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20話 またですか……

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 王宮には様々な使用人が働いており、それは庭師であったり、料理人であったり、侍従であったり……その中には、私が務めている侍女の下にあたる、下級メイドと呼ばれる者達がいる。
 ここ、ローレンス国では、王族に直接関わる機会が多い侍女や侍従は貴族出身者が多く、一部の平民出身者も、選ばれた優秀な者達で構成されており、直接王妃付き、王子付きになるにも、長い見習い期間を要し、それまでは雑用メイン。侍女は広い王宮内の様々な仕事を請け負っている。
 それに対し下級メイドは、平民出身者が多く、広い王宮内の清掃、洗濯、買い出しなどが中心で、王族と関わる機会はほぼ無い。だがそれでも、王宮内で働けるのはこの国の女性として名誉なことであり、王宮メイドになるには、身元の安全性は勿論、優秀な人材であること、または、貴族からの推薦が必要となる――


「やだ、ごめんなさーい!手が滑っちゃいましたぁ」

 ……久しぶりですね、この感じ……。
 ポタポタと髪から滴り落ちる水滴は、目の前にいる令嬢二人に、バケツの水を頭からかけられた所為。

「アシュリーお嬢様から聞いていた通り、ほんとにパッとしない、貧乏臭い女ですねぇ」

 確かこの人達は、最近王宮にはいってこられた下級メイド……上位貴族の推薦だと聞きましたが、成程、アシュリーお嬢様のまわし者ですか……。

 ポケットに入れてあったハンカチで顔を拭いていると、一人が勢いよく取り上げ、地面に落とし、踏み付けた。

「未来の王妃様であられるお方を虐めるなんて、身の程知らずにも程がありますわ!」
「ほんと、たかが貧乏男爵令嬢の分際で、浅ましいったらありません!」

 未来の王妃様だなんて……フィン殿下はまだ王太子にもなられていないのに、大変、大きく出ましたね。

 低俗な虐め。
 ミルドレッド侯爵家の侍女をしていた時は、頻繁に受けていたけど、まさか王宮に来てまで虐められるとは……呆れてしまう。自分のテリトリーであるミルドレッド侯爵家と王宮ではワケが違うのに。

「……貴女方のこの行動は、王家の品位を下げる行動です」

「は?」

「王宮で働く者が、こんな品位の欠片も無い行動を起こさないで下さい!」

「な!何よ!たかが貧乏男爵令嬢の分際で……!」

「それが今、何の関係があります?」

 自分が雇用主の令嬢だった時は違うのですよ?ここは、王宮!私の雇い主は陛下であって、アシュリーお嬢様では無い!ミルドレッド侯爵家にお仕えしている時のように、なされるがままにはなりません!

「この件は私の上司である筆頭侍女様にご報告します」

「!やだ!ちょっと待ちなさいよ!そんな事したら、アシュリーお嬢様にも迷惑がかかるのよ!?あんなにアシュリーお嬢様にお世話になっておいて、そんな恩知らずな真似、許されないでしょう!」

 いつ、何時何分、どこでアシュリーお嬢様のお世話になったかが全く思い出せません……。
 給金は頂いておりましたが、それは労働の対価ですし、直接的な雇用主であるミルドレッド侯爵様が支払っていたものです。決してアシュリーお嬢様ではありません。

「残念ですが、アシュリーお嬢様に迷惑が掛かろうが、私には関係ありません」

「……何よ!ちょっと王宮の侍女になったからって、偉そうに……!」

 ……もう解放して欲しいのですが……仕事途中に捕まったと思ったら、人気の無い場所に連れて来られて、バケツの水をかけられて……そもそも、私もですが、貴女方も仕事中でしょう!?勤務中に仕事ほっぽり出して、何してるんですか?下級メイドってヒマなの?

「たかが貧乏男爵令嬢のクセに、調子に乗らないでよね!」
「っ!」

 襟元を乱暴に掴まれ、引っ張られる。

 ……どうして……貧乏男爵令嬢なだけで、ここまでされないといけないの……?折角の綺麗な制服も汚れてびちゃびちゃだし、仕事に穴をあけているし……本当にもう……いい加減にしてよ……!


「――おい、そこで何をしている!?」

 私と令嬢の間に止めに入る背中。
 その背中は……幼い頃から私がよく知る背中だった。

(マックス……!)

「虐めなど言語道断だ!神聖なる王宮でこのようなこと……許せるものではない!」

 私の知る幼馴染のマックスは……弱き者を助ける、正義感の強い、真っ直ぐな人だった。私は……そんなマックスのことが……とても好きだった。

「……マックス……」
「!キアナ!?何故、お前がここにいる!?」

 私の好きだった温かい眼差しは、私に気付くと、すぐに冷めた冷たい眼差しに変わった。

「……王宮の侍女として働き始めたの」

「嘘をつくな!君のような卑しい女など、王家が雇うはずが無い!どうせ勝手に王宮に忍び込み、その制服も盗んだんだろう!?」

「……」

 アシュリーお嬢様と同じことを言うのね……本当、ある意味お似合いね、二人とも。

「マックス様……!私達、この女に、これ以上アシュリーお嬢様を虐めないようにと注意していただけなんです!それなのに、またアシュリーお嬢様に迷惑をおかけするような行動をしようとしたんです!」

 マックスを自分達の味方と判断した下級メイド二人が、ここぞとばかりに追撃する。
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