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24話 庭園パーティー

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 王宮の中で私の秘密(エメラルド公爵令嬢+未来の第二王子の婚約者)を知っている者は限られている。
 それは本当にフィル殿下が信頼している王子付きの侍従の数名であったり、宰相であったり……大多数の人達は、私の秘密を知らない。
 何も知らない人達から見た私は、今や貴族女性憧れの第二王子殿下の心を射止めた、貧乏男爵令嬢のシンデレラストーリーの主人公。
 フィン殿下が公務を放り出して私を助けた話は、フィン殿下の予想通り、瞬く間に広まった。

 ……秘密が公表されて、エメラルド公爵様の一人娘だと言う事実が発覚したら……もっと騒ぎが大きくなる気がする……!

 どちらにしろシンデレラストーリーは変わらない。


「どう?少しは僕との噂に慣れた?」

 王宮のテラスで、私の淹れたお茶を飲みながら笑顔で尋ねるフィル殿下。

 ……自分も噂の渦中にいるはずなのに、よくそんなに涼しい表情が浮かべられますね……

 まるでフィル殿下は噂と無関係と思わせるような平然とした態度に、王族の方はいちいち噂の一つや二つで戸惑わないように教育されているのかな?なんて思わされた。

「いえ……でも王宮の使用人の皆様は、表面上は変わらず接して下さるので助かります」

 多少、気は使われるようにはなりましたが、以前と変わらずに仕事はさせてもらっているし、流石は王宮で働く使用人の皆様は違いますね。

「それは良かった」

 でも『フィル殿下とは実際、どうなんですか?』とか、『このまま見初められたら、フィル殿下の婚約者になれますわよ!』なんて、侍女のご令嬢から尋ねられたり応援されたりしてるんですけどね……害は無いからいいのですが……。

「キアナも一緒に飲む?」

「……そんなところをまた他の誰かに見られでもしたら、また噂が広がりますよ」

「だろうね。今や男爵令嬢である君が第二王子である僕の婚約者の座を手に入れるのか、注目の的だからね」

 ……面白がっていますよね?本当はもう陛下をはさんで婚約を結んでいるのに……

「そう言えば、キアナはマックスの謝罪を断ったんだってね」

 あれから、マックスから直接謝罪したいと手紙が来たが、丁寧にお断りした。
 嘘の下手なマックスは、手紙でも、嘘が下手だった。彼の書き連ねられた謝罪の言葉は、全て表面上のもので、心からの謝罪とは思えなかった。

「エメラルド公爵様が彼に罰を与えたと伺いました。私にはそれで十分です」

 剣を取り上げられ、鍛錬に参加出来なくなったマックスは、同じ見習い騎士達が努力している姿をただ見学し、雑用をすることしか出来ない。早く一人前の騎士になりたいマックスにとっては、十分な罰と言える。
 彼は男爵令嬢の侍女に無礼を働いただけですし……正直、マックスとは会いたくない。

「……ふーん」

「何か?」

「いや?まだキアナはマックスが好きなのかなー?って思って」

「ケホッ!コホッ!何でそれを――!」

「何でかなー?」

 ……私がマックスを好きだったと知っていたのは、お義父様とお義母様とモーリスしかいない!と、思っていたけど……アシュリーお嬢様にもバレていたみたいですし……もしかして私、バレバレなの?

「……今は、好きではありません」

 私の好きだったマックスはもういない。私の片思いは、あの日、マックスに決別を告げられた日に、粉々に砕け散った。

「そう、なら良かった。キアナがまだ彼を好きなら、僕は彼に妬いちゃうところだったからね」

「……!」

 真っ直ぐに伝えられる好意に、胸がドキリと高鳴る。
 ズルい……!フィン殿下のような人にそんな事言われたら、動揺するに決まってるのに……!

「さて、と。そろそろ時間かな。魔法にかかる準備は良い?」

「……はい、大丈夫です」

 今日、私は魔法にかかる。
 王宮が主催する建国パーティー、その場で、私は正式にエメラルド公爵令嬢として発表され、その場でフィン殿下と婚約を結ぶ。
 建国パーティーには……アシュリーお嬢様とマックスも参加する。

 どうぞ……私の姿を、その目に焼き付けて下さいね。




 ***



 王宮で開かれる建国パーティーには、国中から貴族が集まり、この建国パーティーを社交界デビューの場にする令嬢も少なくない。
 社交界デビューする令嬢達は、華やかなドレスに身を包み、父親にエスコートされて登場する。

「アシュリー!」

「……マックス」

 ミルドレッド侯爵令嬢であるアシュリーの姿を見付けたマックスは、手を上げて彼女のもとに駆け寄った。

「良かった、会えて」

 パーティーには、婚約者や恋人がいれば、その相手をエスコートをするのが通常で、マックスは恋人であるアシュリーのエスコートをする気満々で、ずっと前から彼女に一緒にパーティーに行こうと声をかけていたが、当日は別々に行きたいと、断られていた。

「さぁ、一緒に踊ろう」

 当然のように、手を差し出す。
 彼女を恋人であると信じて疑っていないマックスからすれば、これは当然の行為だった。

「……ごめんなさいマックス。私、今日は体調が優れなくて、一緒に踊れないの」

「ええ!?それは大変だ!早く家に帰って休もう!今日のパーティーは不参加にすると、すぐに伝えて――」

「いいの!参加はするわ。私は由緒正しきミルドレッド侯爵令嬢ですもの、これ位で欠席するわけにはいきません」

「なら、僕がサポートを……」

「いいの!私、今日は一人で行動したいの!」

 貴方と一緒にいるところをフィン殿下に目撃でもされたらどーするのよ?折角、建国パーティーで堂々と王宮の中に入れたっていうのに!

 噂に聞いた話では、キアナがフィン殿下の専属侍女になったと聞いた!許せない……!その特別なポジションは、私だけのものだったのに!

 でも、所詮キアナは貧乏男爵令嬢……この建国パーティーにだって参加は出来ないでしょう?ドレス一つ用意出来ないような貧乏貴族だものね!きっと、侍女としてでしか、ここには来られない!
 ここで私とキアナの差をハッキリと見せ付けてあげる。貴女では私の王子様に相応しくないって、私の方が、ヒロインに相応しいんだって!

「アシュリー……」
「マックス、お願いします……私のお願いを聞いて下さい」

 はぁ、騎士と王子様の二人に言い寄られるのも素敵だと思ってキープしておいたけど……こんな事になるなら、さっさと捨てておくべきだったかな。
 このパーティーが終わったら、お別れしようっと。



「――さて、今からパーティーが始まるが、その前に報告したい事がある。私の親友であり、王宮騎士団長、エメラルド公爵についてだ」

 パーティーでの国王陛下の挨拶の最後、普段なら締めくくるはずのところで、いつもとは違う台詞が、国王陛下の口から流れた。

「実はエメラルド公爵には、事情があり離れて暮らしていた愛娘がいてね。本日、その愛娘をここで正式にお披露目し、エメラルド公爵令嬢として社交界デビューをして貰おうと思う」

 陛下の発言に、一気に辺りがザワつく。

「エメラルド公爵令嬢……!?」
「まぁ……あのエメラルド公爵様のご令嬢だなんて……!」

 王宮騎士団長であり、由緒正しきエメラルド公爵のご令嬢。注目されない方がおかしい。

「では、登場して頂こう――エメラルド公爵令嬢、キアナだ!」

「――――は?」

 アシュリーは一瞬、自分の耳を疑った。

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