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11話 夜の来訪者

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 トントン。

 と、扉をノックする音が聞こえて、私は慌てて飛び起き、髪を手でといた。
 こんな遅い時間、令嬢の部屋に遠慮なく訪問出来る人は、限られている。

 身だしなみを簡単に整え、深呼吸すると、意を決して、私は部屋の扉を開けた。

「こんばんは、ティセお嬢様」
「ーーっ」

 ただ挨拶されただけなのに身構えてしまうのは、ウィルのこれまでの行いが悪い。でも、嫌じゃないから困る。

「今日はサステナ王子に絡まれて大変でしたね」
「!どうして……それを……」

 お父様とお母様の報告会でも、かいつまんでかいつまんで、『サステナ王子とお話しました』に留めておいたのにーーー。

「ティセお嬢様の執事として学園に派遣されているので、お嬢様の行動は全て監視しています」

 普通に怖いーーー!
 え、全部監視されているの?!

「ーーとゆう事は、今日あった出来事は全部、お父様とお母様に報告されているの……?」

「いえ?ティセお嬢様がディナーで仰った通りの報告を致しましたよ」

 そう言うと、ウィルは私の唇に触れた。

「でないと、俺がお嬢様の唇を奪ったこともバレてしまうでしょう?」

「!」

 あの時のことを思い出すと、一気に全身が沸騰する。あれが、前世含めて、私のファーストキスーー!いきなりでビックリしたけど、全然、嫌じゃなかった。

「……ティセお嬢様には、本当に俺に気があるんじゃないかと、勘違いさせられそうになります」

「!だから、勘違いじゃなくて、本当なんです!」

 全然伝わらないーー!

「ティセお嬢様は、どうしてサステナ王子のことを主人に報告されなかったんですか?」

「えーー」

 今日のこと?別に……深い意味はないけど……

「ちょっと絡まれたくらいですし……別に、騒ぎ立てる必要無いかな、と思って」

 私を溺愛している両親に言ったら、大袈裟に騒ぎ立てるのは目に見えてるし。サステナ王子と話したことを伝えただけで、『あのクソ王子が、ワシの可愛い娘に何の用があって、平然と話しかけた?!婚約破棄までしておいて!』とお怒りでした。
 なのに、喧嘩をふっかけられた、なんて報告したら、また国王陛下まで巻き込みかねない……。

「以前のお嬢様なら、主人の力を使って、過剰な罰を与えていたと思いますけどね」

「あー!聞こえない!」

 耳を塞いで、ウィルの声をシャットダウンする。
 もう過去の黒歴史をほじくり返さないで欲しい!本当に猛省してます!

「……サステナ王子があれだけ私を敵視するのは、私の過去の行いが原因です。だから、今回のことは別にいいんです」

 私の過去の我儘に振り回された可哀想な被害者の一人ですもん。まぁーーー私はマリアを虐めていないから、完全に事実無根なのに、全校生徒の前で断罪されたのにはちょっと文句がありますけど。

「サステナ王子には、これから本当の恋をして、幸せになってもらいたいんです」
「!」

 本心でそう思う。
 悪役令嬢から解放されて、これからはどうぞ、ヒロインとでも、他の誰とでも、恋をして結ばれて下さい。

「……そうですか」
「はい!私も、本当に好きな人と結ばれるように頑張りますね!」

「……」

「?はっ!いえ、あの、これは別にアピールのつもりではなくてーー!」

 私はウィルに好きって告白してるんだから、これじゃあ、またアピールしてると思われる!いや、アピールはこれからもしていきますけど、部屋の中で二人っきりで、こんな事言ったらーーーまた、忠告される?!
 ウィルに何かをされるのは嬉しいけど、恋愛初心者には身が持たない。

 私があたふたしていると、ウィルは面白そうにクスリと微笑んだ。

「期待しています?それなら、お嬢様のご期待に答えてーー」

「していません!いや、ちょっと期待したりしますけど、出来ればお手柔らかにお願いしたいんです!」

 完全に矛盾してる事を言っているのは、私にも分かっているけど、全部本心!あー勿体無いー!私にもっと余裕があればーー!

「それは残念」

 ウィルはそう言うと、私の傍から離れた。
 ……本当に勿体無いことしちゃったな。なんて、ウィルが離れたのを寂しく思ってしまう自分がいる。

「そう言えばティセお嬢様は、明日からも光の聖女様と一緒に昼食を召し上がるんですか?」

「ううん、まさか!今日だけよ」

 お昼休みの時間も、攻略対象キャラと愛を育む大切な時間だもの。ずっと私と一緒にいたら、イベントが進まないもんね。

「マリアは光の聖女だし……私といても、良いこと無いでしょう?これからも出来るだけ、関わらないようにしようと思うの」

 この学園に入学してから今日まで、そうやって過ごして来た。ヒロインと攻略対象キャラの邪魔をしない!それが、私のモットー!
 何故か、一週間に一度、魔法授業のペアを組むことにはなってしまったけど……きっとマリアは優しいから、ぼっちの私を無視出来ないんだよね。

「そうですか。折角、ティセお嬢様に昼食をご一緒出来るご友人が出来たと思ったんですけどね」

「……ぼっちでごめんね」

 いくらお父様の命令とは言え、こんな嫌われ者に仕えなきゃいけないなんて、ウィルも嫌だよね。

「ティセお嬢様がぼっちだと、俺がお嬢様を独占出来るので嬉しいですよ」

「!ーーわざと言っていますね?」

「さぁ?どうでしょう」

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