「!エメラルド公爵様……!」
「父様……」
私を背中で守るように、アシュリー様と私の間に立つ父様。
「エメラルド公爵様!キアナはエメラルド公爵様の娘に相応しくありません……!キアナは、私に仕えていた時に、私を虐めていたんです……!私、何もしていないのに……!」
いつものように目に涙を溜め、自分がまるで悲劇のヒロインのように振る舞うアシュリー様。こうやってアシュリー様は、いつも誰かを悪役にして、守られるべき可哀想なヒロインとして生きて来た。今もまた、私を悪役令嬢に仕立てて、父様やこの場にいる貴族達を味方につけようとしている。
でも……それは父様には全く逆効果なのを、私は知っている。
「自作自演か?くだらない……お前が私の娘を悪者に仕立てあげたことは調べがついている」
父様はそう言うと、アシュリー様を追い詰める為に集めておいた証拠の数々を、その場にばら撒いた。
その中にはミルドレッド侯爵家の侍女達の会話を録音したもの、キアナが盗んだと証言した侍女の懺悔と、アシュリー様に命じられ嘘の証言をしたとの告発、盗まれたと主張していた簪などがあった。
「な――嘘――」
これには、周りの貴族達も揃って顔色を変え、アシュリー様に対して非難の声を上げた。
「ち、違います!これは……何かの間違いで……!」
アシュリー様は必死に否定したが、目に見えてこれだけの証拠が揃っている今、その否定は悪足掻きにしか見えない。
「嘘だろ……アシュリーが言っていたことは、全て嘘だったのか……!?」
アシュリー様の隣にいたマックスは、申し訳なさを含んだ悲しい目で、私を見た。
……今さらそんな目で私を見ても、もう遅い。私はもう……貴方を許すことは出来ません。
「や……なんで……何で私はこんな目に……!私は、この物語のヒロインのはずなのに……!」
……自分がヒロインになるために、他の誰かを犠牲にするなんて……それは許されることじゃない。アシュリー様は、ヒロインでは無かったんですよ。
「中々に面白い展開だが、ここでもう一つ、王家から報告がある」
騒がしいフロアを眺めながら、陛下は隣に座るフィル殿下に目配せした。微笑み返し、ゆっくりと立ちあがると、フィル殿下は騒動の中心である私達の元まで近寄った。
「フィル殿下……!私を助けに来て下さったんですね!」
(そうよ!他の誰で何を思われても関係ない!最後には運命の王子様が助けてくれる!それこそが、ヒロインの醍醐味だもの!)
アシュリーは両手を広げて、フィル殿下の到着を待った。
「――大丈夫?キアナ」
だが、フィル殿下が到着したのは、キアナの所だった。優しくキアナの手を取り、慈しむように、愛しい人をみるように、フィル殿下が優しい眼差しを向けるのは、ヒロインの自分では無く、悪役令嬢であるはずのキアナだった。
「今日ここに、我が息子フィンと、エメラルド公爵令嬢キアナとの婚約を発表する!」
「嘘……フィン殿下と……婚約?!」
「キアナが公爵令嬢で……団長の……娘だったなんて……!」
私の昔の友人マックスに、私を散々見下していたアシュリーお嬢様。
貧乏な男爵令嬢は、エメラルド公爵令嬢、そして、第二王子であるフィン殿下の婚約者になって、貴方達とは住む世界が違ってしまいました。
どうぞ、私には二度と関わらないで下さい。
そして――――罪を認め、どうか心から反省して下さい。
「嘘ですよね!?フィル殿下!どうしてですか!?私という存在がいながら、どうしてキアナなんかと婚約するんですか!?」
「誤解を招くような発言は控えて下さい。僕はミルドレッド侯爵令嬢と特別な関係になった覚えは一度だってありません」
「そんな!私達、愛し合っていたじゃありませんか!」
……私から見ても、フィル殿下がアシュリー様に一筋の興味も無いのが分かるのに、どうして当の本人は気付かないのでしょう?フィル殿下は一度だって、アシュリー様の名前すら呼んだことが無いのに。
「貴女は虚偽の発言ばかりですね……ミルドレッド侯爵は娘をどのように教育されているのか」
「っ!お父様がここにいてくれれば、私だって――」
「ミルドレッド侯爵がいた所で何になるというんですか?貴女が今退治しているのは、ご自慢の父親よりも強い、エメラルド公爵と王族ですよ?勝てますか?しかも、貴女が完全に悪だと立証されているのに」
「お、お父様がいれば……私が言ったことが、全て正しくなるんだから……!」
……アシュリー様はそうやって、何人の人に無実の罪を擦りつけたのでしょう……私だって父様が現れなければ……今頃どうなっていたか……。
「ア、アシュリー、どういうことなんだ!?どうしてキアナに虐められてたなんて嘘を……!それに、フィン殿下とのことだって……君は、僕の恋人だろう!?僕と愛し合っていたじゃないか!」
「!余計な事言わないでよ!どうして皆、私の思い通りにしないのよ!キアナは大人しく悪役令嬢になってれば良かったのに!マックスはただかませ犬になってくれれば良かったのに!」
手を伸ばすマックスの手を振り払い、大きな声で叫ぶアシュリー。
「たかが男爵令息ごときが、本当に私に選ばれたとでも思ってたの!?私が選ぶわけないじゃない!貴方なんて、ただの遊びよ!フィン殿下に選んでもらうためだけの、手段でしか無い!フィル殿下と結婚する前に、私を取り合うかませ犬の役目でしか無いのよ!」
「そん……な……!」
事実を突きつけられ、呆然とするマックス。
マックスは本当に、アシュリー様を愛していた。初めての恋に溺れていた。それで周りが見えなくなって、間違いを犯し続けた。
アシュリー様は貴方を少しも愛していなかったのに……。
「ミルドレッド侯爵令嬢、君にはキアナを貶めた罰として、慰謝料の支払い、そしてこれまで不当に罪をでっち上げ、不名誉な噂を流した者達に対しても責任を取ってもらう。君の父親も同罪だ、覚悟をしておくように」
「あ……やだ……嘘っ!」
陛下からのお言葉に、今度こそアシュリー様は膝から崩れ落ち、その場で泣き叫んだ。
だが、誰も彼女に手を差し伸べる者はいなかった。マックスでさえも、彼女に手を差し伸べなかった。
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