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6話 夢心地
しおりを挟む「……ここまでが、私がエレインから聞いた話です」
「……」
母様は、父様が嫌になって、離れたワケじゃなかった……父様と私を……守るために、姿を消したんだ。
エメラルド公爵様の力を使えば、子爵家などどうとでも出来たはずなのに、母様は病弱な自分に優しくしてくれた他の姉妹に被害が及ぶのを避けたかった。
考えて考えて、自分がいなくなるのが一番良いことだと考えついた。
「エレインは不器用な子だったでしょう。きっと、もっと上手く家から抜け出せることも出来たのに、彼女は貴方様から離れる選択をした。その所為で貴方様を深く傷付けてしまったことを、エレインに変わり、謝罪します」
今度はお義父様が深く、地面に頭をつけ、謝罪した。
「……コンスタンス男爵が謝ることでは無い……私が、もっと彼女に寄り添わなかったのも原因なんだ……あの時の私は、騎士団長に就任したばかりで忙しく、ないがしろにしてしまっていた。気付いた時には彼女がいなくなっていて……必死に行方を捜したが、見つからなかった」
「エレインは私達のもとに来るまで、平民として小さな村で過ごしていたようですからね」
「ずっと……彼女を忘れられず、捜していて……やっと、彼女の行方を掴み、娘の……キアナの存在を知った」
いなくなってしまった彼女と瓜二つな容姿に、自分と同じ、紫の瞳――彼女と私の子供だと、一目見て確信した。
「キアナに……娘に会えて……彼女の忘れ形見に会えて……私は……!」
「……エメラルド公爵様……」
私を見つめ、涙を流しながら胸の内を語るエメラルド公爵様の姿に、私も自然と、涙が溢れた。
こんなにも……父様は、私と母様を愛してくれているんだ……
母様、母様が言っていた通り、父様はとても愛情深くて、私を……私達を、深く、愛してくれている人でしたよ。
「――では、キアナは後日、迎えに来ます」
私はエメラルド公爵様の娘として正式に、エメラルド公爵家に迎えられることになった。
「はい、よろしくお願いします」
本当はエメラルド公爵様と一緒に、すぐにでもエメラルド公爵邸に行けるのだけど、エメラルド公爵様の配慮があり、私に、お義父様やお義母様、義弟とのお別れの時間を設けて下さった。
更に――――
「コンスタンス男爵家には、我がエメラルド公爵家から支援を行う。領地の不作については、原因追究と対策、それに伴う費用と人材を用意し、コンスタンス男爵令息には優秀な医師とそれに伴う医療設備、薬の提供を行う」
コンスタンス男爵家に、多額の支援を約束してくれた。
お義父様もお義母様も、そんなつもりはありません!と断ったのだが、エメラルド公爵様は愛情を持って娘を育ててくれたお礼だと、ごり押しした。
「娘になる手続きは初めておく……少し時間がかかるから、それまでは私の娘であることは内密にしていてくれ」
「はい、分かりました……あ、あの……と、父様……」
言葉に出すとなんだか恥ずかしくなり、俯いてしまった。
エメラルド公爵様が私の父親だなんて……実感がまだ湧かない……ゆっくりと顔を上げ、エメラルド公爵様を見ると、とても優しい笑顔で、私を見つめていた。
「あの、正式にエメラルド公爵様の娘になったら……父様と呼んでも、いいですか?」
「ああ、勿論だ」
エメラルド公爵様は私の頭を撫で、名残惜しそうに、馬車に乗り込んだ。
まだ夢みたい……死んでしまった父様と再会することが出来て……その父親がまさか、エメラルド公爵様だったなんて……ベタにほっぺたを抓ってみるが、ちゃんと痛い。良かった、夢じゃない。
今日あった辛い出来事なんて、どこかに吹き飛んでしまうくらい、幸せ。
エメラルド公爵様を乗せた馬車が出発する。
私はまたエメラルド公爵様に会うのを楽しみに、馬車が見えなくなるまで、見送りをした。
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