4 / 17
4話 学園へ
しおりを挟む次の日、どこからか帰ってきたステラは俺達と合流した後にテッカンさんの工房へとやってきた。
「こ、これは――魔炎鋼竜の牙じゃねーか!」
「嘘、マジで!?」
「ステラ、これどうしたんだよ」
「少しツテがあってな。国庫に置いてあったから貰ってきた」
「そんな簡単に取って来れるのか」
「で、父ちゃん。これでコンテスト用の武器も作れるし、万々歳やん」
「……いや、これだけだと足りねぇ」
「はい?」
「ガッチンの野郎はこの竜の素材をある程度は自由に使えるはずだ。鱗や爪、髭や翼――竜は武具素材の宝庫と言ってもいい。だからこそあのアルマステンの解析が必要なんじゃ」
「その解析の進捗は?」
「まだ時間が欲しいが……だからステラとヨーイチには、もう1つだけ強い素材を探してきて欲しい」
「どういったモノを?」
「何らかのマテリアル鋼の最高品質のモノであれば……」
「アホか! そんな高いもんそうそう市場に出とるか!」
マテリアル鋼の事も調べたが、購入するにはやはり錬金術の工房へ直接出向いて頼むしかないか。
でも俺の手持ちじゃ全然足りなさそうだし、借金か……。
『マテリアル鋼は人為的な方法で精製する以外にも方法があります』
(え、どうするの?)
『先程のドワーフの言っていた通り、竜の肉体は天然のマテリアル鋼と言えます。生物由来の素材は、通常の金属と違い反発現象が起き難いとされます』
(でも竜なんかどこに居るか分かんないし……)
『かつて私の時代にマテリアル鋼を量産する計画がありました。岩や魔鉱石のみを食すよう改良し、体内で精製するモノでした。しかし精製には長い長い年月を掛けねばならず、計画は頓挫しました』
(ダメじゃん)
『しかしその時の実験生物が野に放たれています。当時の名前は魔鋼竜です。そしてそれは、この地にも居るはずです』
「居るはずって。テッカンさん知ってます? 岩や魔鉱石を好んで食べる生物……」
「あぁ? 岩や魔鉱石を好んで食べる……どっかで聞いた事ある特徴だな」
「いやそれ鉱山喰いやん」
「そうだ鉱山喰い……鉱山喰いか! その方法があったか!」
テッカンは部屋の奥へ引っ込み、1冊の分厚い本を持って帰ってきた。
「コイツは魔鉱石の取れる鉱山に住み着き、そこにある鉱石を根こそぎ食っちまう害獣だ。向こうから人を襲う事も無いし、1年の殆どを岩の中で寝て過ごす。そのあまりの硬さ故に一般冒険者じゃ文字通り歯が立たねぇから、討伐もほぼ無理な奴だ」
「……でも、ウチらドワーフなら別や」
「ルビィ。お前はすぐに他の工房の奴らに声を掛けてくれ、儂から話があると。鍛冶屋通りの広場だ」
「分かった!」
◇◆◇◆◇◆◇
それから数時間後の夜、広場にテッカンと共に俺達は居た。
テッカンの人望がどれほどあるのか――それはこれを見たら納得するしかない。
総勢100人ほどか。老若男女、ノーマン(人間)にドワーフや……エルフの職人なんてのも居るのか。
「テッカン! 帰って来てたんならすぐに声掛けろよな!」
「みんな済まなかったな! 儂が己の職人人生を掛けて王都へ行ったのは知っていると思うが、色々あって今はギリギリの所にいる」
ここでざわめく職人達――。
「その間にここの区域に大手武器工場が出来たせいで、鍛冶屋通りに今までの活気が失われつつある事も知っている」
それで妙に客が少なかったのか。
もしかして、俺が大通りで買った武器屋もそういう関係があったのかな。
「しかし、それを解決できる妙案がある。ドワーフの皆は昔……100年前くらいにやった鉱山狩りの事は覚えているな」
「おぉ、おぉ……まさかやるのか!?」
「今回も国に黙ってやる事にした。だから参加は強制じゃない……じゃが素材を持って帰る事が出来れば、鍛冶屋通りの新たな名物として売り出せる!」
「いいぜやろうぜ!」
「どうせ暇だしな!」
ドワーフ職人はみんな乗り気だ。他の職人、特に若い人らは良い顔をしてなかったが、反対する気は無さそうだ。
「出発は急だが明後日、西の鉱山へ行く!」
「「おぉー!!」」
◇◆◇◆◇◆◇
という事があって出発の日。
早朝、中央広場には30人ほどの職人達が集まっていた。各々の荷物を馬車に積み込み、計8台。これだけ多いと壮観である。
「って父ちゃんも着いて来るんか」
「当たり前だ。責任者の儂が行かんと示しが付かんだろう」
「解析は?」
「必要なもんは積んだ。現場近くに放棄された町があるはずだから、そこでやる」
「全部積み込んだ。出れるぞー!」
「よし。出発じゃー!!」
◇◆◇◆◇◆◇
西への街道を進むこと1日。途中から旧街道へ入りさらに1日進んだ所に目的の鉱山はあった。
道中、立て札で『この先、魔物が住み着いた鉱山。危険』と書かれているのをいくつか見つけるが、当然一団は気にせず進む。
町の入り口の封鎖を勝手に壊し、一団は街へと入った。
もう住民が居なくなり何年も経ったのだろう。中には朽ちてしまったような家屋もある。
かつてのメインストリートを通り、一団は鉱山の入り口へとやってきた。
「よしみんな。まずはお疲れ様じゃ! 本格的な探索は明日から行うから、各自準備を進めてくれ」
「「「うーすっ」」」
俺はキャンプ用のテントの設営をやったり、薪を集めるのを手伝ったりしていたのだが、何故だろう。どこからか視線を感じる気がする。
「ニーアはどうだ」
『不明。私のセンサーには、何も感知しておりません』
「……気のせいかな」
ちなみにニーアのセンサーはそこまで広くはない。俺を中心に200mくらいだ。あまり広すぎると拾う情報が増えすぎて処理が難しくなるらしい。
向こうの方では、既に職人達の笑い声が聞こえる。
「あの人達、今晩も酒ばっか飲むんだろうなぁ」
480
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる