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14話 アシュリーお嬢様との遭遇

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 マックスのことを思い出すと、まだ胸が痛むけど、私は今、とても幸せ……きっと、マックスのことをいつか綺麗に忘れられる。貴方が縁を切った幼馴染の幸せになった姿を、その目に焼き付けて欲しい。

 ――それが私の、ささやかな復讐です。

 王宮内での仕事を終え、細々とした雑用をしに、外廊下を歩く。まだまだ見習いの私の仕事は、雑用がメイン。
 こんなに天気の良い日は、外の空気に触れるだけで、気持ち良い。少し痛んだ胸の痛みを、忘れさせてくれる。

(うん、いい気持ち)

 そんな心地よい幸せな時間が、次の瞬間、壊れることになるとは思いもしなかった――



「――――キアナ?」



「え……!」

 耳に聞こえてきた、嫌でも覚えてしまった馴染みのある声に、キアナは反射的に振り向いた。

「アシュリーお嬢様……!?」

 アシュリーお嬢様と会うのは、ミルドレッド侯爵家をクビになって以来――アシュリーお嬢様は私を強く睨み付けると、大きな声で叫んだ。

「キアナが何で王宮にいるんですか……!?まさか、勝手に王宮に忍び込んだとか……!?あり得ない……!」

「ア、アシュリーお嬢様、落ち着いて下さい!私は今、王宮に勤めているんです」

 騒ぎになろうがお構いなしに大きな声を出すアシュリーお嬢様に、私は慌てて、今の自分の立場を説明した。

「はぁ?キアナが王宮の侍女?なれるワケないじゃないですか!貧乏な男爵令嬢!しかも、好きな男を取られたからって嫉妬して、仕えている主人の大切なご令嬢を虐めたり、盗みを働くような女ですよ?妄言も大概にして下さい!」

「……私の制服を見て判断出来ませんか?王宮付きの侍女の物なのですが……」

「どうせまた盗んだのでしょう?やだ……怖い!」

 ……アシュリーお嬢様の中では、私が本当に盗人になっているんですね……。
 色々と他に言いたいことはあるけど、王宮内で騒ぎを大きくしたくない。これが一番の最優先事項。

「ミルドレッド侯爵家のメイドを辞めてから、運良く王宮で働くよう口利きして下さる方と出会えたんです。今の私は、本当に王宮付きの侍女です。考えてもみて下さい、なんの力も無い私が、王宮内に忍び込んで、侍女の服を盗めると思いますか?絶対に不可能です!」

 自分で言うのもなんですが、私は魔法も使えなければ、腕ぷっしもないただの小娘ですよ?以前の私は何の力も持たない貧乏男爵令嬢ですし……王宮に忍び込めるはずがありません!

「……嘘……じゃあ、本当に王宮の侍女になったの……?キアナが?」

 信じて下さって良かった……!こんな所で騒ぎを大きくして、皆様に迷惑をかけるのは止めましょう?アシュリーお嬢様にとっても良いことなんて一つも無いと思うのですが……

「酷い……酷いですキアナ……!」
「え?」

 ど、どうして急に泣き出すの?私、何かしました?

「私はずっと、王宮で働く夢を持っていたのに、それを横取りするなんて……!」

「……初耳ですが……」

「こんなのってあんまりです!」

 ――話についていけない……!
 そりゃあ……アシュリーお嬢様は箱入り娘過ぎて何も出来ないのですから、ミルドレッド侯爵家の力を持ってしても、王宮で働くことは出来ないでしょう。採用されたとして、何をする気なんですか?自分の服だって一人ではまともに着れないのに……。
 それに、王宮で働けるのが私一人だけとかなら、横取りの意味もまだ……分かり……ます(不本意)が、王宮では沢山の方々が働いていますし、王宮で働きたいなら、ご自身が頑張ればよろしいだけでは……?
 そもそもアシュリーお嬢様、何も頑張っておられませんでしたよね?勉強されているお姿を拝見したこともありませんし、別の何かを学ばれている様子も無かったですし……王宮で働くご令嬢は、しっかりと色々なことを学んでいるものです。学べる環境があるのに学ばなかったアシュリーお嬢様の落ち度では?私、関係ありませんよね?

 めそめそと目の前で泣き続けるアシュリーお嬢様……これも傍から見たら、私はか弱いヒロインを虐めている悪役令嬢になるのでしょうね。
 少なくともマックスがこの場にいたなら、以前のように、私を責め立てたに違いない。

「……アシュリーお嬢様はどうしてこちらにいるのですか?来訪者にミルドレッド侯爵家の名前は無かったと把握していますが」

「私はマックスに会いに来たんです」

「マックスに?」

「はい、彼が昨日、私の部屋に忘れ物をしたので、届けてあげようと思ったんです」

「……よく門番が通しましたね」

「少し渋られましたが、お父様の名前を出したら通して下さいましたよ」

「ああ……」

 ミルドレッド侯爵様の権力をこんなくだらないことで使うんですね……。
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