貧乏男爵令嬢のシンデレラストーリー

光子

文字の大きさ
上 下
24 / 26

24話 庭園パーティー

しおりを挟む
 

 *****



 王宮の中で私の秘密(エメラルド公爵令嬢+未来の第二王子の婚約者)を知っている者は限られている。
 それは本当にフィル殿下が信頼している王子付きの侍従の数名であったり、宰相であったり……大多数の人達は、私の秘密を知らない。
 何も知らない人達から見た私は、今や貴族女性憧れの第二王子殿下の心を射止めた、貧乏男爵令嬢のシンデレラストーリーの主人公。
 フィン殿下が公務を放り出して私を助けた話は、フィン殿下の予想通り、瞬く間に広まった。

 ……秘密が公表されて、エメラルド公爵様の一人娘だと言う事実が発覚したら……もっと騒ぎが大きくなる気がする……!

 どちらにしろシンデレラストーリーは変わらない。


「どう?少しは僕との噂に慣れた?」

 王宮のテラスで、私の淹れたお茶を飲みながら笑顔で尋ねるフィル殿下。

 ……自分も噂の渦中にいるはずなのに、よくそんなに涼しい表情が浮かべられますね……

 まるでフィル殿下は噂と無関係と思わせるような平然とした態度に、王族の方はいちいち噂の一つや二つで戸惑わないように教育されているのかな?なんて思わされた。

「いえ……でも王宮の使用人の皆様は、表面上は変わらず接して下さるので助かります」

 多少、気は使われるようにはなりましたが、以前と変わらずに仕事はさせてもらっているし、流石は王宮で働く使用人の皆様は違いますね。

「それは良かった」

 でも『フィル殿下とは実際、どうなんですか?』とか、『このまま見初められたら、フィル殿下の婚約者になれますわよ!』なんて、侍女のご令嬢から尋ねられたり応援されたりしてるんですけどね……害は無いからいいのですが……。

「キアナも一緒に飲む?」

「……そんなところをまた他の誰かに見られでもしたら、また噂が広がりますよ」

「だろうね。今や男爵令嬢である君が第二王子である僕の婚約者の座を手に入れるのか、注目の的だからね」

 ……面白がっていますよね?本当はもう陛下をはさんで婚約を結んでいるのに……

「そう言えば、キアナはマックスの謝罪を断ったんだってね」

 あれから、マックスから直接謝罪したいと手紙が来たが、丁寧にお断りした。
 嘘の下手なマックスは、手紙でも、嘘が下手だった。彼の書き連ねられた謝罪の言葉は、全て表面上のもので、心からの謝罪とは思えなかった。

「エメラルド公爵様が彼に罰を与えたと伺いました。私にはそれで十分です」

 剣を取り上げられ、鍛錬に参加出来なくなったマックスは、同じ見習い騎士達が努力している姿をただ見学し、雑用をすることしか出来ない。早く一人前の騎士になりたいマックスにとっては、十分な罰と言える。
 彼は男爵令嬢の侍女に無礼を働いただけですし……正直、マックスとは会いたくない。

「……ふーん」

「何か?」

「いや?まだキアナはマックスが好きなのかなー?って思って」

「ケホッ!コホッ!何でそれを――!」

「何でかなー?」

 ……私がマックスを好きだったと知っていたのは、お義父様とお義母様とモーリスしかいない!と、思っていたけど……アシュリーお嬢様にもバレていたみたいですし……もしかして私、バレバレなの?

「……今は、好きではありません」

 私の好きだったマックスはもういない。私の片思いは、あの日、マックスに決別を告げられた日に、粉々に砕け散った。

「そう、なら良かった。キアナがまだ彼を好きなら、僕は彼に妬いちゃうところだったからね」

「……!」

 真っ直ぐに伝えられる好意に、胸がドキリと高鳴る。
 ズルい……!フィン殿下のような人にそんな事言われたら、動揺するに決まってるのに……!

「さて、と。そろそろ時間かな。魔法にかかる準備は良い?」

「……はい、大丈夫です」

 今日、私は魔法にかかる。
 王宮が主催する建国パーティー、その場で、私は正式にエメラルド公爵令嬢として発表され、その場でフィン殿下と婚約を結ぶ。
 建国パーティーには……アシュリーお嬢様とマックスも参加する。

 どうぞ……私の姿を、その目に焼き付けて下さいね。




 ***



 王宮で開かれる建国パーティーには、国中から貴族が集まり、この建国パーティーを社交界デビューの場にする令嬢も少なくない。
 社交界デビューする令嬢達は、華やかなドレスに身を包み、父親にエスコートされて登場する。

「アシュリー!」

「……マックス」

 ミルドレッド侯爵令嬢であるアシュリーの姿を見付けたマックスは、手を上げて彼女のもとに駆け寄った。

「良かった、会えて」

 パーティーには、婚約者や恋人がいれば、その相手をエスコートをするのが通常で、マックスは恋人であるアシュリーのエスコートをする気満々で、ずっと前から彼女に一緒にパーティーに行こうと声をかけていたが、当日は別々に行きたいと、断られていた。

「さぁ、一緒に踊ろう」

 当然のように、手を差し出す。
 彼女を恋人であると信じて疑っていないマックスからすれば、これは当然の行為だった。

「……ごめんなさいマックス。私、今日は体調が優れなくて、一緒に踊れないの」

「ええ!?それは大変だ!早く家に帰って休もう!今日のパーティーは不参加にすると、すぐに伝えて――」

「いいの!参加はするわ。私は由緒正しきミルドレッド侯爵令嬢ですもの、これ位で欠席するわけにはいきません」

「なら、僕がサポートを……」

「いいの!私、今日は一人で行動したいの!」

 貴方と一緒にいるところをフィン殿下に目撃でもされたらどーするのよ?折角、建国パーティーで堂々と王宮の中に入れたっていうのに!

 噂に聞いた話では、キアナがフィン殿下の専属侍女になったと聞いた!許せない……!その特別なポジションは、私だけのものだったのに!

 でも、所詮キアナは貧乏男爵令嬢……この建国パーティーにだって参加は出来ないでしょう?ドレス一つ用意出来ないような貧乏貴族だものね!きっと、侍女としてでしか、ここには来られない!
 ここで私とキアナの差をハッキリと見せ付けてあげる。貴女では私の王子様に相応しくないって、私の方が、ヒロインに相応しいんだって!

「アシュリー……」
「マックス、お願いします……私のお願いを聞いて下さい」

 はぁ、騎士と王子様の二人に言い寄られるのも素敵だと思ってキープしておいたけど……こんな事になるなら、さっさと捨てておくべきだったかな。
 このパーティーが終わったら、お別れしようっと。



「――さて、今からパーティーが始まるが、その前に報告したい事がある。私の親友であり、王宮騎士団長、エメラルド公爵についてだ」

 パーティーでの国王陛下の挨拶の最後、普段なら締めくくるはずのところで、いつもとは違う台詞が、国王陛下の口から流れた。

「実はエメラルド公爵には、事情があり離れて暮らしていた愛娘がいてね。本日、その愛娘をここで正式にお披露目し、エメラルド公爵令嬢として社交界デビューをして貰おうと思う」

 陛下の発言に、一気に辺りがザワつく。

「エメラルド公爵令嬢……!?」
「まぁ……あのエメラルド公爵様のご令嬢だなんて……!」

 王宮騎士団長であり、由緒正しきエメラルド公爵のご令嬢。注目されない方がおかしい。

「では、登場して頂こう――エメラルド公爵令嬢、キアナだ!」

「――――は?」

 アシュリーは一瞬、自分の耳を疑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

処理中です...