悪役令嬢に転生した私は、ストーリー通り婚約破棄されたので、これからは好きに生きていきます

光子

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3話 乱暴な来訪者

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「そうですわ。婚約を取りやめたいにしても、やり方があるでしょう。わざわざ全校生徒の前で、見世物のように婚約破棄を告げるなんてーーー紳士のすることではありません」

 次に会話に入ってきたのは、お母様。お母様はお父様とは違い落ち着いているように見えるけど、内心は凄く怒っているみたい。

「それはーーーそうですね!」

 何故、皆の前で婚約破棄を?ゲーム仕様だからと何も気にしていませんでしたけど、何故学園で、始業式で、全校生徒の前で婚約破棄を?せっかく始業式の前に長いお休みがあったんだから、その時に婚約破棄を告げに来たら良かったのに……。

「王家には娘を侮辱した件で正式に抗議します。その上で、サステナ王子との婚約は破棄すると伝えます」

 結果的にサステナ王子と婚約解消出来るなら……それでもいいか。あんな場所で大々的に婚約破棄を告げたのはサステナ王子の判断ですし、ゲームの中の私はマリアヒロインを虐めていましたけど、今の私は虐めていません。全くの無罪ですしね。その点は罰を受けて頂きましょう。

「それにしても……ティセの様子を見るに、本当にサステナ王子が好きでは無くなったのね。昔の貴女なら泣きじゃくって、『どんな手を使ってもいいから、婚約破棄を取り消して!』なんて言ってきたでしょうに」

 言いそう……でも、ゲームの中の私は本当に聖女を虐めていて、それが大きな問題になって、家にも迷惑をかけちゃうんだよね……。没落とまではいかないけど、爵位は落とされるし、影響力は弱くなるし、後ろ指さされるし、大変な事になった。
 娘に激甘で、溺愛し過ぎたばかりに悪役令嬢が誕生してしまったわけだけど、私にとっては、いつでも優しく、どんな時も私の味方でいてくれた、優しい両親。迷惑をかけることにならなくて良かった。

「私は本当に大丈夫なので、お気になさらないで下さい!心配してくれてありがとう、お父様、お母様」

「ティセ…!」
「ああ!なんて良い子なんだ!昔の甘えた感じも可愛かったが、今もとても可愛いよ!」

 お父様には、昔の傍若無人な我儘が、甘えたに映るんですね。溺愛って怖い。


「それに私、他に好きな人が出来たんです!」
「!!」

 私の発言に、後ろで待機しているウィルが大きく体を揺らした。

「まぁ、そうなの?お相手は誰?」
「お父様がまた婚約を取り付けてきてあげよう」

「私の好きな人はーーーウィルです!」

「「ーーーー」」

 ダイニングルーム全体が、一気に静寂に包まれた。
 あれ?何で?どうしたのでしょう?

「ウィルって……うちの執事の?」
「はい!」

 お母様の問いかけに、満面の笑みで自信満々に胸を張って答える。

「あ、でも、今度はお父様が婚約を結ばなくても大丈夫ですよ!実力で、両想いになってから、婚約を結んでみせます!」

「そーーーそうか」

 視線を向けられたウィルは、お父様と視線を合わさないように、目を逸らした。
 もしかして両親に話したらいけなかったのかな?恋をしたら、真っ先に教えなさいと教え込まれていたから、両親に伝えるのは当然のことだと思っていたんだけど……。前世でも片思い含め、恋愛経験全く無いので、正解が分かりませんね。



 ***

 ティセ自室ーーー。

 夕食を終え、入浴も済ませ、明日の学校の準備も完璧。無事に婚約も無くなりましたし、これで一安心です。
 ホッとした気持ちのまま、私はベットに背中から倒れ込んだ。

 私、明日からも学校ーーー行っていいんですよね?

 ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。
 ゲームでは、この後から悪役令嬢の出番は一切無い。

 でも別に退学したなんて描写も無かったし……多分、ヒロインや攻略対象キャラに関わらないようにひっそりと学園に通ったはずーーーですよね。うん、そうに違いない。だったら私も、これからはヒロインや攻略対象キャラに見つからないように、ひっそり学園生活を過ごせば良いだけ。
 うんうん、我ながら上手くいっていますね。

 トントン。

「はい」

 ノックの音が聞こえて、私はベッドから起き上がると、扉を開けた。

「むぐっ」

 口を押えられ、部屋に押し入られると、扉が閉まった。

「静かにして下さい、ティセお嬢様」
「ふぐふぐ(ウィル)!」

 口を押えられたまま、私は乱暴な来訪者の名前を口にした。

「よくもやってくれましたね、新手の嫌がらせか何かですか?主人や奥様にまで、あんな世迷いごとを言われるなんてーー」
「ふがふが!ふが!(世迷いごとじゃありません!本心です!)」

「おかげでこっちは、こんな時間まで夫婦の部屋に呼び出されて、明日からティセお嬢様の送迎やら命じられましたよ!」

「ふがー!(本当?嬉しいー!)」

「……悪ふざけは本当に止めて欲しいんですけどね」

 ウィルはそう言うと、口を押えたまま、私の首筋に顔を埋めた。

「んん?!」

 首筋に舌を這われているのが分かる。変な感触。


「ーーーこれで懲りたでしょう?これ以上変なことされたくないなら、主人と奥様に冗談だったと伝えてーーー」

 ウィルは最後まで言う前に、私の顔を見て言葉を止めた。
 きっと、彼は私は嫌がって、涙を浮かべているとでも想像していたのに、私が顔を真っ赤にして、恥ずかしそうな乙女な反応をしているから、戸惑ったのかもしれない。

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