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12話 王宮侍女
しおりを挟むエメラルド公爵様には微々たる金額かも知れないが、得たお金で、少しでも、お義父様の、コンスタント男爵家を支援してくれたお金を返せれば、嬉しい。
「早速、今日にでも働き口にキアナを紹介しよう」
「はい……!よろしくお願いします……あ、でも、今からお仕事でお忙しいのではないですか?」
――私は失念していました。
エメラルド公爵様は、亡くなった母を想い、独身を貫いた人。そんなエメラルド公爵様にとって、私は唯一の子供、エメラルド公爵様の最愛の一人娘。
そんな私を、エメラルド公爵様が働き口として紹介する場所……
「心配無い。行く先は同じ、王宮だ。キアナには王宮の侍女として働いてもらう」
「……王、宮の侍女……?」
王宮の侍女?王宮で働くことは、この国の貴族女性にとって、とても名誉なことで……私みたいな貧乏男爵令嬢が働くことなんて出来ないはずですが……
あまりの衝撃的な言葉に、思考が追い付かない。
「王宮ならば、キアナが公爵令嬢と正式に認められた後も、働き続ける事が出来るだろう。あそこなら、私と勤務先も同じで安心出来る」
……そうでした、私、貧乏男爵令嬢から、公爵令嬢になるんですよね。またどこかの貴族様のお屋敷で働ければと思っていましたけど……まさか、王宮だなんて……!
「わ、私に……王宮勤めなんて、務まるでしょうか……」
「キアナはとても優秀だと、ミルドレッド侯爵邸に潜り込ませた者達から報告を受けている。問題無い」
――ん?ミルドレッド侯爵邸に……潜り込ませた?
「ミルドレッド侯爵令嬢を追い詰める証拠を集めるために、ミルドレッド侯爵邸に何人か私の手の者を潜り込ませた。そこから、キアナは優秀だったと、他の使用人達の間で話されていると報告を受けた」
「そ――んな事をされているんですね……凄い……」
「……ああ」
――使用人として潜り込ませた密偵からの報告によれば、ミルドレッド侯爵令嬢はターゲットを見つけては、まるで自分が悲劇のヒロインのように振る舞い、相手を貶めるのが好きなようで、キアナ以外にも、複数の被害者がいると分かった。
『前、ここで働いてたキアナって貧乏貴族がいなくなったから、今、ちょっと大変なのよ』
『ね?キアナがいなくなって、押し付けてた仕事を自分達でしなきゃいけなくなったし、アシュリーお嬢様が次は誰をターゲットにするかも恐怖だし!』
密偵は古参の侍女達に上手く取り入り、聞きたい話に誘導する。
『でも今の所、キアナが身の程も弁えずアシュリーお嬢様に喧嘩を売ったおかげで、まだキアナに粘着してるっぽいから助かったわよねー』
ミルドレッド侯爵邸の使用人達は、お喋り雀の集まりだった。
『ね?『私、今困難に立ち向かってるのぉ。キアナなんかに負けないように、頑張りますね』って、この間マックス様に甘えてたわよ』
『あはは!相変わらず、悲劇のヒロインぶるのが好きねーうちのお嬢様は』
仕えている主人のご令嬢にも関わらず、まるで馬鹿にするように、ペラペラと話す。身内話とは言え、使用人としてあるまじき行為。だが、それだけミルドレッド侯爵家に対する敬意が無いのだろう。
『……キアナさんには、本当に……申し訳ないことをしたと思っています』
まだ新参者に分類される侍女は、キアナの話を振ると、沈んだ表情を浮かべながら、ポツリポツリと小さな声で話した。
生活が懸かっていて、アシュリーお嬢様に逆らえないこと。自分がターゲットにされるのが怖くて、見て見ぬふりをしてしまったこと。キアナがアシュリーお嬢様の私物を盗んだと――証言させられたこと。
『キアナさん……家族の為に、あんなに一生懸命に働いていたのに……!ごめんなさい……!』
キアナの為に潜り込んだ密偵だと知らないはずなのに、謝罪の言葉を口にした侍女は、自分が犯してしまった罪を深く後悔し、罪悪感が溢れ出ていた。誰でもいいから、懺悔したい。そんな風に見えた――
密偵からの報告によって、ミルドレッド侯爵令嬢の言い分が全くのデタラメだと改めて証明され、キアナがどんな扱いをされていたかも、知ることが出来た。
大切な最愛の娘に対する仕打ちを、エメラルド公爵が許せるはずが無い。
「……安心していろ、ミルドレッド侯爵令嬢は、私が責任を持って相応の罰を与える」
「はい……ありがとうございます」
「では行くぞ。まずは陛下に謁見する」
「はい……ええ?!陛下ですか?!」
「ああ。あいつにも私の大切な娘がお世話になるから挨拶しておかないとな」
陛下を――あいつ?!
エメラルド公爵様と陛下は幼い頃からの友人で親しいとは聞いていましたけど、そこまで仲がよろしいなんて……!
貧乏男爵令嬢だった私は、社交界に一度も参加したことが無く、まだデビューを果たしていない。当然、王家主催のパーティに参加したことも無い。そんな私が、国王陛下と会ったことがあるはずもなく……
(緊張し過ぎて吐きそう……!!!)
エメラルド公爵様は私の緊張など知る由もなく、私を王宮までエスコートした。
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