8 / 17
8話 忠告
しおりを挟む「ーーーティセお嬢様は道楽がお好きですね」
「?道楽?」
「自分を婚約破棄に追い込んだ女と、仲良くなるんですから」
ウィルの言い方には、分かりやすく棘があった。
「……何度も言ってますが、私は、サステナ王子との婚約破棄を望んでいたんです!マリアに恨みはありません!」
「ストーカーするくらい好きだったのにですか?嫌がられても諦めずに何度も何度も通いつめ、挙げ句、王子に近寄る女の影を強制的に排除していたのに?」
「あー!止めて!過去の話はしないで下さい!」
私は耳を塞いで、ウィルの言葉を遮った。
前世の記憶を思い出す前の過去の所業は、出来るだけ聞きたくもない、思い出したくもない黒歴史!
「当時の私はどうかしていたんです!猛省していますし、もう許して下さいー!」
記憶を思い出し、まず最初にしたのは、キュリアス公爵邸に仕える使用人達の前で、土下座謝罪をしたことだった。
私の我儘で使用人の皆様には本っっ当に多大なご迷惑をおかけしました……!それはもう、語りたくも無い最低な行為の数々をーー!
「……私の我儘で、無理矢理サステナ王子を婚約者にしてしまったこと、後悔してるんです」
サステナ王子は、最初から私との婚約を望んでいなかった。
それなのに、娘溺愛の両親のゴリ押しで、無理矢理、好きでも無い私と婚約を結ばれてしまった。当時のサステナ王子の気持ちを考えると、ただただ申し訳無くて……でも、王家との婚姻を、いち公爵令嬢が解消出来るわけも無くーーー向こうから婚約解消を提案してくれないかなーと、学園に入学してからはサステナ王子を追い回すこともせず、『私、貴方のこと眼中にもありませんよー!』ってアピールしていたのですが、残念ながら効果無く、結局、婚約破棄イベントまでかかってしまった。
「本当にサステナ王子はもう好きではないと?」
「はい、私が好きなのは、貴方ですから」
「!」
間髪入れず、好きアピールをする。
過去の所業が原因ですが、私の気持ちを信じてもらうには、何度も気持ちを伝えるしかない!
「……昨日あんな目にあったのに、懲りませんね」
「わ、私の気持ちは、冗談じゃありませんから!」
昨晩のことを思い出して、顔が真っ赤に染まる。恋愛経験ゼロの私には刺激が強い!
「なるほど。もっと強い忠告をしないと、ティセお嬢様は理解されないみたいですね」
「もっと強いって、何ーーをーー」
話の途中、ウィルの顔が近付いたと思ったら、そのまま、唇にキスを落とされた。
「!!!」
「……顔が真っ赤ですね」
勢いよく離れる私を見て、ウィルは唇を指で拭うと、妖艶に微笑んだ。
い、色気が凄いーー!何でウィル、攻略対象じゃないの!?ウィルが攻略対象だったら、もう100回はプレイするのに!
「ーーー午後からの授業も頑張って下さいね、ティセお嬢様」
まるで何事も無かったように、普段通りに紅茶を入れなおすウィルに、私はこれ以上は刺激が強すぎて何も言えず、大人しく席に戻った。
うう……!勿体無いかな……もっと私に恋愛経験があれば、もっと踏み込めるかもだけど、これ以上はもう無理!出来ればもっとお手柔らかにお願いしたいのに、ぐいぐい刺激を与えてくる!私の言ってることなんて、今は何一つ信じていないんだろうな……。
でも私は、ゲームをプレイしている時からずっと、本当にウィルが好きだった。
悪役令嬢の執事として登場する彼は、非攻略対象キャラながら端正な顔立ちで、どれだけ悪役令嬢にきつく当たられても、職務を全うするその真面目な姿ーーーその傍ら、ヒロインにも優しく声をかけてきてくれ、物語のヒントを教えてくれたりする。
どこかミステリアスなところがあって、夜に遊び歩いてる姿が描写されていたこともあった。
彼の顔が好みなのもあるけど、仕事に対して真面目なその姿勢や、ミステリアスなところ、何より、実際に悪役令嬢として転生し、関わった中で、ウィルの事がもっと好きになった。
ウィルは私に諦めさせたくて、こんなことをしているのかもしれないけど、逆効果です!どんどん魅力に取りつかれていっています……!これが、恋は盲目!というやつでしょうか?
私は赤く火照る頬を冷やすように、手で頬を包んだ。
***
魔法の授業は基本的にペアで行われるが、その理由は教えられていない。多分だけど、ヒロインと攻略対象を二人っきりにしたい乙女ゲーム仕様なんだと思う。
一年が基礎、二年は応用、そして三年は、実戦ーーー。
「マリア、本当に私なんかとペアでいいの?」
私は授業前、再度マリアに確認を取った。
「はい……私が、ティセちゃんと一緒にやりたいんです」
なんて可愛い笑顔で可愛いことを言ってくれるんだろう……また胸に恋の矢が突き刺さったような気がするーーーこれがヒロイン力!
「でも私、知ってると思うけど、攻撃魔法とか回復魔法、一切使えないよ?」
乙女ゲームの悪役令嬢って結構重要なポジションだと思うのに、このゲームの悪役令嬢は、とてつもなく弱い!!!
402
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる